リプロな日記ー産む/産まないの選択と決断、妊娠、中絶、流産…を超えて

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

豊島区議会:性暴力やセカンドレイプ・差別発言に反対する指針と各議員の意見の表明を求めます。

女性差別撤廃条約を結んだ国だというのに……

性差別を放置してはならない……なんて当たり前のことを「主張」しなければならないこの国が情けない。

反対の声をあげていきましょう!

chng.it

政府もメディアもリプロダクティブ・ライツの根本が分かっていない

「産む支援」だけでは少子化は終わらない

本日付の朝日新聞の記事希望出生率1.8、強気の目標 少子化大綱、実効性カギの冒頭を紹介する。

 2025年までの少子化対策の指針となる政府の「少子化社会対策大綱」が29日、閣議決定された。子どもがほしい人の希望がかなった場合に見込める出生率「希望出生率1・8」の実現という安倍政権が掲げる目標も初めて明記したが、これまでも大綱の数値目標は未達のものが多い。経済や雇用の不安から結婚や出産をためらう若い世代に実効性のある支援が届くかは不透明だ。

出産・子育てへの経済支援を重視
 見直しは15年以来5年ぶり。新大綱では19年の出生数が推計で過去最少の86万4千人だったことから「86万(人)ショック」と表現。「少子化という国民共通の困難に真正面から立ち向かう時期に来ている」と危機感を強く打ち出した。

 過去の大綱に比べ、出産や子育てへの経済的な支援に多く触れ、高額な不妊治療は保険適用の拡大を検討すると明記した。パブリックコメントの約4割が不妊治療に関する内容だったため、一歩踏み込んだ。また、子ども1人あたり月1万~1万5千円を配る児童手当も、支給額の引き上げや対象の拡大を念頭に検討するとした。

 新型コロナウイルスの感染拡大によって子育て環境の整備の重要性が浮き彫りになったことから、電話やオンラインを活用した保健指導への取り組みや、収束後もテレワークを始めとした柔軟な働き方を推進することも盛り込んだ。

これまでも行って来た「出産」「子育て」「不妊治療」の支援だけでは「少子化」は止まらず、出生率も改善しないということを未だに学習していないとは頭が痛い。

少子化脱却のためには「女性」が生きやすい社会を作らなければ話にならない。そのために第一に必要なのは「女性差別」と「女性に対する暴力」を徹底的になくすことである。具体的に言うなら、女性差別撤廃条約の徹底的な遵守、そして北京宣言及び行動綱領や女性差別撤廃条約で示されている道筋に沿って、政策に女性の声を反映させるためにクオータ制などのポジティブ・アクションを実施し、ワーク・ライフ・バランスを取りやすい職場環境の整備(男性の働き方改革も含む)を進めるなどの努力と共に、何よりも「産む」主体である「女性」を本気で尊重する必要がある。「産ませる」ことしか考えていない政策では、女性たちにそっぽを向かれるばかりだろう。

今回の「支援拡大」にも見られるとおり、日本政府の「リプロダクティブ・ライツの保障」は女性自身に決定権を与えず、「産む」方向に誘導しようとするものばかりだ。リプロダクティブ・ライツの根幹は「産む選択」も「産まない選択」も女性自身に委ねることである。なぜ日本は「産まない選択」を権利として認めようとしないのか?

それは、日本では中絶は犯罪とされているためだ。犯罪を権利として擁護できるはずはない。しかし実際には、日本では「ほとんど自由に」と表現されるほど合法的な中絶が大量に行われている。それは母体保護法で違法性を阻却されている場合に限られる。では、日本では「母体保護法で違法性阻却される範囲において中絶の権利を認める」と言えるだろうか? 制限的人権というのは、かなり問題がありそうだし、おそらくそこらへんを法学者が本気で議論し始めれば、普遍的人権であるリプロダクティブ・ライツに制限をかけてはならないし、そもそも女性のみが裁かれる自己堕胎を法で定めていること自体が女性差別だという結果になるだろう。

