リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

記念日?

わたしが毎日新聞の社説について,論説委員に問い合わせをしてからもうじき1年になる。こんな題名の毎日新聞2005年4月21日の社説だ。

看過できぬ中絶32万件「授かりもの」の復権

前に別のところで書いた翌22日の「日記」をコピペする。二度読んだ方,すみません。

ずいぶんごぶさたしてしまったけど、今日という今日は黙っていられなくなってしまった。

昨日付けの毎日新聞の「社説:少子化 看過できぬ中絶32万件」は、それこそ看過できぬ記事である。「子どもを大切に」というしごく当たり前の主張をしながら、そこここに女性への巧妙なバッシングが盛り込まれている。その意図は、「少子化問題の解決」だ。

冒頭から、中絶の多さを訴え(31万9831件という数値を挙げ)、「実数は倍以上との声もある」と述べるが、昨今の中絶数はむしろ減少ぎみの傾向が続いていることを思うと、意図的な前振りであると言わざるをえない。しかも、〈中絶の多さ〉を前景として置いておいて、「大幅削減できれば、少子化問題も一気に解決する」と第一段を締めくくる。

その後の論述でも、たとえばシングルマザー増を狙った社会政策が必要だという訴えはあっても、シングルマザーを作る男性の責任については、全く触れていない(女性のみを責める構図がある)。

また、親のエゴイズムの具体的な例証として挙げられているのは、明治から終戦直後までの「もらい子殺し」のひとつである「1948年に東京・新宿」で起きた事件(寿産院事件に違いないと思うが,記事中に同事件だとの指摘はない)だけだ。それを受けて、「悪癖は断ちきられていない」「最近の中絶にも通底する非情さが潜んでいるのではないか」と推測する。敗戦直後の例を持ってくるしかなかったほど、事例に欠けているというのが真実ではないのだろうかと疑いたくなる。

さらには「子どもは親の所有物とする発想が根強い」(これがかなり変わってきていることは意識調査などで明か)「諸外国と比べ母親によるえい児殺しが異常に多い」(このようなデータは見たことがないので、新聞社に問い合わせ中)「無理心中に子どもが巻き込まれるケースも目立つ」(つい最近起きた無理心中事件は男性が家族を巻き込むものが複数あったように記憶している)と批判し、「子を親の所有物ではなく、独立した人格として尊重する気風が確立されれば、中絶も現在より一段と選びにくくなるだろう」と議論を直結させる。すなわち、〈子どもの人権尊重を盾に女性に圧力をかけることで、その罪悪感を煽り、たとえシングルマザーでも自主的に産むようにさせる〉という意図がありありとしている。

まさに女性のみに責任を負わせ、その罪悪感を煽って子どもを産ませるという、1970年代の水子供養登場以来の「悪癖が断ち切られていない」ように思われてならない。

今になって思うと,えい児殺しが多いとか,無理心中が目立つというのも,戦後の日本の話なんじゃないかな。

毎日新聞からは結局1年間返事がない。「遅いなぁ」と思って,問い合わせ後1週間くらいにMAINICHI INTERACTIVEを見に行ったら,この社説はオンラインから姿を消していた。