リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

優生保護法案提出時の谷口弥三郎の発言から(深堀りも含む)

1948年 谷口弥三郎による法案提出の説明


第2回国会 参議院 厚生委員会 第13号 昭和23年6月19日

 我が國は敗戰によりその領土の四割強を失いました結果、甚だしく狭められたる國土の上に八千万からの國民が生活しておるため、食糧不足が今後も当分持続するのは当然であります。総司令部のアツカーマン氏は「日本の天然資源は必ずしも貧弱ではないが、未だ十分開発利用されていない。併し山岳溪谷に富んでいるから、灌漑と発電の惠沢大きく、漁場にも惠まれているので、科学を発達利用すれば、八千万人口までは自給自足し得るも、それ以上は困難である」と言つております。現在我が國の人口は昨年十月一日調査では七千八百十四万人余、本年の人口自然増加は百二十万人、本年度の引揚者総數は七十万人となつておりますので、その総計は八千四万人となり、すでに飽和状態となつております。
 然らば如何なる方法を以て政治的に対処するか。第一に考え得ることは移民の懇請でありますが、毎年百万人以上の移民を望むことは到底不可能と思われますので、その幾分かずつでもよろしいから大いに努力して懇請すべきであります。第二の対策は、食糧の増加を図るため未開墾地を開拓し、尚水産漁業の発達を促し、増産方面に全力を盡すべきであります。第三の対策として考えらるることは産兒制限問題であります。併しこれは余程注意せんと、子供の将來を考えるような比較的優秀な階級の人々が普通産兒制限を行い、無白覺者や低脳者などはこれを行わんために、國民素質の低下即ち民族の逆淘汰が現われて來る虞れがあります。現に我が國においてはすでに逆淘汰の傾向が現われ始めておるのであります。例えば精神病患者は昭和六年約六万人、人口一万に対し九・九八、昭和十二年約九万人、人口一万に対し一二・七七、失明者も同樣で、昭和六年七千六百人、うち先天性が二千二百六十人、昭和十年は六千八百人で、うち先天性が四千二百三人という状態に増加し、又浮浪兒にしても從前はその半數が精神薄弱即ち低脳であるといわれていたのが、先月九州各地の厚生施設を巡視した際、福岡の百道松風園及び佐賀の浮浪兒收容所における調査成績を見ますると、低脳兒はおのおの八〇%に増加しております。この現象は直ちに以て日本食糧の状況を示すものであると思います。從つてかかる先天性の遺傳病者の出生を抑制することが、國民の急速なる増加を防ぐ上からも、亦民族の逆淘汰を防止する点からいつても、極めて必要であると思いますので、ここに優生保護法案を提出した次第であります。


上記の論理の流れは次の通り。

  • 敗戦で国土の四割を喪失
  • 狭い国土で人口増加⇒食糧不足が必須
  • 3つの対策:①移民、②食糧増産、③産児制限
  • 産児制限の問題⇒國民素質の低下=民族の逆淘汰を招く恐れ
  • 緊急の課題⇒先天性の遺傳病者の出生を抑制で逆淘汰を防ぐ
  • 優生学的見地に立つて将來における國民素質の向上を図ると同時に、現在における母性の生命健康の保護をも併せ図ることを目的とする法案


逆淘汰を防ぐために優生手術を障がい者の出生抑制に用いるのが第一の目的、中絶を母性の生命健康の保護のために用いるのが第二の(併せ図る)目的であるわけです。


なぜこの第二の目的が加えられたのかは、ここでは触れられていません。

第2回国会 参議院 厚生委員会 第14号 昭和23年6月22日

 谷口はこの委員会で、地域の医師や施設のことをよく知っているとして、指定医師の指定権を都道府県の医師会に委ねることを提案する。「運営の適正が期せられるかどうか」「指定について若干の偏頗(偏って不公正になること)が起りはしないか」「任意加入の社団法人に入っていない医師が指定対象に慣れない問題」などについて質問が上がるが、谷口は回答する際に「速記を止め」させており、そこで何が話し合われたのかが分からない。
 また、優生保護法原案では、医師の認定に基づいて地方優生保護委員会に他の医師または民生委員の意見書を添えて中絶の適否の審査を申請しなければならないとされた。これについても、最大5名から成る優生保護委員会や民生委員に事情を知られることへの懸念を示した議員がいたが、これに対する回答部分も速記が止められており、谷口がどう応えたのかは分からない。

