リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

1970年代の日本は中絶薬先進国だった!

なぜ「世界初の妊娠初期中絶薬」の栄光を手放したのか?

このところ、国内の中期中絶薬のことを調べていた。

そもそものきっかけは「”経口”妊娠中絶薬」という言葉について、取材に訪れた記者に質問されたことだった。「経口と言うのは、水で飲むから。”経腟”で使う既存の中期中絶薬と区別するため。『初の中絶薬』と言ってしまうと嘘になるから」

さらにその記者から「中絶薬が使われている比率」についても質問され、たまたまその前の日に目にしていたアメリカのテレビ番組で提示されていた中絶薬使用率「アメリカ54%、イギリス98%、スウェーデン94%」(数字は記憶で不正確かも……)を思い出した。取材の後で、イギリスはともかく、どうしてスウェーデンが言及されているのだろうと、改めて関心を持った。

そこで少し調べてみたら、ほどなく「スウェーデンの中絶」と題した英訳された博士論文が見つかった。中絶薬というと1980年代のフランスの話ばかりだが、実はスウェーデンでは1960年代から研究が始まっており、70年代にはWHOの中絶薬プロジェクトもあったのだという。しかも、そのプロジェクトに日本が参加していたこと、ONO(小野薬品工業)の名が出てくることに気が付いた。

さらに調べていったら、小野の開発した中絶薬がPubmedで何百件もの論文に「開発名」で出てくることを知った。最初の言及は日本人が書いた英語論文で1977年。初期妊娠中絶で95%もの成功率を収めている。

これにはびっくりした! なぜ、これほどの成功率を収めた薬が広まらなかったのか……少なくとも、もっと研究されてより良い薬として世界にデビューしなかったのか……と。

実は少し前に、小野薬品工業から資料を取り寄せていた。いずれこちらの「中絶薬」についても調べなければならないだろうと思っていたからだ。その資料とオンラインの情報を照らし合わせていった……。

ほどなく分かったのは、その薬というのが現在日本で中期中絶に使われているプレグランディン(成分名ゲメプロスト)だということだ。開発名は日本語からは一切消えている。しかも、この薬が「中期」に限定されていった経緯も透けて見えてきた……。

9月28日の#もっと安全な中絶をアクションのイベントで、「中絶薬」の説明に私が費やせる時間は5分間だけ。

なので翌29日にオンラインで急きょメディア・ブリーフィングを行えないかと考えている。人が集まらなくても録画して公開すればいいのだから。

ガラパゴス化しているのは「搔爬」だけではなかった。日本は「中絶後進国」だと思ってきたけど、実際には「中絶薬先進国」を自ら降り、ガラパゴス化する道を選んだのだ。何のために……? そのために何が生じてきたのか……? そしてこの道を正すために、私たちはこれから何をしていくべきなのか? 

問題提起したい。