リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

Abortion Before Birth Control

現在、この本の監訳作業を進めています。中絶と避妊が逆転している(つまり、避妊よりも中絶が先に導入され、普及した)日本特有の現象を政治学的に読み解いていった本で、ものすごく面白い! 優生保護法制定当時、優生保護法改正問題、ピル認可の遅れといった現象の裏でうごめく日母や生長の家、家族計画団体、女性団体の動きなどを追っていくのですが、政治オンチのわたしはあちこちで目を開かれました。

じつはこの本、5年ほど前に読んでいて、著者Tiana Norgrenさん(失礼ながら、以下、敬称略)と同じ大学を出た友人に話したら、そのお連れ合いと同じ研究所だったと判明し、メールを出したことがあったんです。「博論が終わったらきっと訳しますね!」なんて言っていたら、思わぬところからこの本を訳したいとの声がかかり、今回、(博論の前に)実現しました(実現しそうです……わたしがちゃんと仕事をすれば)。

いくら遅くなっても今年中には刊行できるはずです。興味のある方はお楽しみに。

ところで、ご存じの方も多いでしょうが、じつはわたしはウィリアム・R・ラフルーアの『水子』も一部訳しています。だけどこのラフルーアに代表されるような「日本の特殊な中絶状況を日本文化で説明しようとする」ことを、Norgrenは批判的に見ています。もっと社会的(政治的)な分析が必要だというわけです。

わたしも、ラフルーアの説を全否定まではしないものの、あれで日本の中絶現象について分かったつもりになるのはかなり危ういと見ています。

第一に、Hardacreが批判しているとおり、ラフルーアは中絶を受ける当の女性たちの現実に目を向けていません。日本文化(特に過去)をもちだして現状を説明しているだけでは、現状肯定や諦めに陥りがちで、「これからどうするか」が見えてきません。

第二に、Norgrenが批判しているとおり、ラフルーアの説では中絶現象はどうにか説明できても、日本の避妊事情(特にピル導入が長々と先延ばしにされたことや、下記の認可時の状況)は全く説明できません。ご存じのとおり、日本の低用量ピルは何度も認可直前までいきながら土壇場でひっくり返され、他の国々より何十年も遅れていたのですが、1999年にバイアグラがスピード認可された直後に、あたふたと認可されました。中絶政策と避妊政策がリンクしているのは間違いないし、現代日本の場合には、少子化対策との絡みも見落とすわけにはいきません。

(余談ですが、この時、日本でようやく認可された!という報に、海外では呑む避妊薬RU-486が認可されたのだと勘違いされた……という笑えない話も聞いたことがあります。日本は避妊技術についても、中絶技術についても、リプロの導入についても、他国に何十年も遅れを来した後進国なのです。)

追伸:この本のタイトル案で悩んでいます。アイディア募集中!