第2回国会 参議院 本会議 第52号 昭和23年6月23日

前日の厚生委員会での議論の結果を報告した他、次のように中絶を容認する理由を付け加えている。

尚これまでは母性の健康までも度外いたしまして、ただ出生増加に專念いたしておりました態度をこの際改めて頂いて、母性保護の立場から或る程度の人工妊娠中絶を認めて、いわゆるそれによつて又人口の自然増加を抑制したいというのがこの法案提出の大要であるのでございます。

従来の出生増加策の行き過ぎの態度を改め、「母体保護の立場」から中絶をある程度認めることで、「人口の自然増加を抑制したい」という本音が語られている。


なお、従来も「医学上の立場から……母体の生命を救うためにのみ」中絶が行われたいたが、それを「今少し拡め」て、「母性保護」にまで拡張したとも述べている。

第2回国会 衆議院 厚生委員会 第18号 昭和23年6月28日

また驚いたことに、社会党の議員から「貧困」で中絶を受けられないのでは、法ができても現状と変わらない。と指摘されたのに対して、谷口は次のような証言もしている。

貧困を土台としての人工姙娠中絶というのは、現在のところ世界各國ともにないのでございます。一昨年ノールウエー、スエーデンの國会に出ましたけれども、それも貧困という條件はとうとう削られて、やはりその人の身体的適應症というようなことになつたのであります。

第3回国会 参議院 厚生委員会 第2号 昭和23年11月11日

谷口弥三郎の暴言が止まりません。

御承知と思いますが、第二國会におきまして優生保護法というのが通過いたしました。まだ施行細則が出ておりませんけれども、近々出るそうでありまするが、これによつて可成りの国民の素質の低下を防ぎ得るとは思いますけれども、どうもこれでは私は非常に不十分である、不徹底であると存じますので、是非そういう方面に力を盡して頂くことはできんものでございましようか。例えば保健所を大いに活動させまして、そうしていわゆる浮浪者とか、或いは極く下の階級、乞食みたようなものですが、そういう方面に亘つて大いに檢診をいたしまして、優生手術の必要な者を見出したならば、どしどし保健所の医師が申請して、そうして優生手術を断行する、言い換えますれば、普通医者の家へ参れませんような、極く下の階級までの檢診をして、そうして素質の悪い者はどんどん優生手術をして、今後そういう不良分子の出生を防止するというふうに活動するようにして頂きたい。
 尚同時にいわゆる生活能力のない者と申しますか、経済的無資格者と申しますか、そういう者も一つ時々総狩りをいたしまして、そういう場合に妊娠をしておるような者を見出したならば、それをよく檢査をする、よく聞きますところによると、パンパンガールあたりでも可なり精神薄弱者などがおるようでありますから、あの乞食の中あたりにでも沢山おるようでありますから、そういう適應者を見出しまして、そういう者の人工妊娠中絶をして、そういう出生を防止をするという方面に一つ大活動をして頂くように進むことができんものだろうか。


受胎調節に関しても、貧困者には無料でコンドームを配ることを示唆しています。

今現在やつております受胎調節というのは、あれはいろいろと資材の高い関係上、いわゆる立派なと申しますか、優秀な方々のみでありますか、受胎調節をやつて、不良なる分子は受胎調節などは全然やらず、又経費もないものございますから全然やらずに済んでおるようで、從つて不良分子の出生ということをなかなか防止することができんのでございます。この際厚生省におきましては、一ついわゆる優生保護において、妊娠を任意に人工調節のできんような階級の者、即ち極く下等、或いは生活能力、健康を害する、或いは生命上の関係のあるというのみでなしに、多産であつて非常に貧困な者とかいうような者までも、受胎調節をやらしたらどうか。そういう面にやらすには或る機関を設けまして、特にその機関を通じて、言い換えれば往診でも、そこへ押掛けて行つて勧告して、そうして受胎調節の方法をやらせる、又同時にそれに要する資材は國家が拵えて、国家が無償に或る一定の機関の者だけには使わせて、金のかからんように受胎調節をやる、そうすれば現在やつておるような上流じやなしに下流の方面に進むからして、從つてあの素質の低下を防止することができますし、第二にはあと今年度には、昨年も百五十万近くの出生増加、自然増加がございましたが、今年は死亡が非常に減つておりますから、或いは百六十万以上になりはせんかというようなふうに考えられておるような状態でありますが、出生防止、いわゆる急激な人口の増加を防ぐという上から申しましても、この受胎調節を是非実行して、下の方の階級に大いにやつて行くようなふうに進むならば、極く最近の問題になつておる人口政策、人口問題を或る程度まで解決できると思いますが、大臣におかれましても、この機会に大いにその方面に力を注いで頂きたいと思います。

