リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

第63回国会 参議院 予算委員会 第5号 昭和45(1970)年3月23日

重要な国会答弁

法務大臣、文部大臣、労働大臣、厚生大臣、総理大臣にそれぞれ質問し、「人口問題」に関して道筋を付けているのはある種凄い。

132 白井勇(自民党
 次に、私は、いま問題となっており、またこれから非常にわれわれとしましては考えなきゃならぬと思っておりまする日本の人口問題に触れてみたいと思うのであります。総理にお尋ねをいたします前に、現状をお尋ねする意味合いにおきまして、まず法務大臣にお尋ねをしたいと思いまするが、現在、刑法の第二十九章に堕胎罪というものの規定がありまして、一方、また優生保護法というものがあり、特にその必要ありまするものは、人工中絶手術というものが認められると、こういうふうになっておるわけでありまするが、現在のこの優生保護法の運用の実態からいたしまして、刑法の第二十九章のいわゆる堕胎罪に問われるものというものは、ほとんどこれは適用がないような実態であると、こういうふうに私は聞いておりまするが、その実態はいかがなものでありましょうか。


133 小林武治(自民党 法務大臣
 人工中絶というものはよくないことだと、こういうことで刑法に堕胎罪の規定がございますが、優生保護法というものができまして、母体の保護以外に、経済上の理由によっても人工中絶ができると、こういうふうな規定ができましたために、刑法の堕胎罪は、要するにもう空洞化されたということでこの設定がそう意味がないということにまでいま変貌してきておるのでありまして、最近五カ年間におきましても、堕胎罪でいわゆる検察庁に来た者は、年に平均して十件もない、四十一件しかない、しかもそのうちの起訴は十一件しかないと、こういう状態でありまして、この問題に対する世論と申しますか、そういうものも相当変わってきたことは事実でありますが、優生保護法によっていわゆる堕胎という罪はほとんどいまでは意味がなくなってきておると、こういうことでありまして、これがよいか悪いかということは、いろいろの点から再検討すべき時期にきておると、こういうふうに考えております。


134 白井勇
 同じ問題でありまするが、文部大臣にお尋ねいたしたいと思いまするが、まあ私から申し上げるまでもなしに、性道徳の退廃あるいは青少年の非行というようないろいろな問題が重なり合っておるわけでありまして、この原因もこれはもちろんいろいろあろうかと思いまするが、やはり現行の優生保護法の欠陥というものが一つの原因であるというように世間では言われておるわけでありまするが、これに対しまする文部大臣の御見解はいかがなものでありましょうか。


135 坂田道太自民党 文部大臣)
 この問題につきまして、直接私いろいろ聞いてはおりませんが、しかし、やはり戦後かなり青少年の肉体的発達というものがよくなりまして、また同時にモラールが欠除した。それには戦争の結果もございましょう。おとなが自信を喪失したということもございましょう。あるいは学校教育の中におきまして、知的教育に重点が置かれて、むしろそのような道徳的心情を養うとか、あるいは健全な肉体的なスポーツというようなことを含めました全人的教育ということについて、学校教育においても、また家庭教育においても、あるいは社会一般においても、その辺についての欠くるところがあったのではないだろうかということが考えられるわけでございまして、十分われわれといたしましても考えていかなきゃならない。それからまた同時に、いま申し上げましたように、女子の体位がかなりすばらしく向上したと申しますか、そういうことで早く成熟をする。したがいまして、小学校の後期から、あるいは中学校に入ります段階におきますまあ純潔教育というようなことにつきましても、いま少し積極的な指導が行なわれなければならないんではないかというふうに考えておるわけでございます。ただ具体的にこれを進めてまいります場合におきましては、なかなか先生方の指導ということが非常にむずかしいわけでございまして、私どものほうではその手引き書というものも従来からつくり、また指導をいたしておりますわけでございますが、今後とも十分気をつけてまいりたいというふうに考えております。


136 白井勇
 同じようなことでありまするが、労働大臣に、労働力の確保の面から見まして、まあこれは申し上げるまでもなしに、労働人口というのは増加が減って年間百万を割っておると、こういうまことに憂慮すべき事態になり、いろいろ労働省とされましては、労働力の流動化でありまするとか職業訓練でありまするとか機械化でありまするとか、たいへんな御努力をなすっていらっしゃるようでありまするが、やつ。はり問題は人そのものがふえなきゃならない事態であろうかと思いまするが、先ほど来話のありまする優生保護法というものの運用におきましてあまりにもルーズであるというような面がこの労働力確保上からどういう影響を与えておりまするものか、その点を承りたいと思います。


