リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

ICPD+30の報告書と日本の外務大臣演説の厳然たるギャップ

これを無視していいのか――カイロ会議から30周年のイベントの成果を無視し勝手に捻じ曲げ、人々の権利侵害を放置している日本

該当する国連文書ECE/AC.32/2023/2


30th anniversary of the International Conference on Population and Development (ICPD30), 5 September 2023 - 23 September 2024

報告書はICPD+30: SEXUAL AND REPRODUCTIVE HEALTH AND RIGHTS, Sivananthi Thanenthiran, ARROWであり、タイトルからしてSRHRが中心であることが一目瞭然である。

*中絶法とソドミー法がよく言及されるが、これらの法律には、個人やカップルのセクシュアリティ、主体性、自律性、プライバシーに対する前提が内在しており、それがセクシュアル/リプロダクティブ・ライツの完全な達成を妨げている。 中絶が合法化されている地域では、特に期間の制限に関して、中絶へのアクセスに問題があり続けている。費用、距離、交通の障壁のために、中絶サービスを受けに来るのは、より貧しく社会から疎外された女性であることが多い。リプロダクティブ・ジャスティスの枠組みにおける中絶の重要性を強化する必要がある。望まない妊娠は、経済、暴力、医療制度やサービスへのアクセス、情報と教育、適切な避妊方法へのアクセス、避妊具やリプロダクティブ・ヘルス・サービスをカバーする医療保険、そして自律性といった、周縁化や脆弱性、失敗が交錯した結果である。
* 待機期間、親や配偶者の同意、裁判所命令、精神鑑定など、法律や医療提供者によって引き起こされる遅延は、貧しい人、若い人、遠隔地に住む人、移住者、障害者、先住民、低カーストトランスフォーマーなど社会的に疎外された立場にある人にとって、必要な中絶サービスを利用することを難しくしている。

ICPD+30に関する日本の対応

日・UNFPA政策協議(2024年)の開催(結果概要)|外務省

日本の外務大臣がICPD+30のために行ったスピーチはICPD+30の趣旨とは全く無関係で、かつUHCの概念を勝手にねじまげて日本がSRHR、特に女性のそれを「無視してきた」事実を看過している。こんなとんちんかんなスピーチについて、マスコミが全く批判どころか、報じてすらいないことも、嘆かわしい実態である。

国会議員会議「ICPD30:誰一人取り残さない高齢化社会の実現に向けて」での上川外務大臣の挨拶 令和6年4月23日>>(演説の骨子)
国会議員会議「ICPD30:誰一人取り残さない高齢化社会の実現に向けて」

外務大臣挨拶


冒頭
●本日、アジア人口・開発協会(APDA)、人口と開発に関するアジア議員フォーラム(AFPPD)、そして国際人口問題議員懇談会(JPFP)の主催のもと、『国会議員会議「ICPD30:誰一人取り残さない高齢化社会の実現に向けて」』が開催されることに、心からお祝い申し上げます。
●私も第7代 JPFP 会長として人口問題に取り組んできた立場から、ICPD30 周年及び JPFP 設立 50 年を迎えることを感慨深く思います。
●また、本会議の開催にあたりご尽力いただきました、福田康夫内閣総理大臣・APDA 理事長、武見敬三 厚生労働大臣・AFPPD 議長、黄川田仁志 JPFP事務総長に敬意を表します。


人口と高齢化社会
●人口問題は、世界の全ての国々に共通の課題です。特に、本会議のテーマである「高齢化」は人口問題を考える上では不可欠な要素です。
●我が国では高齢化が欧米諸国に比べても急激に進行しており、総人口に占める 65 歳以上人口の割合は 29.0%です。また、我が国の健康寿命は世界でも有数の水準として延伸傾向にあります。


