経済的理由は後で付け加えられた
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法律第百五十六号(昭二三・七・一三)
第一章 総則
(この法律の目的)
第一条 この法律は、優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するとともに、母性の生命健康を保護することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律で優生手術とは、生殖腺を除去することなしに、生殖を不能にする手術で命令をもつて定めるものをいう。
2 この法律で人工妊娠中絶とは、胎児が、母体外において、生命を保続することのできない時期に、人工的に胎児及びその附属物を母体外に排出することをいう。
配偶者の同意は最初からあった。
第三章 母性保護
(任意の人工妊娠中絶)
第十二条 都道府県の区域を単位として設立せられた社団法人たる医師会の指定する医師(以下指定医師という。)は、第三条第一項第一号から第四号の一に該当する者に対して、本人及び配偶者の同意を得て、任意に、人工妊娠中絶を行うことができる。
2 前項の同意には、第三条第二項の規定を準用する。
(人工妊娠中絶の審査の申請)
第十三条 指定医師は、左の各号の一に該当する者に対して、人工妊娠中絶を行うことが母性保護上必要であると認めるときは、本人及び配偶者の同意を得て、地区優生保護委員会に対し、人工妊娠中絶を行うことの適否に関する審査を、申請することができる。
一 別表中第一号又は第二号に掲げる疾患に罹つているもの
二 分娩後一年以内の期間に更に妊娠し、且つ、分娩によつて母体の健康を著しく害する虞れのあるもの
三 現に数人の子を有している者が更に妊娠し、且つ、分娩によつて母体の健康を著しく害する虞れのあるもの
四 暴行若しくは脅迫によつて、又は抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて、妊娠したもの
2 前項の申請には、同項第一号から第三号の場合にあつては他の医師の意見書を、同条第四号の場合にあつては民生委員の意見書を添えることを要する。
3 第一項の同意は、配偶者が知れないとき又はその意思を表示することができないときは本人の同意だけで足り、本人が心神喪失の状況にあるときは後見人又は保佐人の同意をもつてこれに代えることができる。
(人工妊娠中絶の審査)
第十四条 地区優生保護委員会は、前条第一項の規定による申請を受けたときは、命令の定める期間内に、同条第一項に規定する要件を具えているかどうか及び未成年者についてはその同意が他から強制されたものでないかどうかを審査の上、人工妊娠中絶を行うことの適否を決定して、その結果を、申請者に通知する。
(人工妊娠中絶の実施)
第十五条 指定医師は、前条の決定に従い、人工妊娠中絶を行うことができる。
第四章 優生保護委員会
(優生保護委員会)
第十六条 優生手術及び人工妊娠中絶に関する適否の審査その他この法律で定める優生保護上必要な事項を処理するため、優生保護委員会を置く。
(種類と権限)
第十七条 優生保護委員会は、中央優生保護委員会、都道府県優生保護委員会及び地区優生保護委員会とする。
2 中央優生保護委員会は、厚生大臣の監督に属し、主として優生手術に関する適否の再審査を行う外、この法律で定める優生保護上必要な事項を処理する。
3 都道府県優生保護委員会は、都道府県ごとにこれを置き、都道府県知事の監督に属し、優生手術に関する適否の審査を行う。
4 地区優生保護委員会は、保健所の区域ごとにこれを置き、都道府県知事の監督に属し、人工妊娠中絶に関する適否の審査を行う。
(構成)
第十八条 中央構生保護委員会は委員三十人以内で、都道府県優生保護委員会は委員十人以内で、地区優生保護委員会は委員五人以内で、これを組織する。
2 各優生保護委員会において、特に必要があるときは、臨時委員を置くことができる。
3 委員及び臨時委員は、医師、民生委員、裁判官、検察官、関係行政庁の官吏又は吏員その他学識経験ある者の中から、中央優生保護委員会にあつては厚生大臣が、都道府県優生保護委員会及び地区優生保護委員会にあつては都道府県知事が、それぞれ、これを命ずる。
4 各優生保護委員会に、委員の互選による委員長一人を置く。
(委任事項)
第十九条 この法律で定めるものの外、委員の任期、委員長の職務その他優生保護委員会の運営に関して必要な事項は、命令でこれを定める。
第五章 優生結婚相談所
(優生結婚相談所)
第二十条 優生保護の見地から結婚の相談に応ずるとともに、遺伝その他優生保護上必要な知識の普及向上を図つて、不良な子孫の出生を防止するため優生結婚相談所を設置する。
(配置)
第二十一条 優生結婚相談所は、都道府県に少くとも一箇所以上、これを設置する。
2 優生結婚相談所は、保健所に、これを附置することができる。
(設置の認可)
第二十二条 国以外の者は、優生結婚相談所を設置しようとするときは、厚生大臣の認可を得なければならない。
2 前項の優生結婚相談所は、厚生大臣の定める基準によつて医師をおき、検査その他に必要な設備をそなえなければならない。
(名称の独占)
第二十三条 この法律による優生結婚相談所でなければ、その名称中に、優生結婚相談所たることを示す文字を用いてはならない。
(委任事項)
第二十四条 この法律で定めるものの外、優生結婚相談所に関して必要な事項は、命令でこれを定める。
Gender Historyというサイトに三成美保さんの解説がある。
【史料】優生保護法(1948年)成立当初の条文
≪ポイント≫「経済的理由」の追加(ただし意見書が必要=自由に中絶はできない)
第十三条第一項中第一号から第三号までを次のように改め、第四号を第三号とする。一 本人又は配偶者が精神病又は精神薄弱であるもの
二 妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害する虞れのあるもの
同条第二項を次のように改める。
2 前項の申請には、同項第一号の場合にあつては他の医師の意見書を、同項第二号の場合にあつては身体的理由によるときは他の医師の、経済的理由によるときは他の医師及び民生委員の意見書を、同項第三号の場合にあつては民生委員の意見書を添えることを要する。
同条第三項を次のように改める。
3 第一項の同意には、第三条第二項の規定を準用する。
4 本人が心神喪失の状態にあるため、その意思を表示することができない場合において、親権者、後見人又は保佐人があるときは、親権者、後見人又は保佐人の、親権者、後見人又は保佐人がないときは、親族の同意をもつて本人の同意に代えることができ、そのいずれもないときは、本人の同意を必要としない。
【解説】1952年改正のもっとも重要なポイントは、1949年改正で追加された妊娠中絶要件である「経済的理由」(14条4号)が容易に使えるようになったことである。地区優生保護審査会の認定が不要とされたために、事実上、妊婦が一人で申し出ても中絶が可能となった。このため、1950年代には、年間の中絶件数が100万件を上回るほど多くなり、日本は「中絶天国」と揶揄されるようになった。しかし、法律上は、配偶者の同意が必要であること、14条に挙げる要件のいずれかに該当しないと中絶ができないことなどから、女性の自己決定権としての中絶が認められたわけではないことに注意が必要である。(三成)