リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

京都新聞 社説:飲む中絶薬 女性の健康と権利、尊重を

2023年2月26日 16:00

社説:飲む中絶薬 女性の健康と権利、尊重を|社会|社説|京都新聞

 国内で初めて飲み薬の妊娠中絶薬の製造販売承認を、厚生労働省の部会が了承した。早ければ3月にも正式に承認される可能性がある。

 日本では手術による中絶が一般的で、海外に比べて薬の導入の遅れが指摘されてきた。承認されれば、女性の心身の負担を軽減する新たな選択肢となることが期待される。
 安全性を十分見極めながら、希望する人に届けられる体制を整えたい。

 審議されている中絶薬は、英製薬会社が一昨年に国に承認申請していた。妊娠9週までを対象とし、妊娠継続に必要なホルモンを抑える1剤目を服用し、36~48時間後に子宮を収縮させる2剤目を服用する。臨床試験では、服用後24時間以内に93%の成功を確認したという。

 中絶薬は、1998年にフランスや中国で承認され、現在は世界70カ国以上で使われているとされる。

 だが、日本では子宮内から金属製器具を使ってかき出す「掻爬(そうは)法」が続けられている。

 世界保健機関(WHO)が2012年に、母体を傷つける恐れがあり、安全性に問題があって「時代遅れ」だと指摘している。飲み薬の承認は、遅すぎたと言わざるを得ない。

 厚労省は、服用後の急な体調変化などに備え、当面は有床医療機関で使用することを条件にする見通しという。日本産婦人科医会も、当初は入院可能な施設での使用を求めている。

 緊急時の対応のほか、オンライン診療も含めた相談、カウンセリングなどで、安心して服用できる体制を整えるべきだ。

 薬の値段に関しては、自由診療のため、十数万円以上になることが多い手術と同程度になる可能性が懸念されている。

 高額で入院も必要となれば、希望に反し、日帰りできる現行の手術を選ぶ人も出かねない。

 海外では平均卸値が千円程度とされ、オランダなど一部の国では公費負担もある。医師や研究者らでつくる団体は、自己負担が高額にならないよう求めている。

 日本の中絶を巡る取り組みが後回しになってきた背景には、刑法の堕胎罪に起因した根深い懲罰意識があると、専門家から指摘されている。男性医師が大半を占める医療現場も、改善を怠ってきたのではないか。

 母体保護法も、中絶には本人と配偶者の同意が必要としていることが、大きな障壁となっている。薬も同様の扱いになるとみられる。

 WHOは同意要件の廃止を求めている。国連国際人口開発会議は、産むか産まないかを決める権利を女性の基本的人権に位置づける「性と生殖に関する健康と権利」(リプロダクティブ権)を提唱している。

 自分の健康と人生設計について自ら決めるのは当然だ。中絶に関しても、女性の意思が尊重されるよう、法改正の議論も求められる。

 学校などでの適切な性教育などを通じて、妊娠や中絶について男女がともに学び、考えることが重要だ。女性だけの問題にしてはならない。