リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

「安全でない中絶」に関する国際会議

来週、タイのBangkokで開かれるIWAC2019に参加して来ます。今回のテーマは究極のゴールとしての“Universal Access to Safe Abortion: We Trust Women”です。

3月19-22日の会期に渡って、参加者は「安全な中絶」を目指して、以下の5つの目標に取り組みます:
5D’s of safe abortion. They are Desensitization; De- stigmatization; De-medicalization; Decentralization; and finally, Decriminalization.(試訳:脱感作、脱スティグマ、脱医療、脱中心化、脱犯罪化)

こうした目標が掲げられること自体、この会議の参加者が日本の現状のずっと先を行っているのだということを思い知らされます。日本には、医療の中でさえ中絶薬が導入されていない。そもそも逼迫した議論さえありません。脱医療、脱中心化とは、医療による中央制御を離れ、周縁あるいは末端である自宅で女性個人が中絶薬を使用できるようにすることを意味しています。日本の現状に即しているのは、まずは脱スティグマ化、そして脱犯罪化なのでしょうけど、その道筋はなかなか見えません。厳しい道のりですが、まずは「女性たちを信用する」ところから始めなくては、「人権」という言葉が宙に浮いてしまいます。

http://www.womenhealth.or.th/iwac/2019/

www.womenhealth.or.th

Feminism for everybody

ランセットのフェミニズム特集です。以下の論文が掲載されています。

Are gender gaps due to evaluations of the applicant or the science? A natural experiment at a national funding agency

Organisational best practices towards gender equality in science and medicine

What is The Lancet doing about gender and diversity?

Factors affecting sex-related reporting in medical research: a cross-disciplinary bibliometric analysis

Engaging men to support women in science, medicine, and global health

Why it must be a feminist global health agenda

Gender equality in science, medicine, and global health: where are we at and why does it matter?

Applying feminist theory to medical education

再掲:【重要】流産したときに〜〜掻爬はしないで!

このブログで最も読まれているコンテンツを再掲します

2013年10月23日に掲載した記事【重要】流産したときに〜〜掻爬はしないで! - リプロな日記
です。実は、これが現在でもダントツで読まれている記事だということに、「流産」して「搔爬」を迫られている女性が今もなお大勢いるのではないかと危惧しています。

最近になって、このブログを見るようになった方が知らない情報かもしれないので、あえて再掲しますね。ご活用ください。

望んでいた妊娠を流産してしまった人に,特に流産しても次にまたぜひ産みたいと思っている人に,ぜひ知っておいていただきたいことがあります。


子宮内の赤ちゃん(正確には段階によって胚,胎児など)の死が確認され,「稽留流産(けいりゅうりゅうざん)」(胎児や胎盤などが子宮内に残っていることで,一部が外に出た場合には「不全流産(ふぜんりゅうざん)」といいます)だと診断されたとき,医師から「掻爬(そうは)手術」が必要だと言われるかもしれません。でも,流産後の搔爬は必ず受けなければならない処置ではありません。むしろ,流産後にもう一度妊娠したいと願っている人は,以下に説明するとおり,掻爬手術を受けないほうが賢明です。


掻爬(そうは)とは,道具を使って子宮の内側の膜に沿って子宮のなかみを「掻き出す」処置です。この処置をする時,多くの日本人医師は超音波エコーを使わず,「手探り」で行っています。しかも,取り残しがないようにするために,子宮内膜を全面的に掻くようにすることが長年推奨されてきました。


しかしそれでは,流産に至った今回の妊娠とは無関係な正常な内膜も掻き取られることになります。そうすることで,次の妊娠の着床率が低くなり,子宮腔癒着症などによる不妊がもたらされることもあります。つまり,できるだけ早く次の妊娠をしたいと思っている人であればなおのこと,不妊の可能性を高める掻爬は基本的に避けるべきです。


実際,日本では「中絶すると次の子どもができにくくなる」と漠然と信じられてきましたが,吸引や薬で中絶を行う諸外国ではそんなことは言われておらず、初期の妊娠中絶は次の妊娠には影響を及ぼさないと見なされています。この違いは,日本の中絶で「掻爬」が多用されていることと関連があると考えられます。


では,流産後の処置はどうすればいいのでしょう。多くの場合,いったん流産してしまったら,ほうっておいてもいつかは自然に子宮の中身が出てしまうものだそうです。だけど,流産した子をそのまま抱え続けるのはいやだとか,いつ出てくるのか分からないのでは困るとか,さっさと終わらせてしまいたいなどと感じる人もいることでしょう。