だから日本政府はそうした議論自体をしたがらず、女性差別撤廃委員会に何を言われようとも知らん顔を決め込んできた。中絶の権利について認めるかどうかは宗教的・文化的理由がある国については、それぞれの国に裁量権があるとして、事実上、中絶権の保障に関する国の義務が免除されてきたからだ。そして、日本以外にそうした免除を受けている国々とは、中東を中心としたイスラム圏の国々や女性差別が甚だしい最貧国ばかりなのだ。厳格なキリスト教国のアイルランドや、かつては日本以上に女性差別が酷いと言われていた韓国でさえ、昨年ついに「女性の権利としての合法的中絶」が解禁されている。

当然なのだ。自分の意識に反して妊娠してしまうことのある身体を生きている女性たちが、意に反する人生を強制されずに生きていくためには、避妊や中絶は必須の医療だからである。逆に言えば、避妊や中絶が安全かつ確実に行える医療が発展した現代だからこそ、女性たちはそうした医療は「自分の裁量で用いるべきもの」だと言い出したのだ。第三者の意図で(妊娠・出産に誘導したい誰かの思惑で)制限されるのは人権侵害だと主張するようになったのだ。主張できるようになったのだ。

女性たちに妊娠に関する自己決定と、安全な中絶手段を与えない国、女性たちに中絶の権利を認めていない国は「甚だしい女性差別のある国」なのである。

でもおかしい。日本は女性差別撤廃条約を締結したではないか。条約締結国は、条約の理念に即して国内法を変更する義務があるではないか。そして再三、日本は女性差別撤廃委員会から刑法堕胎罪と母体保護法を変えるつもりはないのかと問われてきたということを、いったいどれだけの人が知っているだろう。

女の権利ばかり言うけど、胎児の権利はどうなのだ? 受精の瞬間から命ではないのか?……などと、反論してくる人もいるだろう。しかし、そうした議論は世界では20世紀の半ばから後半にかけてとてつもない規模で行われてきた。日本人よりよっぽど宗教心の篤い国々の人々が、学者が、宗教家が、アクティビストが、激論を交わしてきた。その結果、グローバル規模で築き上げられた合意事項が、女性のリプロダクティブ・ライツなのだ。

だから、大論争になろうとも、わたしは何も恐れない。感情論や根拠のない持論にこだわる少数の人々は別にして、きちんと議論を積み上げていけば、「産む性」を人間として「産まない性」と等しく扱おうと思うのであれば、社会的には中絶の権利は与えるべきもの、与えざるをえないものなのだから。

そして、それを認めた時点で、初めて本当の意味での「女たち自身にとって産みやすい社会」に向けての大変革が始まるのではないか。女自身が産みやすいと感じる国は、希望出生率が実現される国であり、おそらく希望出生率そのものが上昇していく国になるだろう。

リプロダクティブ・ライツの根本は、「産む選択」も「産まない選択」も等しく保障された上で、「産む産まないは女が決める」なのである。そこが分かっていない「少子化対策」は失敗する運命にある。

影のパンデミック対策のために財源割り当てを提案

UN Women事務局長の声明の2日後、各国政府等に対応を求めていた

今になって見ました……。UN Womenの事務局長が「影のパンデミック」声明を出したのが4月7日。そのわずか2日後の4月9日に、次の提言が出されていました。

COVID-19と女性・女児に対する暴力

世界中で女性・少女への暴力が増えている問題を指摘した後で、次のような具体的な提言が並んでいます。

上記の問題を踏まえ、政府・国際機関・市民社会を含む社会の全てのセクターに向け、本報告書は以下の措置をとるよう提言しています。
1 COVID-19 に係る国家レベルの対処方針・計画の中で、女性・女児に対する暴力対策のために追加で財源を割り当て、証拠・データに基づいた措置をとること
2 COVID-19が蔓延する中で、暴力にさらされる女性への支援を強化すること
3 暴力の予防や対応に関連する重要な行政サービスの質を向上させ、不処罰を予防すること
4 女性を政策変容・解決手段・復興の中心に置き、女性の声が反映されるようにすること
5 女性・女児特有の影響を把握し、適切な対応に結び付けるために、性別データの収集を進めること

日本では、DVについては支援窓口設置やDV夫を介さずに被害者が特別支援金を受け取れるようにする措置などが取られましたが、それ以外はほとんど何もできていない。DVに該当しないがために放置されている性暴力や性虐待にもしっかり対処すべきです。

まずは実態把握のためのデータ収集が必要ですね。ところが、新型コロナウィルスの検査と同じで、「臭いものにはふた」をして見て見ぬふりをすることが、この国ではあまりにも多いような気がします。

日本政府は技能実習生の権利について何もしていなかったわけではなかった!