第3回国会 参議院 本会議 第11号 昭和23年11月15日

合法的に或る程度人工妊娠中絶を許すことになりましたが、これにおきましても実際の人口調節は我々の思うように多数には上つて参らんのであります。それで是非今後受胎の調節をやらなければならんと存じておるのであります。受胎の調節は併しこれは、やり方によりますと、現在方々で行われておるようなことをやりましたら、優秀な階級のみに行われて不良な階級には全然顧みられぬ。言い換えれば国民素質の低下がずんずん起つて來ると存じますのでございます。それで今後の人口対策といたしましては、或る程度のいわゆる不良な分子とか、経済的に無能力な者とかいうような方面に……この方面の者をよく調べて見ますというと、日本に約六百万人ぐらいの人々がおられるように思うのでございます。六百万人と申しますと、それは特にそれに適合する者でございまして、年齢から申しますと十七八歳以後五十歳ぐらいの婦人でございます。而もその方々はいわゆる生活能力に非常に困つておる、貧困で多産な者でありますとか、病弱な者でありますとか、或いは子供を持ちましてから間もない方々であるとかいうような方々をずつと調べて見ると、約六百万人ぐらいの人口になるのでございます。その六百万人の方々に受胎調節をいたしますというと、一年に約八十万人ぐらいの出生を低下することができるのであります。それには方法が特に必要でありまして、これに対しましては、例えば現在の助産婦に一定度の講習をいたしまして、そうしてそういう方々をずつと訪問いたしまして、勧告いたしまして、そうして受胎調節をやるように勧めるのでございます。そうしますと、助産婦は現在六万人ぐらいおりますけれども、そういう講習をしてから後の助産婦と申しますのは約四万人ぐらいになるのでございます。言い換えれば一人が百五十人ぐらいづつを担当いたしまして、そうして十分な受胎調節をいたしますというと、そうすると不良の或いは困つた家庭の出生を低下することができますので、即ち現在の八千万人口を先ずそのままに喰い止めることができると存じておるのであります。尤もこの方法は、或いは未婚者とか未亡人の方には、これは道徳的頽廃防止の関係上、絶対に行わないようにいたしたいと思います。又精神病の患者とか癩の患者とか申しますのは、これはいわゆる断種手術を行なつて、この方面の方には入つて來ないのであります。この方面に入る階級は前にも申しましたように、六百万人の或る程度の人のみに行なつて見たい。又この方法によりまして人口の急激な増加を防ぎますと共に、國民素質の低下を防ぐのが目的でございますが、その方法については新聞、雑誌、ラジオなどではこれは到底……そういうものを使うと却つて或る優秀な階級、特に子供を持つて貰いたいと思われるような階級の者に惡用される危險がございますので、これは是非とも或る一種の特別な指導者を作つて行わせたならば、必ず目的を達し得るだろうと思うのでございます。即ち今後の我が國の人口対策は量よりも質に重きを置かんければならんと思つておるのでございます。現在各地におきまして、或る方面から頻りとバース・コントロールをやるようにという示唆があるとかいうような話も聞きますが、これは非常に私共の考えでは危險であると思つておるのでございます。即ち前に述べましたような優秀な階級に行われる危險がございますので、不良の階級にこの方法を採ること、即ち国家は一日も早くこの対策をやつて頂きたい、政府は是非これを採用して、大いに速かにこの方面に十分な施策を行なつて頂きたいと思いまして、実はここに自由討議の時間を拜借いたしまして、私の平素考えておることを申上げ、皆さんの御賛同を得て、大いにこれが実施を一日も早く進めたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。(拍手)

