リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

指定医師のアンダーコントロールにある日本の中絶(1)

連載にしてみます

 日本の中絶の大多数が妊娠12週未満の初期中絶の段階で行われている (図1)。長年、日本の初期中絶では、外科的処置による人工妊娠中絶(以下、中絶とする)しか手段がなかったが、2021年12月に経口中絶薬の承認申請が行われ、1月の厚生労働省(以下、厚労省)の専門家部会で「承認が了承」された。現在2月末までパブコメが実施されることになった。その結果を踏まえて、3月に再び審議されるという。

図1中絶時の妊娠週数(令和4年衛生行政報告例より)

 そこで今回は、日本の中絶ケアが改善されてこなかった事実と、その裏にある「指定医師」の思惑を明らかにしたい。そうした思惑によって、今回、経口中絶薬の取扱いが利用者にアクセスしにくいものになる恐れがあるとの警鐘を鳴らし、パブコメでどのように声を上げていくべきかを提案したい。_


 従来の中絶のほとんどが外科的中絶だと先に述べたが、2019年の1年間に行われた人工流産(中絶)の調査結果で、その内訳が示されている 。この調査の分類を「搔爬を使用しているかどうか」に着目して、「搔爬単独」、「搔爬と吸引の併用」、「吸引単独」で分けると図2の通りになる。

図2.妊娠初期の人工流産(中絶)方法 高井・中村(2021)のデータを加工

搔爬は、単独で行われる場合(32%)と電力吸引機または手動吸引器で行われる吸引と併用される場合(36%)があり、搔爬法を用いずに吸引単独で行われている比率(32%)は、2012年調査の2割程度に比べて増えたとはいえ、まだ全体の3分の1弱にすぎない。未だに単独または併用で「搔爬」を用いているケースが7割近くを占めている。
 ところが、この搔爬(海外ではD&C)という方法は、WHOが2003年のガイドライン『安全な中絶』で「真空吸引や薬による中絶方法が利用できない場合にのみ使用されるべき」と位置づけたものである。さらにWHOは2012年の『安全な中絶第2版』で、D&Cは「真空吸引法よりも安全性に劣り、女性にかなり大きな痛みを強いる」とし、D&Cが「いまだに行われているならば、安全性及び女性にとってのケアの質を向上するために、真空吸引に切り替えるようあらゆる可能な取組みを行わなければならない」と切迫した警告を発していた。
 ところが日本ではどのような「中絶方法」が使われているかの調査も全く行われてこなかった。そこで2010年に私を含む金沢大学の研究者たちが初の実態調査を行い、初期中絶の実に8割で「搔爬」が使われていることを明らかにし、朝日新聞にその結果が載った。その後、医師たちも2012年、2019年の2回にわたって調査を実施したのだ、19年の段階でも搔爬使用はまだ約7割を占めている。こうした実態の一方、2021年7月に、日本の厚生労働省子ども家庭局母子保健課はようやく動いたのだが、この時も、国内の産婦人科2団体に対して「人工妊娠中絶等手術の安全性等について(依頼)」を出し、WHO が推奨している電動式または手動式の「吸引法」を会員に周知するよう「協力をお願い」したのみだった。後の院内集会で対策を取ったのかと質問したが、厚労省母子保健課からは何もしていないとの回答を得ている。2022年3月のWHOの『中絶ケア ガイドライン」でも、搔爬法(海外ではD&C)を「使用しないことを推奨する」と明記されている。中絶薬を導入することも大切だが、搔爬をいかに減らしていけるかということも、日本の指定医師たちの大きな課題の一つである。