リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

「経済的理由」の中絶について

優生保護法時代に作られた合法的中絶の事由のひとつ

1948年に成立した法律では民生委員などを含む審査会で当人の事情を調べることになっていました。ところが1949年に経済条項を追加、1952年に審査制を廃止したことで、医師一人の認定で中絶できるようになったことが問題の発端です。


しかもその審議の際に優生保護法案の立案者であった谷口弥三郎は何度も速記を止めさせており、どのようにして他の議員を説得したのかの記録が残っていません。


このブログの過去ログにも情報があります。医師が「経済的理由」を認定することについては、以前から争いがあったのです。
https://okumi.hatenablog.com/entry/2022/05/03/190412


https://okumi.hatenablog.com/entry/2020/06/09/175402


①では以下の日産婦誌59巻3号研修コーナーで「経済的理由の認定基準として、昭和28年(1953年)厚生事務次官通知が引用されている」ことを指摘しています。


診療の基本 母体保護法(2007年日産婦誌59巻3号研修コーナー)


④『指定医師必携』(公益社団法人日本産婦人科医会 平成31年3月改訂)の中に、以下の記述もみられます。

9.人工妊娠の適応
(2)経済的理由の認定基準
 法第14条には「経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの」となっているように、経済的理由は母体の健康がおこなわれるおそれがあるための一要件である。
 医師による「経済的理由」の判定は甚だ困難であるが、厚生省の運用通知(平成8年9月25日事務次官通知)には、この条項について次のようにされている。
 「経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの」とは、妊娠を継続し、又は分娩することがその者の世帯の生活に重大な経済的支障を及ぼし、その結果母体の健康が著しく害されるおそれのある場合をいうものであること。したがって、
1)現に生活扶助、医療扶助だけを受けている場合
2)上に該当しなくとも、妊娠又は分娩によって生活が著しく困窮し、生活保護法の適用を受けるに至るような場合
がこれに当たるものである。
 1)の場合は明らかに認定できるが、その他の場合は指定医師において正確に判断することは困難である。指定医師として本条項の趣旨に反しないようにするためには、経済的状況などを聴取し、人工妊娠中絶を受ける者が妊娠・分娩によって、如何なる経済的支障を受けるおそれがあるかを記載しておく。

ただし引用部分は、元の通知(https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta9675&dataType=1&pageNo=1)と文言は厳密に同じではありません。


⑤国会議事録(第63回国会 参議院 社会労働委員会 第8号 昭和45年3月31日)に付せられた請願の中に以下の文言がみられます(左下)
https://kokkai.ndl.go.jp/#/detailPDF?minId=106314410X00819700331&page=5&spkNum=25¤t=1

優生保護法は、第14条第1項第4号で「経済的理由」による人工妊娠中絶を認め、しかも医師一人の判断によって経済的事情を認定するというザル法になっている