追加情報

ベトナム人実習生の「堕胎容疑」問題についてについて、友人から情報提供がありました。

なんと、昨年、こんな注意喚起が行われていたというのです!

妊娠等を理由とした技能実習生に対する不利益取扱いについて(注意喚起)

つまり「妊娠による不利益取り扱い」は厳禁だとされているわけなんですね! それは朗報!!

そうであるなら、そうした方針を守ってなかった実習生取り扱い団体が悪いのか、はたまた知らされていなかったグエンさんの不幸なのか……あるいは、こういう通知をちゃんと周知できていない国の側に問題があるのか……とは思いますが。

おくみ

外国人技能実習生に対する不利益取り扱いに関する政府の注意喚起

技能実習生に関する政府の取り扱いについて書いたログの情報について、政府の注意喚起内容を引用しておきます。

平成31年3月11日
実習実施者
監理団 体 各位
法務省入国管理局入国在留課
厚生労働省海外人材育成担当参事官室
外 国 人 技 能 実 習 機 構

妊娠等を理由とした技能実習生に対する不利益取扱いについて
(注意喚起)

技能実習制度において、監理団体及び実習実施者は、技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に努める責任があります。また、技能実習生に対しては、日本人と同様に日本国の労働関係法令が適用されます。

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和47年法律第103号)第9条においては、「婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止」が規定されています。この規定は、当然ながら技能実習生にも適用されるものであり、婚姻、妊娠、出産等を理由として解雇その他不利益な取扱いをすることは認められません。

また、技能実習生の私生活の自由を不当に制限することは、外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(平成28年法律第89号)第48条第2項により禁止されています。

このため、このような取扱いを行わないようお願いします。

なお、日本へ入国する前に技能実習生と送出機関の間に交わされた契約において、仮にこのような取扱いを行うことがある旨の内容が含まれている場合でも、それを根拠に我が国の法令に反する取扱いをすることは出来ないことをご承知いただくようお願いします。

併せて、監理団体におかれては、入国後講習の機会等をとらえて技能実習生に対してこれらの法の周知を徹底いただくようお願いします。

参考
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律
(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)
第九条 事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。
2 事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない。
3 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
4 妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。

「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」
(禁止行為)
第四十八条 (略)
技能実習関係者は、技能実習生の外出その他の私生活の自由を不当に制限してはならない。

国連「コロナ危機に乗じた中絶禁止は性差別」と米各州に

女性たちの権利を侵害し、その健康を危険にさらしている

人権高等弁務官事務局(OHCHR)は5月27日に、女性と少女に対する暴力撲滅ワーキンググループが「リプロダクティブ・ヘルスケアはエッセンシャルな医療であり、危機のさなかでも提供されねばならない」と宣言し、米国のテキサス、オクラホマアラバマアイオワオハイオアーカンソールイジアナテネシー各州に対して、「コロナ禍に乗じて中絶を厳禁している」と厳しく非難したことを報じました。一部抜粋して仮訳します。

女性たちしか必要としないような情報とサービスに彼女たちがアクセスする手段を奪い、女性たちに特有の健康と安全性を保障しないことは本質的に差別的であり、女性たちが自らの身体と生活を自分自身でコントロールする権限を妨げている。

これはまさに日本で起きていることです。

United States: Authorities manipulating COVID-19 crisis to restrict access to abortion, say UN experts

ベトナム人実習生の「堕胎容疑」問題について

本国では合法的な中絶薬 リプロダクティブ・ヘルス&ライツを日本は認めないのか!