健康な高齢化
●こうした健康寿命の延伸には、乳幼児期から老年期までのライフサイクルの各時期において「健康とウェルビーイング」を重視した、脆弱層に着目し、誰ひとり取り残さない、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)*1という視点を取り入れた、我が国ならではの経験があります。
●日本は、自らの知見や経験をもとに、国連総会、WHO 総会、G7、G20TICAD等の国際的な議論の場において、UHC の推進を積極的に主張し、その中で、健康な高齢化を推進してきました。
●2020 年 12 月には、我が国及びチリが共同ファシリテーターとして国連総会本会議に提出した「健康な高齢化の 10 年」決議案が採択されたことはその最たるものと言えるでしょう。
●更に、我が国はこれまで開発途上国において高齢化対策や社会保障制度整備の支援、専門家の派遣、研修等の取組を通じ、日本の高齢化対策等に関する経験・知見の共有を行ってきました。


人口・開発に関する議員活動
●こうした日本の姿勢は今に始まったことではありません。人口問題に対するコミットメントには、長い歴史があります。
●本日の会議を主催する 「国際人口問題議員懇談会(JPFP)」が設立されたのは1974 年です。 日本は戦後復興を果たし、急激な経済成長を実現しました。
●その中で、人口とも関連が深い資源・食料危機といった課題の中で人類が生きていくためにはどうすべきか、言い換えればいかに持続可能な開発を達成するかという強い危機意識がありました。JPFP はその危機意識の中から生まれました。
●JPFP は、日本の戦後復興の経験を共有することで世界的な人口、貧困及び保健の課題に対処してきました。
●目を大きく世界に見開いて先行きの長い人口問題に取り組むという、まさに各国との連帯の精神が、我が国の国会議員から発揮されたものです。
●1982 年には、アジア人口開発協会及び人口と開発に関するアジア議員フォーラム(AFPPD)が設立され、アジア地域の人口と開発に関する行政と立法との連携を促進し、各国の法整備や予算措置を後押ししてきました。
●現在では、この活動は世界中に広がり、世界全ての地域には人口と開発に関する地域議連、多くの国には超党派の議員グループが設立され、活発な活動が続けられています。
●日本政府は、国際家族計画連盟(IPPF)と国連人口基金UNFPA)への拠出を通じて、人口問題への取組を後押ししています。


議員ネットワークへの日本信託基金(JTF)の貢献
●各国のリーダーたる国会議員による貢献は、あらゆる社会・開発問題と密接に関係する人口問題の解決において必須の要素です。
●日本政府としてもこの活動の支援をしており、2003 年に国連人口基金(UNFPA)に日本信託基金(Japan Trust Fund:JTF)を設置したのはそのひとつです。
●日本信託基金では、世界各国の人口と開発問題に関する議員グループの議論、各国の人口事情視察団の派遣、人口と開発に関する国際会議の支援を行ってまいりました。
●本日のこの会議も、日本信託基金事業として実施されており、日本だけでなく、アラブやアジアの人口と開発に取り組む国会議員を中心に、活力ある高齢化に向けた具体的な対応策を共有し、各国の立法・政策立案を後押しすることが目的です。
●これまでも、日本信託基金によって実施された会議に参加した議員の方々の手によって、数多くの人口関係の立法がなされたと承知しています。日本政府としても、このような支援を引き続き行っていきたいと思います。


結語
●本年は国際人口開発会議(ICPD)から 30 周年を迎える記念すべき年です。
●我が国は、来月 15 日-16 日にバングラデシュで行われる ICPD30 グローバル・ダイアログ「Demographic Diversity and Sustainable Development」を共催いたします。
●この会議では、高齢化を含む様々な人口のあり方―「人口の多様性」に対し、持続可能な開発を達成するために必要な視点が議論されます。
●各国国民の代表である国会議員が参集し、活発に議論を行うことは、30 年前の国際人口開発会議で策定された「行動計画」を達成するため、また、多様化する人口に対応するための国際的な協力体制を構築する上で、極めて重要です。
●国際人口開発会議から 30 周年を迎えるこの機会に、活発なご議論をしていただき、高齢化という切り口から、人口と開発の問題への国際的な取り組みの機運を一層高めていただくことを、心から祈念いたします。
●御清聴ありがとうございました。

*1:日本のUHCは女性にとってとりわけ重要なSRHRをほ無化した概念になっているという点で国際的な基準とは全く異なる