第5回国会 参議院 厚生委員会 第1号 昭和24年3月23日

実態を視察してきた議員から次の要望が出ている。

優生保護法の第十三條において、第四号の暴行脅迫に民生委員の意見を必要とし、又第三号の数人の子を有する経済面に医師の意見を要する不合理を是正して貰いたい。どうも優生保護法の法律の意味が的確を欠いておるような傾きがあつて、檢察官と行政官との意見が相違をし、ために手術を施した医師が非常な迷惑を感ずる。現に京都ではそういうような事例が起つておるのであるから、もう少しこれをはつきりした法文に認めて貰いたい。こういう要望であります。それから妊娠中絶につきましては、審査許可制を事後届出制にすること、これは戸籍謄本を取るのに、原籍が遠方であると、謄本を取ります手続に数十日を要しまして、実際手術するのが妊娠後三ケ月、四ケ月というふうな不適当な期間に延びるから、それは事後の届出制にして貰いたいと言うのであります。

第5回国会 参議院 厚生委員会 第2号 昭和24年3月24日

厚生技官から次の発言あり。

昨日の御報告の中に御要望がございまして、優生保護法の解釈につきまして、地方においては司法官と行政官との間に解釈の相違があるというような御指摘があつたのでありますが、この点につきまして一言私どもの立場を御説明申上げておきたいと思います。
 優生保護法が制定公布せられまして、特に問題になります点は、法の第十三條三号の解釈でありまするが、すでに数人の子供を有した者が更に姙娠したと、而も分娩によつて母体の健康を著しく損う虞れのある場合、こういう場合におきまして、これは貧困を理由とするものが含まれるかどうか、つまりこの拡張解釈によりまして、貧困であるならば、健康を害する。從つてこの第三号に該当するのではないかという疑義があるようでありまするが、これはこの法律制定当時の事情並びにこの條文の解釈におきまして、そういう解釈説明はできないのでありまして、從いまして私ども並びに法務廳におきましても、貧困を理由とする姙娠中絶は、この條項を適用することはできない、かように解釈いたしているのであります。

第5回国会 衆議院 厚生委員会 第4号 昭和24年4月2日

今度は避妊薬が多数解禁の方向であることが厚生技官から報告される。

昨年の七月に藥関係の法律としまして藥事法が新しく公布され、その新しい藥事法の規定によりますと、前の藥事法で禁止規定となつておりました避妊の効果を標榜する医薬品の製造ができるようになりました。——禁止規定が除かれたのでございます。従いまして昨年の末ごろから避妊を目的とする藥の製造許可申請が出て参りまして、現在二十数件に及んでおります


医師である福田昌子議員の質問に応じて、厚生技官から薬品名も挙げられている。

申請になつている件数は多分二十五、六件かと思いますが……主藥として目下申請にかかつておりますものは、オキシアン水銀系統のものと、フェニル水銀アセタート、別の名前ではフェニル醋酸水銀、それからオキシヒノリン系統のもの、化学的な主成分としましては、以上申し上げました三つが、大体おもに使われる主成分でございます。この中でなおこまかく申しますと、オキシアン水銀系統のものは從來性病予防藥の主成分として使われておつたものでございます。後に申し上げましたフェニルアセタートあるいはオルトオキシヒノリン系統のものは、新しく避妊藥の主成分として外國の文献あるいは文書によく現われておるものでございます。権威者の方々の御意見によりますと、外國の処方などによく出ております、今申し上げたフェニル水銀アセタート系あるいはオキシヒノリン系の方はよさそうだという御意見の方々が相当あるように私ども伺つております。そういう標準的な処方あるいは剤形——剤形と申しますのは、錠剤とか、あるいはゼリー状のものとか、または坐薬のようなものとか、そういうものでございますが、剤形の点では、権威者の方々の中では、ゼリー状のものあるいは坐薬のようなもので、特にその坐薬なりゼリーを構成しております軟膏成分が害がなくてよい品質のものであることが望ましいから、その点を注意するようにという御意見がありました。その点についても調べておるような状況であります。


