リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

前に書いた山谷えり子議員のリプロダクティブ・ライツ解釈の問題について,同議員の発言のおおもとである子どもの権利に関する2002年5月の国連総会特別セッションについて分かったことを,駆け足で書き記しておくことにする。興味のある人は,5/14と4/26の日記も参照してね。

この時のセッションで,アメリカが何をしようとしたかは,すでに紹介しました。The New York Timesの記事("Goals Set by U.N. Conference on Children Skirt Abortion," 11 May 2002, by Somini Sengupta)には,10代の若者たちが中絶を受けやすくすることへの反対を方針に明記することを求めたアメリカやバチカンイスラム諸国の試みは失敗に終わった。未婚の10代の禁欲を性教育の中心に据えることもできなかった」とあります。
http://www.nytimes.com/2002/05/11/international/11CHIL.html

この特別セッションの成果文書は,以下にありました。子どものreproductive and sexual healthを守ることが,各所でうたわれています。たとえば,23条のところでは教育や栄養と並んで「セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルス・ケアを含むヘルス・ケア」は基本的な社会サービスとして両性が同等かつ平等にアクセスできるようにすべきだと述べています。
http://www.unicef.org/specialsession/docs_new/documents/A-RES-S27-2E.pdf

山谷議員が「去年のニューヨークの国連総会では、リプロの文言を削除したらいいのではないかというような議論さえ行われている」と言っていたのは,やはりアメリカやバチカンイスラム諸国が「リプロダクティブ・ヘルス」に関して,性教育との絡みで難癖をつけた件に該当するようです。UNICEFなどの国連機関や新聞記事などでも確認したところ,少なくともこの時の総会で「リプロダクティブ・ライツ」という文言を削除せよといった話はどこにも見あたりません。なお同議員は,2005年になってから(162-参-外交防衛委員会-4号 平成17年03月29日)次のような発言をしていました。

山谷えり子君 ……私はこの件に関して平成十四年七月二十二日の衆議院決算行政監視委員会で、リプロダクティブライツというのは世界的に合意されていない概念だと、日本政府はどう考えているのかと言ったことがございます。坂東政府参考人は、男女共同参画基本法が制定される前の男女共同参画審議会の答申におきましても、リプロダクティブヘルスについては、生涯を通じた女性の健康ということで、大事だという合意はされているけれども、ライツについてはいろいろな意見があるというふうな記述になっております、国際的な場でもリプロダクティブライツについてはいろいろ議論が行われていることは、今、私が、山谷が御指摘の、今指摘のとおりでございますと答弁なさいました。
 これが北京会議の七年後なんですね。ですから、北京会議でリプロダクティブヘルス/ライツが世界的に合意されたというのは間違いであり、そして日本ではライツは認めてないと坂東政府参考人が言っているんです……
……日本においていわゆるリプロダクティブライツが認められているというような言い方は誤解を招くんじゃないでしょうか。……
……ジェンダーとかリプロダクティブヘルス/ライツとか、概念が分かれているものを更に英語にして日本人に分かりにくくして行政の政策を進めることはやめていただきたいと思います。国民のコンセンサスが得られていない部分だというふうに思いますので、今後どのように行政をお進めなさるつもりですか。

○政府参考人(名取はにわ君) 議員がおっしゃいましたのは、多分次期の基本計画につきまして、ジェンダーとかリプロダクティブヘルス・ライツという用語を用いることについてのお尋ねだと思いますが、現在この基本計画につきましては中間整理に向けまして専門調査会において御議論をいただいているところでございます。

山谷えり子君 私は、言葉とともにそのような概念も使うべきではないと思っております……

名取氏が言っている「次期の基本計画」とは男女共同参画基本計画のことなので,やはり山谷議員の意見が通って,「リプロダクティブ・ライツ」の定義が書きかえられたと考えてよさそうです。

一連の議論を見ていると,どうやら山谷議員にとっては「リプロダクティブ・ライツ=産む産まないを女が決める権利」,「リプロダクティブ・ヘルス=中絶以外の生殖にまつわるあらゆる健康(産むための健康??)」という分け方になっているようなのですが,それ自体が間違っていると誰も指摘しなかったのは情けない。また,今やreproductive and sexualと,性的な健康や権利も含めて議論されるようになっているということも,山谷議員は完璧に無視しているんですが,その点についても誰からの指摘もない。2002年の子どもに関するセッションの報道や成果文書を見る限り,reproductiveとsexualはほぼ常にセットで提示されていたようですが……誰も原文を確かめなかったの?