リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

海外と日本の産科(新生児科)のCOVID-19対策の違い

管理と尊重――真逆の姿勢に貫かれている医療

海外で働く日本人ミッドワイフが嘆いていました……科学的エビデンスに基づいておらず、個人を尊重していない日本の医療。


わたしも常々、中絶医療に関して彼我の違いに驚かされていますが、新生児に対する授乳の扱いが全然違うということを教わりました。


令和 2 年 9 月 2 日付三学会(公益社団法人日本産科婦人科学会公益社団法人日本産婦人科医会、一般社団法人日本産婦人科感染症学会)による「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応(第 5 版) 」より

母乳にウイルスが含まれるという報告もありますので、新生児は完全な人工栄養とし、母児双方とも PCR でウイルスが陰性となるまで母体との接触は避けてください。

一方的な命令、医師が患者を「管理する」という姿勢が感じられませんか。「~しちゃだめ」と言われ続ける経験は、人をディスエンパワーしてしまいそうです。


一方、米疾病予防管理センター(CDC)情報に基づいているNPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会の「CDC: 妊娠、母乳育児、新生児の育児、2020年9月11日改訂」の母乳育児の説明は次のようになっています。

新型コロナウイルス感染症と母乳育児


今のところ、母乳を通じて赤ちゃんにウイルスが感染する可能性は低いという証拠が示されています


お母さんが、家族や主治医と一緒に、母乳育児( breastfeeding)を始めるかどうか、どのように始めるか、あるいはどのように続けるかどうかを決めます。 母乳は多くの病気に対する予防効果があり、ほとんどの赤ちゃんのへの最良の栄養です。新型コロナウイルス陽性のお母さんが、母乳を通じて赤ちゃんにウイルスを感染させるかどうかははっきりとは分かっていませんが、いまのところ、可能性は低いという証拠が示されています。


助けになる母乳育児のコツ


病院での新生児期の母子分離によって、母乳育児を始めたり続けたりするのが難しくなる人がいるかもしれません。助けになるコツをお示しします。

  • 頻繁に手や搾乳器(理想的には病院基準のもの)で搾乳すれば、母子分離の間も母乳の産生が確立するのを助ける
  • 特に最初の数日間、 2〜3時間毎(24時間に少なくとも8〜10回、夜間も含む)の搾乳は乳汁産生への合図となり乳管閉塞や乳腺炎を防ぐ
  • 入院中に乳汁産生が確立できなかったり、自分の具合が悪くて一時的に母乳育児を中断しなくてはならなかったりしたお母さんは、母乳育児支援者に援助してもらうことにより母乳復帰(リラクテーション) ができるかもしれません。 母乳復帰についての追加情報はこちら⇒ relactation.
  • 新型コロナウイルスに感染していなくても、授乳や搾乳の前にはいつも石けんと水で少なくとも20秒手を洗う。 石けんと水が使用できないときは、60%以上のアルコールを含む手指消毒剤を用いる


新型コロナウイルスに感染していて直接授乳を選んだお母さんへ

  • あらかじめ手を洗う
  • 直接授乳中はマスクをする


新型コロナウイルスに感染していて搾乳を選んだお母さんへ

  • 専用の搾乳器を使う(共用しない)
  • 搾乳中はマスクをつけ、搾乳機やボトルの部品に触れる前や搾乳前には少なくとも20秒石けんと水で手を洗う wash your hands
  • 毎回使用後には「搾乳機の適切な洗浄についての勧告」recommendations for proper pump cleaningに従って母乳に接触した部品すべてを洗浄する
  • 新型コロナウイルスに感染しておらず、新型コロナウイルス感染症のハイリスク increased risk for severe illness でない同居人に搾母乳を赤ちゃんに与えてもらうことを考慮する。お赤さんの隔離期間中isolationおよびお母さんの隔離終了後 completed isolation2週間、赤ちゃんに栄養を与える養育者は皆、赤ちゃんの世話をしている間中ずっと、マスクをつける

中絶医療に関してもそうなのですが、当事者の女性(ここでは母親)に情報を与えて自己決定してもらい、女性が決めた方針をサポートしていくケアを提供するという方針が徹底されているし、女性自身も何をどうしたらいいのかについて、アドバイスが非常に具体的でポジティブです。こうやって「自己」を尊重されることは、とくに初めての育児で自信を失いがちな母親たちには、とても貴重な経験ではないでしょうか。

www.acog.org