この日、産児制限は「気を付けて行わないと」逆淘汰を招くのできちんと指導していく必要があるといった議論に続けて、民主党の床次徳二議員が、女性のリプロの権利に関連する発言をしている。ただし、あくまでも上から目線ではあるが。

なお人口問題の反面といたしまして、この受胎調節の問題、産兒調整の問題はこれは当然母子衛生の問題と申しますか、母性の文化の問題に関係があると思います。私はむしろ厚生省自体がこういう方面において、積極的な宣傳活動をされることが必要だと考えます。すなわち今日におきまして、自己の欲しない子供ができるために生ずるところの個人の障害、あるいは家庭の障害、あるいは社会の問題というものがいろいろあるのであります。別の言葉をもつて申しますと、これが女性の向上にも、婦人の解放にもなるのであると思うのであります。同時にこれは母性、乳幼兒の大きな保護になると考えるのであります。從つて女性文化の向上という廣い面におきまして、今後受胎調節、産兒調節の問題を積極的に取上げ、正しく指導されることが必要ではないかと思います。

床次徳二議員はさらにこうも続けています。

受胎調節という問題に関しましては、むしろ母性文化の向上という立場において考慮する必要がある……今わが國におきましては母親の希望しない、あるいは両親の希望しないところの子供が生れるということによりまして、あらゆる禍根が出て参つて張ります。個人、家庭、社会、これにそれぞれの大きな禍根を今日残しておると思いますが、また同時にかかる子供の出生というものが、家庭文化の向上から申しましても、また婦人の解放と申しますか、女性の地位の向上というような立場を考えてみましても、すこぶる影響の多いことでありまして、この点に関しましてやはり当局においては適当に、むしろこの面における積極的な指導が必要なものではないかと考えておるのであります。單なる受胎調節云々というようなことでなしに、積極的な母性文化の向上という立場の指導が必要なのではないかということを考えます……また同時に適正なる性教育の実施ということも必要なりと考えます。

休憩を挟んで午後に再び質問……。

今日産兒調節上におきまして妊娠中絶が非常に行われておるということにつきまして、特に御当局の御関心を持つていただきたいのであります。従つてその半面におきまして受胎調節思相の普及につきましては、よほど努力していただかなければならない、ということを私は申し上げたいのであります。すなわち保健所を動員されることもよろしい。あるいはいわゆる社会保険の保険給付として必要な向に対しては受胎調節、産兒調節の普及について、適当なところに指導するということが必要でないかと思います。この点につきましても御意見を伺いたいと思います。
 なお人口問題の反面といたしまして、この受胎調節の問題、産兒調整の問題はこれは当然母子衛生の問題と申しますか、母性の文化の問題に関係があると思います。私はむしろ厚生省自体がこういう方面において、積極的な宣傳活動をされることが必要だと考えます。すなわち今日におきまして、自己の欲しない子供ができるために生ずるところの個人の障害、あるいは家庭の障害、あるいは社会の問題というものがいろいろあるのであります。別の言葉をもつて申しますと、これが女性の向上にも、婦人の解放にもなるのであると思うのであります。同時にこれは母性、乳幼兒の大きな保護になると考えるのであります。從つて女性文化の向上という廣い面におきまして、今後受胎調節、産兒調節の問題を積極的に取上げ、正しく指導されることが必要ではないかと思います。

なんと受胎調節、産児調整は「婦人の向上」にも役立つという発想が示されているのです。
床次委員からの質問はさらに続きます。

先ほど來人口問題、人口対策に関しましていろいろ御質問申し上げましたが、そのお答えは大体厚生省という立場に限られての御返事のように承つておるのであります。しかしながらわが國の目下の人口問題なるものは、わが國の再建、産業復興あるいは国民文化の向上という立場から見まして、これはまことに関係しておるところが多いのでございます。……政府は各関係方面の意見を総合せられて、ほんとうにわが國の復興計画ができるにさしつかえないところの人口に対する意見を確立していただきたい。……將來において悔いのないところの人口政策をつくつていただきたいと思うのであります。幸い林厚生大臣は内閣の副総理という重要な地位に立つておるのであります。從つて各関係省の意見を総合し、ここに將來の日本の人口対策に対する政府の御意見、はつきりとした立場をお示しを願いたいと思います。