妊娠に気づいたとき、彼女はいったいどんな気持ちになったのだろう……。

22歳のベトナム人実習生グエン・ティトゥイ・ヴィさんが、「堕胎薬」を服用して「堕胎」した胎児を遺棄したとして逮捕された。
news.yahoo.co.jp

こうやって「堕胎」という言葉がくり返し使われるのは、日本に「刑法堕胎罪」があるためにほかならず、同じことをベトナムでしていたならば、彼女は「中絶薬」を服用して「中絶」したなどと報じられるわけもなければ、他人からいちいち言われることすらないだろう。ましてや、胎児を遺棄する必要にも迫られなかったのは間違いない。

ベトナムは1960年代に中絶が合法化され、単に刑法で規制されていないばかりか中絶の権利は複数の法律で保障されているという。避妊も中絶も無料で受けられる。政府は性教育に力を入れているが、全妊娠の4割が中絶に終わっているし、未婚女性がその多くを占めている。中絶は若いベトナム女性にとっては、日常的で当たり前のことなのだ。*1

胎児は妊娠4-5か月だったというのだから、中絶薬の分量などちゃんと心得ていたのだろうか……。中絶薬は妊娠初期ならお産よりはるかにリスクの少ない安全な処置だけど、中期に入ってからの薬による中絶は、本来ならちゃんとした医療機関でケアを受けて行うべきだった。それでも、とりあえず彼女自身の命は無事だったのは幸いだった。

妊娠に気づいたとき、彼女は日本で実習中の今は「まずい」と思ったかもしれないが、まさかこれほどまでに日本で中絶を受けるのが大変なことになるとは知らなかったのではないか……だからこそ、これほど遅いタイミングの中絶になってしまったのではないか。きっと何日も周囲に隠しながら不安な思いを抱え込んでいたであろう彼女の気持ちを推し量ると辛い。

そもそも、日本の外国人研修生の扱いの酷さについては、2009年CEDAW(女性差別撤廃委員会)から女性差別の問題の一貫として改善を迫られていた。10年以上も経っているのに差別的な状況は何ら改善されていなかったようだ。

●人身売買、売買春
人身売買や売春搾取の被害者に対する保護やリハビリ、社会統合支援を強化するとともに、女性の経済状況の改善など、人身売買の根本的解決の努力を求める。

買春需要の抑制、売春女性の社会統合、リハビリ、経済的エンパワーメントなどの支援を勧告。研修生・技能実習生が人身売買の温床となっていることを指摘、モニタリングの継続を求める。また、人身取引防止議定書の批准を勧告。

CEDAWが日本政府審査の総括所見を公表を参照。

日本の刑法堕胎罪と差別的な実習生制度のために安全な中絶を受けられなくなったことで、グエンさんのリプロダクティブ・ヘルスもリプロダクティブ・ライツも侵害したことを日本政府は深く反省すべきであり、二度とこのようなことが起こらないように本腰で対策を考えていってほしい。

人権とは最も弱い立場の人々を窮地から救いあげるためにある。外国人研修生、中高校生の女子、性被害を受ける女性……本来、保護され尊重されるべき人々を、自己責任だと言って闇の中に放り出しすようなことがあってはならない。

抜本的な解決を図るには、刑法堕胎罪と母体保護法の見直し、「安全な中絶」医療が行われていないことなど、全面的な見直しが不可欠である。そうした見直しを通じて、実習生だけではなく日本人女性全体の人権もまた回復されることにもなるだろう。

堕胎容疑 ベトナム人実習生再逮捕 岡山・津山署、薬服用しトイレに 「妊娠したとなれば国に帰らされる」

赤ちゃんの遺体が浄化槽で発見された事件 薬を使って堕胎した疑いでベトナム人の女を再逮捕 岡山・津山市

*1:Abortion rate in Vietnam highest in Asia By VnExpress September 30, 2016とWikipedia: abortion in Vietnamによる

女性たちの70年代──ピルの普及に中絶合法化、女性差別撤廃条約まで。

*VOGUE 2020年4月5日の記事 

世界中でダイバーシティの大旋風が吹き荒れ、ジェンダーギャップを埋めようとする動きが加速している。男女だけでなく、あらゆる人々が平等に機会を得られる未来をつくるためのヒントを、女性に関わる変革が相次いだ70年代に探した。

www.vogue.co.jp

ピルは普及してなく、堕胎罪が残存しており、女性差別撤廃条約は飾り物のこの日本。なでこの国ではジェンダーギャップを埋めようとする動きが低迷しているのかも、もう少し分析してほしかった。