137 野原正勝自民党 労働大臣)
 お答えいたします。
 日本の今日の経済成長、繁栄のもとは、たくさんの国民の人たちが非常な勤勉努力の結果であります。したがいまして、労働力が存在をし、これが十分に活用される限りにおいては、日本の経済の発展は今後も力強く進んでいくことは期待できるのでございますが、しかし、最近におきましては、労働力がだんだん不足を来たしまして、この問題に対しましては、いまのところまだ十分に活用の余地がございます。また同時に、ある程度むだづかいもございます。こうした問題につきまして、われわれは労働力の活用をはかり、あるいは新しい開発の方法を講じまして、労働力を十分に確保していこうという体制を進めておりますけれども、将来にわたって考えまするというと、御指摘のような日本の人口資源が非常に減少していくという傾向、まことにこれは寒心にたえない次第でございます。したがいまして、長期的展望から見るならば、やはり日本の人口がどんどん減っていくというような現象は、これは将来の日本経済の成長発展に障害になる事態がくるであろうと、そういう点で、これは直接のお答えになるかどうかわかりませんが、優生保護法なり、人口問題につきましては、真剣に考えていく必要があろうかと考えております。


138 白井勇
 これに関連いたしまして、厚生大臣のお考えを承りたいと思うんでありますが、たしか二十三年にあの法律が制定されたと思いまするが、二十四年、二十七年と議員修正に相なりまして、経済事情というようなものが入ってまいり、しかも従来でありまするならば、民生委員の承認を要し、したがって審査会も必要であったというようなことすらも二十七年の改正によって削除をされたと私は記憶をいたしておりまするが、こういう姿で、はたしてこの優生保護法というものが目的といたしまするような姿で運営されるようなかっこうになるものであるか、ただ労働力確保というような問題だけじゃなしに、これは人間尊重、人命を何よりも大事にしなきゃならない、こういう観点からいたしましても、この優生保護法というものを何らかのかっこうで是正をする必要があるように私たちは思うのでありまするが、この点につきまして所管大臣でありまする厚生大臣のお考えをお聞きをいたしたいと思います。


139 内田常雄(自民党 厚生大臣
 優生保護法は、ただいま白井先生からお話がありましたように、終戦後間もない昭和二十三年の議員立法でございます。それから、同じく昭和二十四年、七年にこれまたお示しのような議員修正による改正によりまして、手術の手続の簡素化が行なわれたまま今日に至っておりまして、その間、社会経済情勢のかなりの私は変化もあると考えるものでございますが、最近各方面にこれに対する再検討の動きもございますので、厚生省におきましても現年度——昭和四十四年度の予算で現在中絶についての実態調査をいたしまして、集計中でございます。また、一方、総理府にもお願いをいたしまして、既婚婦人につきましてこの課題についての世論調査を取りまとめ中でございますが、これも近くまとまるはずでございますので、これらの結果をも参照いたし、またこれが先ほど申しますように、国会立法、国会修正の経緯もございますので、国会方面における動きなども十分見きわめまして対処をいたしてまいりたい所存でございます。


140 白井勇
 最後に、このことにつきまして総理のお考えも承っておきたいと思いまするが、最近の日本の人口の増加率というものが非常に低調になってきた、このままでまいりまするというと、ある説によりまするというと、もう三百年もたちますというと日本人というものはこの地球から消えてしまうのじゃないかと、こういうような見方もあり、一方、日本というものは堕胎天国であるというような外人の悪評すらもある姿であります。これは、人間尊重を第一に考えていらっしゃいまする総理とされますれば、これはもちろん許すべきものでない、こうお考えになっていらっしゃると思いまするが、いま厚生大臣がおっしゃいますとおり、いろいろ検討いたしまして対策を講ぜられるようなお話でございまするが、なお、この点につきまして総理のお考えを承っておきたいと思います。


141 佐藤榮作自民党 総理大臣)
 生命、これは大事にしなければいかぬというそれは生まれて後も、もう胎児のときから大事にするというその考えでなければならないと思います。私自身は別に宗教家ではございませんが、しかしこれ、やはりその生命を大事にするというそれがすべての基本ではないだろうかと、かように思っております。そういう意味で、堕胎天国というこれは、まことに残念な言われ方だとかように思いますので、こういうことのないようにはしたいものだと思っております。まあ国内の問題、性——セックスの問題、それの乱れがただいまあらゆる方面に悪影響を及ぼしている、これが指摘できるのじゃないだろうか、かように思いますので、この性道徳を守るという、そこに基幹が一つあるだろう、これはとりもなおさず生命を大事にするという、命を大事にするという人間尊重、その理念からこれは当然守られなければならぬことではないか。かように私は思っております。まあ労働人口がどうだとか、あるいは日本人がいなくなるのじゃないかとか等々の御指摘よりも、いまの問題がわれわれ生活の基幹になる、基本だと、かように考えて、これは重要視すべき問題だと、かように私考えております。