単なる厚生省の問題にとどめず、将来を見て総合的な人口対策を立てることを提案している。

第5回国会 衆議院 本会議 第13号 昭和24年4月6日

内閣総理大臣臨時代理・厚生大臣林譲治氏が次のような答弁を行っている。

最近この問題について人口問題研究所において若干の調査をいたしました結果によりますると、國民の二割ないし二割五分くらいは受胎調節を実行いたしておるようであります。また最近の人口動態統計に現われました数字を見まするに、死産が著しく増加いたしておりまして、その中の四分の一強は人工妊娠中絶によるものであろうと見られるのであります。政府といたしましては、これらの妊娠を希望しない人々に対しましては、医学上または保健上の立場から、妊娠調節につきまして、有効適切な実行方法及び有害でない薬品、用具等の指導を行う方針でありまして、これがために制定公布されました優生保護法に基きました優生結婚相談所や、全國の各保健所、その他の機関を活用いたす所存であります。また避妊薬及び避妊器具につきましても、近き將來優良なるものについて製造、販賣の許可をするというつもりで、目下せいぜい審査をいたしておるような次第であります

第5回国会 参議院 予算委員会 第7号 昭和24年4月8日

026 尾形六郎兵衞
○尾形六郎兵衞君 実は昨年優生保護法というものを施行したのですが、私共あたり近所を聞いたのですが、そういうものを利用したという話を聞いたことがありません。あれは法律はできましたのですが、相当程度にあの優生保護法というものは実行されておるかどうかということを伺います。
 もう一つは、今の厚生大臣のお話によりますと、大体人口問題は先ず自由放任と解して宜しいかと思います。私共の希望としましては、妊娠した場合、医者が流産させることによつて非常に重い罪が現在まで法律的に残つておるのです。そういうものをもつと緩和する意思がないかどうかということを伺います。
027 林讓治
○國務大臣(林讓治君) 只今お話の優生保護法の問題については数字ははつきり分りませんが、昨日も統計において死産についてその四割強が中絶によつての死産であるというようなことを申上げたと同じように、優生の問題につきましては数字的に私申上げかねますが、相当利用がでぎておるもののように私共は考えておるわけであります。
 それから産児制限などについて自由放任かどうかというお話でありますが、いろいろ健康であるとか、その他の問題を考慮しまして自由放任という程ではございませんが、それぞれの健康上に十分注意いたしまして、今日産児制限と申しましようか、そういうことで進んで行きたいと考えておるわけであります。

第5回国会 衆議院 厚生委員会 第13号 昭和24年4月27日

社会党議員より次の質問あり。

現在働く人々の間に、産児調節、受胎調整というふうな問題が切実な生活の問題として登場しておるのであります。これが現在優生保護法によつて、優生手術を受けたり、また人工的な妊娠中絶を受けまする場合には、法によつて定められたるその処置の除外を除いては、自費負担で、優生手術の場合においては二千数百円、人工妊娠中絶においては千数百円の負担をしなければならぬ。こういうことになつておるのでありますが、現行の健康保険は、こういう問題に対しましても、保険料の給付をもつて、無料で手術をするというふうなことに取扱つておるのでありましようか

厚生事務官は「早急に優生保護法の所管当局と協議をいたしまして、お説の趣旨のようになるようにいたしたいと思つております」と答弁。しかし、「無料で手術」は実現しませんでした。

第5回国会 参議院 厚生委員会 第18号 昭和24年5月6日

経済的事由による中絶許容が世界初であることを彼らは重々知っていた。

○谷口弥三郎君 只今の生活窮迫状態というような経済的理由を元として人工妊娠中絶をすることのできない、世界中にそれがないというようなことを実は考えましたので、前回の第二國会においては貧困とか窮迫状態というようなものを出し切らずにおつたのであります。ところが、この法が実施されまして以來、世界にないか知らんが、日本がこういう貧困状態に、こういう困難な状態になつておるのは、世界中でどこにもありはせんじやないか。從つてこの際には是非とも貧困を、経済的方面を土台にして法を作つて貰わねば、これが入らんと折角のこの十三條の項目は何にもならんという世論が非常に激しいのと、各地から陳情書、請願書とか、或いは決議文とか、いろいろ來ました結果、どうしてもこの際はこの貧困を土台として人工妊娠中絶を許すという範囲を拵えなければならんという関係から、作つておるのでありまして、この点を認めるということは、世界で初めてこういう方面にまで進んだということになつておるのでありますから、どうぞその点を御了解願います。

