リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

女性差別とリプロダクティヴ・ライツ

今の時代,女性差別はとても見えにくいものになっている。だけど実際にこの国の女性が海外諸国に比べて社会的にパワーが弱いことは,何度かこのブログでも取り上げてきたし,新聞一つ取っても「女性」が見られ,辱められ,貶められ,傷めつけられ,殺される対象であることにうんざりせずにはいられない。

今日の朝日新聞では,女性のリプロダクティヴ・ヘルスの観点からすると明らかに「後退」である記事にがっかりすると共に,同じ紙面にあいかわらず性的な視線でのみ女性を見ている週刊誌の広告と,女性への暴力事件が複数掲載されていたことに辟易して,つい言いたくなった。
 
まず,リプロに関する記事というのはこれだ。本日付朝日新聞朝刊である。

乳がん・子宮頸がん無料検診、対象を限定 厚労省、クーポン見直し

 がん検診の受診率を上げるため配っている無料クーポンについて厚生労働省は来年度から、乳がんと子宮頸(けい)がんの対象を絞り込む方針を決めた。開始から5年がたち、全ての対象者に一度ずつ行き渡ったため。代わりに、はがきや電話で受診を呼びかけ、特定健診(メタボ健診)と同時にがん検診を実施するなど受けやすい環境を整える。

2009年度から,前年度に40,45,50,60歳になった女性に配られてきた乳がんは,初めて検診を受ける40歳に限定してクーポンを支給。子宮癌も20,25,30,35,40歳に配っていたのを20歳だけにする。

呆れてしまうのは,「男性にも配る」クーポンは「これまで通り40、45、50、55、60歳の男女に配る」ということ。明らかに「女性にのみ関連する病気について削減」したわけだ。記事中では以下のような言い訳が見られる。

 日本対がん協会の調査では、導入当初の09年度に検診を受けた人は、前年度と比べ乳がんで23%、子宮頸がんで15%増えたが、その後はともに減少。担当者の4割以上が「クーポンの効果は頭打ちの印象がある」と答えていた。

 厚労省乳がんや子宮頸がんは2年に1度、検診を受けるよう勧めている。今後は検診を受ける時期がわかるポータルサイトを開設、5年間の事業でできた対象者の台帳などを活用し、個人への啓発に力を入れる。(辻外記子)

しかし同じ朝日新聞で,先週(9月13日)の記事では,次のように報じていたのだ。

乳がん死亡率、初の減少 2012年、検診など効果か

 【岡崎明子】乳がんで亡くなる女性の割合が、2012年に初めて減少に転じたことが、厚生労働省の人口動態調査でわかった。専門医らは「マンモグラフィー(乳房X線撮影)検診の普及や、新しい抗がん剤の登場などの効果」とみている。欧米では20年ほど前から減る傾向にあったが、日本は死亡率が上昇していた。

≪中略≫

 00年にマンモ検診が導入され、視触診を併用して、50歳以上で原則2年に1回行うとする指針が作られた。04年には40歳以上にも対象が広がった。マンモの受診率はまだ30%台と低いが、受診率が上がれば、さらに死亡率は下がりそうだ。≪後略≫

検診が導入され,おそらくクーポンのおかげもあってようやく受診率が上がってきたことで,死亡率が減る傾向が見えてきたばかりなのにやめてしまうというのだから,女性を殺したいのかいと嫌味の一つも言いたくなる。

しかも,同じ紙面に女性が殺された事件が2つも載っている。

京都・亀岡女性殺人、容疑の男逮捕

 京都府亀岡市追分(おいわけ)町馬場通の遊歩道で、近くの眼鏡店の従業員山田詠子さん(32)がのどを刺されて殺害された事件で、府警は19日、出頭してきた系列の眼鏡店の店長岡本隆史容疑者(47)=京都市右京区梅津坂本町=を殺人容疑で逮捕し、発表した。「ナイフで刺して殺した」などと容疑を認めているという。≪後略≫

元交際相手による殺人事件らしい。もう一つ朝日デジタルでは見当たらなかったので全国紙には載っていないかもしれないが,私が取っている朝日新聞大阪本社版の社会面にはこんな記事がある。

42歳の女性死亡殺人事件で捜査 奈良・ホテルで発見

 奈良県天理市のラブホテルで18日に女性が死亡しているのが見つかり、県警は19日、司法解剖の結果、女性は大阪府東大阪市布市町2丁目、職業不詳山本めぐみさん(42)で,死因は窒息死と発表した。