その場合には,「吸引」といって真空掃除機の要領で子宮の中身を吸い出す手術を受けるか,ミソプロストールなどの薬で子宮の中身の排出を促す方法を取るよう,医師と相談してください。(本当は,ミフェプリストン=RU486という薬のほうが簡便で確実なので、日本でも早く承認してほしいです。)


残念ながら,今の日本の医師の中には「流産したら,即,掻爬」と思い込んでいる人もいるようです。そこで,かかりつけの医師がどうしても納得してくれない場合には,他の医院に「流産したので吸引してもらえますか?」と相談してみることをお勧めします(このように他の医師から意見を頂くことを「セカンド・オピニオン」と言います)。すでに流産してしまっているのであれば,後処置を慌ててする必要は特にありません。「中から腐ってくる」なんてことはありえませんので,念のため。


望んでいた妊娠を流産で失ってしまうのは悲しく辛い経験に違いありませんが、次に妊娠した時に、できるだけ流産をくり返さないようにするために、この知識を役立てていただけることを願っています。

アイルランドで中絶情報のリーク

三者機関に調査を要請

先月、中絶が合法化されたアイルランドで、中絶提供施設の従業員が中絶を受けにきた女性の個人情報を用いて嫌がらせをしたという問題が明るみに出ました。

法を変えるだけではなく、人々の意識や態度を変えることの難しさが露呈しました。

写真は、今回の問題に対して抗議運動をする女性たちの姿です。ドブネズミ(rat)は裏切り者を意味しています。HSEというのはHealth Service Executiveの略で、個人に医療や福祉サービスを提供する機能を果たしている公共団体のことらしいです。HSEというのはHealth Service Executiveの略で、個人に医療や福祉サービスを提供する機能を果たしている公共団体のようです。

つまり、Rats out of HSEというのは、HSEから裏切り者は出ていけというわけです。

www.thejournal.ie

Is the future of abortion online?(中絶の未来はオンラインにある?)

世界中でテレメディシン(遠隔診療)による中絶薬(人工流産薬)処方が行われている

アメリカでは現大統領の下でロウ判決が覆されることを懸念した女性グループが、中絶薬のオンラインサービスに力を入れ始めている。

中絶医療の進歩に法がついていってない、と彼女たちは指摘する。アメリカの多くの州で薬物による中絶はクリニック内で行うことが法律で義務付けられているからだ。今や妊娠9週までなら自宅で薬を用いて安全に流産を引き起こすことが可能な時代である。しかも、自宅で自分で服用する場合と、クリニックで服用する場合のリスクに違いはないという。成功率は98%。残り2%になってしまった場合に医療の助けを借りられる先進国に適した方法だという。

だけどこれを日本に当てはめることは難しい。刑法「堕胎罪」が行く手を阻んでいるからだ。

第212条  妊娠中の女子が薬物を用い、又はその他の方法により、堕胎したときは、一年以下の懸役に処する。

だけど、この刑法「自己堕胎罪」の条項は、いずれにせよ女性のrights to health(健康権)にも、RHR(リプロダクティヴ・ヘルス&ライツ)にも反している人権侵害なのだから、撤廃すべきなのである。女性差別禁止条約の委員会からも、「この事項は女性差別にあたるから削除せよ」と命じられている。なのに、日本政府はのらりくらりと言い逃ればかりしている。

この法は時代にも即していない。この堕胎罪ができた時、想定されていた「薬」とは医学的な観点からして「危険」なものだった。現代の人工妊娠中絶薬(効果を考えると人工流産薬の方が正しい)のようなものが開発されるとは、全く予想外だったはずだ。

おまけに、今や日本では、避妊薬も事後避妊薬も違法ではないのに、「妊娠」が確認されたとたんに「違法」になるというのも不条理だ。女にとっては一続きの状態なのに。ならば、「妊娠」を確認しないで服用すれば合法だというのか? 

実際、中絶が禁止されている国々では、妊娠が危ぶまれる時点で妊娠したかどうかを確認しないまま「予防」のために月経血を吸引したり、薬をのんだりする例もあるという。そして、どちらの措置も、仮に妊娠していない女性に施したとしても危険なわけではない。(唯一、問題になるのは子宮外妊娠している場合で、「中絶した」と思い込んで放置しておくと、卵管などで胚が大きくなり、危険な状態にいたる恐れがある。)

法をかいくぐって救いを求める道もあるのかもしれない。だけど、「中絶は悪いもの」と決めつけている刑法堕胎罪をまずはなくすことこそ、女性の精神衛生上、そして社会の通念を変えるためにも、大事なことだと思う。

theconversation.com