リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

強制不妊「尊厳踏みにじる」 賠償認めず、他訴訟に影響も

日本経済新聞 社会・くらし 2019年5月28日 19:22

画期的だった「リプロダクティブ権」の判決

仙台地裁は28日、障害者らに不妊手術を強制した旧優生保護法を「違憲」とする判断を言い渡した。「尊厳を踏みにじるもので誠に悲惨」。判決は人に優劣を付け、子を産む道を奪った旧法を厳しく批判する一方で、請求権の消滅を理由に賠償を命じなかった。国の救済遅れも認めなかった地裁の判断は原告側に厳しい内容で、同種の訴訟に影響する可能性もある。


 旧優生保護法下での強制不妊手術を巡る訴訟の判決を受け、「不当判決」と書かれた垂れ幕を掲げる原告側弁護士(28日午後3時2分、仙台地裁前)=共同
訴訟は、(1)旧法が違憲か(2)国に賠償責任があるか(3)救済立法の遅れは違法か――が争点だった。

原告側は生殖に関する自己決定権(リプロダクティブ権)は幸福追求権を規定する憲法13条で保障されていると主張。判決は「不良な子孫の出生を防止するという不合理な理由で子を望む者の幸福を一方的に奪った」「何人もリプロダクティブ権を奪うことは許されない」と強調し、旧法を憲法13条違反と断じた。

だが、国の賠償責任については認めなかった。不法行為から20年で賠償を求める権利がなくなる民法の「除斥期間」の規定をふまえ、原告の手術から20年以上が過ぎており、請求権は消滅したと判断。原告側は差別への懸念から被害を明かせなかった社会情勢などに考慮し、除斥期間を適用すべきではないと主張したが、判決は「除斥期間の適用は憲法違反ではない」として退けた。

2019年4月、被害者に一時金320万円を支給する救済法が成立。原告側は04年、当時の厚生労働相が「(救済を)今後、私たちも考えていきたい」と国会で答弁してから3年後の07年には救済制度を作るべきだったとし、早期救済を怠った「立法不作為」も訴えた。

判決は、手術から20年が経過する前に「請求権を行使するのは現実的には困難だった」と認めつつも「具体的な賠償制度の構築は国会の立法裁量に委ねられている」と指摘。リプロダクティブ権を巡る法的議論の蓄積の少なさなどに触れ、「現時点で立法措置が必要不可欠であることが明白だったとは言えない」と国の不作為は認めなかった。

中島基至裁判長は判決言い渡しの最後で「平成の時代まで残った優生思想が克服され、令和の時代は差別なく、生きがいが尊重される社会となるように」との言葉を付け加えた。