リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

夫が妻の中絶を阻止する権利

CNN.co.jpに「妻の中絶阻止する権利、夫に認める州法が成立 米南部」という記事が載っていますが、読んでみたら少々誤解されそうな内容です。

 リード文は次の通り。

 米南部アーカンソー州で、夫が医師を提訴して妻の人工妊娠中絶をやめさせることを認めた州法が議会を通過し、知事の署名で成立した。妻が配偶者にレイプされた場合でも例外は認めていない。
 胎児の保護を目的とするこの法律は、ハッチンソン知事の署名で成立し、年内に施行される。妊娠第2期の中絶では最も一般的な術式を禁止する内容で、中絶手術を受けようとする女性の夫が医師を訴えて中絶をやめさせることができるとする条項を設けた。

 同じCNNの英語サイトで確認したところ、中絶全般について夫が阻止できるようになったわけではなく、中期中絶でよく用いられる手法(CNNにはdismemberment abortionとありますが、いわゆるD&E拡張除去術のことです)を行わないように夫(子どもの父親)が医師を提訴できるようになったという話です。D&E(拡張除去術)は日本ではほとんど行われていない(ことになっている?)手法です。

もちろん、一部の中絶が行えなくなることだけでもおおごとだけど、中期中絶そのものの禁止はすでにアメリカの他の州でも行われてきたことです。オハイオ州では20週以上の中絶が禁じられています。ただ、現政権下のアメリカで今後も様々な形で女性のリプロダクティヴ・ライツが制限されていくことは必須でしょうね……。

 日本語の記事の方で触れていないもう一つのこととして、アメリカ自由人権協会(ACLU)がこの法は違憲だとして発効前に法廷闘争を開始する予定だということ、カンザス州やオクラホマ州でも同様の法律について法廷で争っている最中であることです。さらに日本語のCNNの記事を読むと、レイピストが被害者の女性の中絶を阻止することも可能なように読めてしまうけど、ここで言っている「レイピスト」というのはあくまでも夫婦間レイプの加害者(夫)のことなので、誤解なきよう……。