 首の骨が折れていたことから殺人事件と断定。一緒に泊まっていた男の所在が分からなくなっており、何らかの事情を知っているとみて行方を追っている。
≪後略≫

女性が性的に搾取され,殺された可能性が高い。

一方で,金曜日の定番だがこの日も男性週刊誌等のスケベ心丸出しの広告が目立つ。たとえばこんな具合だ。(宣伝してあげるつもりはないので,固有名詞等は消して,目立つ見出しの言葉を少し拾います。)

F誌 「禁断のSEXシーン」「グラビアアイドルのSEX」(人気タレントグループメンバーの「白ビキニスクープ撮り下ろし」――しかし,今気づいたが,同じ公告の中で3回も「スクープ」という言葉を使っている。写真2点で,1点目は上半身裸なのをさりげなく隠した構図,2点目はビキニトップの胸元が露わ。

この週刊誌のすぐ隣に,大手出版社による映画「ハダカのXXX:主演女優の衝撃美熟ヌード写真集」の公告。

P誌 女性の生殖器が動くさまが見られるというサイトについて「AVじゃないから無修正」と紹介。「グラマラスクイーン撮り下ろし」他,媚びたような目線の女性タレント等の写真数点,「キスフレ不倫」「SEXデパート」「愛の快楽装置」

G誌 「独占撮り下ろし・袋とじカラー 元XXX ついにAVデビュー」「可憐なヘア」「スペシャルカラー 伝説のヘアヌードコレクション」「スクープ撮り下ろしカラー 美人テレビ局レポーター 退職記念ヘアヌード」「風俗資料館」「エロエロ蔵書」「淫靡と背徳のエロス」こちらも胸は隠しながらもヌードを連想させる女性の写真を5点使用。

おまけに,前から気になっている某禁煙グッズのマンガ形式の宣伝も載っていた。ちょうど小銭があったから商品を買おうと店に入ったら,店員が可愛い女の子だったのでわざと札を出しておつりをもらう際に手を握っちゃう・・・というもの。他愛もない男のスケベ心なんだから許してほしいという声も聞こえてきそうだが,実のところ,これってセクハラではないのだろうか,疑問である。

毎週,毎週,こんなのが朝刊にでかでかと載っているのだ。回春剤らしきものの広告もしばしば。しかも,子どもにもっと紙面を隅々まで読んでもらうために「しつもん! ドラえもん」というコーナーをわざわざ設けている大新聞で,こうなのだから嫌になる。

都会で電車や地下鉄を使っている人はなおのこと,この種の広告をうんざりするほど見せつけられているはずだ。

日本人はあまりにもこういうものに鈍感だ。すっかり慣れさせられているからだろう。

こういうものをすべてなくせと言っているのではない。(本音ではなくなってほしいが。)せめてすみわけをしてほしい。分煙と同じことだ。こういうのを見たくない人たちや,見せたくない子どもたちの目に触れないところで宣伝してほしい。コンビニでポルノ的な本が並んでいるのも日本くらいだと聞いている。

女性を性的な慰みものとしてしか見ない一部の文化は,社会全体で女性への差別や蔑視を温存するのに大きく貢献しているのではないか。少なくとも,女性を尊重していたら,そんな広告をでかでかと載せることにためらいを覚えるのではないか。女性自身がもっと自尊心をもっていたら,やめてほしいともっと言えるのではないか……と思わずにいられない。少なくとも私は大声で「NO!」と言いたい。

しかし,女性を性的な慰みものとしたり,女性を貶める行為を正当化したり誇ったりするのは,万国共通の問題でもあり,そのように女性を尊重しないことが女性の健康を阻害していることも事実らしい。

今年の1月バンコクで開かれた女性の健康と危険な中絶に関する国際会議でDavid A. Grimes, M.D.(グリメス医師)は,女性蔑視と女性の健康軽視との関連を示した優れたプレゼンテーションを行った。世界中で,現実に,またメディアの中で,女性たちがどのように扱われているのか,そこにはあからさまな「女性嫌い」が潜んでいることを映像を使って例証したのである。この発表のあまりのインパクトに,会場はしんと静まり返り,誰ひとり質問も出なかったというしろものである。

ここを読む人が気軽にクリックして衝撃を受けるといけないので,ダイレクトにリンクは張らないことにする。内容はすべて英語だけれども,関心のある方はIWAC2013のホームページでSpeakers' Presentationをクリックし,MYSOGYNY AND WOMEN’S HEALTHで発表に使われたパワーポイントが見つかります。