第5回国会 参議院 厚生委員会 第20号 昭和24年5月9日

社会党議員より「堕胎罪」「道義」の問題が提起された。

妊娠中絶が容易に行われるようなふうになつて参りますと、つまり通俗に申しますと堕胎の公認というような意味になる……妊娠中絶を大幅に認めるように相成りますると、いろいろ道義の上に及ぼしまする影響、……その方面のことも考えなければならんのではないかと思われます。


驚いたことに最高檢察廳檢事(最高検察庁検事ですよね?)が次のように答えている。

從來私共檢察官或いは裁判所の、殊に檢察官の場合でありますが、堕胎罪の犯罪態樣を見てみますると、多くは不倫行爲に基くものが多いのであります。正常の夫婦関係の場合におきまして、なさるる場合は極めて少いのであります。正常の夫婦関係の下においてなさるる場合は、母体の保健的立場から、或いは胸を患い或いは他の病氣によつて妊娠を継続することを不合理と考えて、医師の診断を求めその証明書を持つて、又婦人科医に駈けつけて手続を取つて貰う。そういう手続が不備なる場合によくその容疑者となるのであります。そこでその認定問題になつて來るのであります。……本法のできることによつて、結論的に申上げますると、檢察、警察の立場における認定の困難が極めて減つて、不幸なる堕胎罪というものが減つて來ると、私はこう思うのであります。
 それは二つの方面から観察できると思います。指定医師というものが法人である医師会から嚴密なる選定を受け、この医師のいわゆる意見によつて、この者は人工中絶の必要がある、こう認める一つの仕組みがここに公けに認められるし、又当事者の本人が、明らかに自分がこれを堕したいという意思表示を明るみに申出て來る、そうしてこれを委員会で、客観的に檢討する、これは堕すのが合理的だ、こういうことになつて参りますと、この堕胎罪の裏には施術者側におきましても不当な財産上の利得とか何とかという問題が纒わつて來ておつたのでありますが、それも防げますし、不倫行爲の闇から闇に流さんとした本人の不正行爲も防げる、かように考えるのであります。

検察は三重の意味で「指定医師」を手放しで信用している。まず、不倫の場合には医師が合法的要件に合わないので「断る」はず=不正行為を防げる。もう一つは、夫婦間のやむのない中絶の場合は、従来から「医師」の意見を聞いて堕胎罪に該当するかどうかを検討していたので、それが手続き化されたことに意味がある。第三に、合法的に中絶を行えるようになった医師はもはや「不当な財産上の利得」のために闇中絶を行わないはずだ、ということだ。しかし、これら三つのどれについても、「医師の公明正大さ」を裏付けるものは公的に存在していない。

第5回国会 衆議院 厚生委員会 第19号 昭和24年5月14日

谷口弥三郎の優生保護法改正案に関する説明より

〔改正案13条の〕第三号として「妊娠の継続又は分娩によつて生活が窮迫状態に陥るもの」という一項目を新設して現下の時勢に適應せしめたのは、本改正案中最も重要なる改正点でありまして」、現在の優生保護法優生学的、医学的及び倫理的見地からする人工妊娠中絶を認めていたのでありますが、経済的理由による人工妊娠中絶には触れていなかつたのであります。しかるにその後におきまして経済的理由からする人工妊娠中絶を認めよという要望がきわめて強く、これが要望にこたえることは、他面急激なる人口の増加を抑制するためにも必要であると認め、その運用の基準を生活保護法の適用線上におく趣旨で、生計が困窮状態に陥る者を対象とすることといたしたいと存ずるのであります。

第5回国会 衆議院 厚生委員会 第21号 昭和24年5月18日

民主自由党の松永佛骨議員が、倫理的観点から貧しい家庭の受胎調節のために国は予算をつけるべきと主張。議論は行われず散会。

第5回国会 衆議院 厚生委員会 第22号 昭和24年5月20日

貧困者の中絶費用問題について意見が飛び交う。


共産党苅田(かんだ)アサノ議員より、視察した保健所の医師の意見として:

どうしても優生保護法は通していただきたい。これに要する費用というものは、一般に傳えられるように多額を要しない。たかだか千円か二千円もあれば中絶の手術が行われるのである。これをやみですれば五千円も八千円もとられて、貧困者の御家庭ではそういう費用が出ないで、依然として非常に不衞生な、それこそ母体に大きな害を與えるような方法で、しかも秘密裡にやつておるのであつて、その方がもつと憂慮すべき状態である。

第5回国会 衆議院 本会議 第36号 昭和24年5月22日

松永佛骨より以下報告。

優生保護法の一部を改正する法律案について、厚生委員会における審議の経過並びに結果の大要を御報告……第十三条第一項中、第一号から第三号までを次のように改め、第四号を第三号とする。
  一 本人又は配偶者が精神病又は精神薄弱であるもの。
  二 妊娠の継続または分娩が身体的または経済的理由により、母体の健康を著しく害するおそれのあるもの。

第5回国会 衆議院 厚生委員会 第23号 昭和24年5月22日

青柳議員の改正修正案「二 妊娠の継続または分娩が身体的または経済的理由により、母体の健康を著しく害するおそれのあるもの。」に関する理由3つ。(谷口の改正原案は「妊娠の継続又は分娩によつて生活が窮迫状態に陥るもの」)


第一の立法論:不良な子孫の出生の防止と母性の生命健康の保護がこの法律の目的。貧乏だから堕胎を許すというのは目的を逸脱している。
第二の刑事理論:貧困なるがゆえに刑法の堕胎罪の成立を阻却するというがごとき法律は避けるべき。
第三の実理論:

貧困者に限つて貧困なるがゆえに堕胎を許さんとする法律は、他の文化國にはない。胎児もまた生命を有する。人命は尊重せざるべからざるものであります。胎児の生命を断つことは、容易に文化國家の認めざるところであることは何人もこれをただちに理解し、肯定し得るところと考えます。また文化國家はすべて死亡率を減少せしめんと努力しつつあるのでありまして、改正原案はこの努力と矛盾するものであると思うのであります。
 國際的にこれを見ますのに、改正原案は他の國から、日本はこれほど困難しておるのかと同情されることはありましよう。しかしながら、日本はなおかかる野蛮國であるかと侮られるおそれが多いのであります。また社会政策の面よりこれを見ますのに、貧困者に子供が多いためにますます貧乏する、貧困者が子供を持つたために貧乏するという現象は、どうしても救わなければならないのであります。すべて貧困者はこれをなくさなければなりません。そのためには生活保護法、児童福祉法があり、社会保障制度の審議も開始されたのであります。これらの現行の法規、諸制度は貧困者を救済すべき責任を持つておるのであります。私はこの際急速に生活保護法を拡充整備しまするとともに、根本的には社会保障制度のでき得る限りのすみやかな確率【ママ】を望むこと切であります。なお退治【ママ】を殺すのは人道に反するという人道的、倫理的反対論も強く成立ち得るのであります、しかしながらこの問題も、母体の保護のためにやむを得ぬ処置として解決され得ると思うのであります。現在具体的の問題といたしまして、経済的理由によつて堕胎を行わざるを得ない場合があるけれども、やみでこれが行われることが多いためにかえつて経費がかさみ、また危險であるから、むしろ公認すべしという事由で賛成論があります。しかしこの必要は現実にはむしろ中産階級勤労者に多いことであつて、これらは改正原案によつては何らの利益を受けないのでありまして、本修正案を提出した理由もまたここにあるのであります。

こうした論理で「母体の健康保護」を隠れ蓑にした「経済的事由」条項が作られたが、本音は最初から見え見えで、実質的にも、世界の統計分類でも、日本は「経済的理由」が認められた国と考えられている。またこの時、「胎児の生命尊重論」も登場しているが、それは対外的な「面子」を保つために他ならなかった。