BuzzFeed News·公開 2021年10月5日
緊急避妊薬の市販薬化をめぐり、日本産婦人科医会が厚生労働省に提出した資料がが「調査結果が歪曲されている」と批判を浴びた問題で、同会が謝罪した。当初の資料では「産婦人科医の91%が反対」と結論づけていたが、反対と回答した割合は42%だと訂正した。
by Saori Ibuki
伊吹早織 BuzzFeed News Reporter, Japan
望まない妊娠を防ぐために使われる「緊急避妊薬(アフターピル)」の市販薬化(OTC化)をめぐり、厚生労働省の検討会が10月4日、一部オンラインで開催された。
日本産婦人科医会の種部恭子・常務理事は、同会が検討会資料として提出した調査結果が、薬局販売に対する反対意見が実際よりも多く見えるよう「歪曲されている」と批判された問題について、「アンケートに協力していただいた方の意思を反映した表記にしなかったことについて、産婦人科の先生方にこの場でお詫びを申し上げます」と謝罪し、訂正した。
「賛成」なのに「現状のままでは反対」?
問題となったのは、日本産婦人科医会が検討会における審議のために厚労省に提出した「産婦人科における緊急避妊薬処方の現状、~緊急避妊薬のOTC化に関する緊急アンケート調査より~」という資料。
同会会員の産婦人科医を対象に、8月25日~9月12日にかけて実施されたアンケート調査から、Web上の回答のみをまとめた「暫定値」を記載したものだったという。
関係者提供
アンケートの質問用紙。薬局販売に対する賛否を問う箇所では、1つ目の質問で薬局販売に「賛成(条件付き賛成を含む)」を選んだ人は、続く質問で「無条件で賛成」か、「設けた方が良いと思う要件または必要と思われる取り組み」を11の項目から複数回答するようになっていた。
提出された資料では、薬局販売に「賛成(条件付き賛成を含む)」と回答した上で、性教育や性暴力被害者のためのワンストップセンターの充実などの「設けた方が良いと思う要件または必要と思われる取り組み」を選択肢から選んで回答した層が、賛成派ではなく、「現状のままでは反対」の反対派として集計されていた。
その集計をもとに、アンケートに回答した産婦人科医の計91%が「課題が解決されていない現状のままでのスイッチOTC化には反対であった」と結論づけられており、「結果を歪曲している」と指摘する声が上がっていた。
日本産婦人科医会「産婦人科における緊急避妊薬処方の現状 ~緊急避妊薬のOTC化に関する緊急アンケート調査より〜」より
厚生労働省
医会はこれまでも「義務教育で適切な性教育が行われていない状況下での、緊急避妊薬のOTC化は反対」という姿勢を示している。
実際は反対42%、賛成と条件付き賛成で54.7%
種部医師は検討会で、「アンケートに協力していただいた方の意思を反映した表記にしなかったことについては、産婦人科の先生方にこの場でお詫びを申し上げます」と謝罪したのち、Web回答と郵送での回答を合わせた全回答の集計結果という数値を口頭で発表した。
その内容によると、「無条件で賛成」と答えた人が432人で7.8%、「条件付きで賛成」の回答をした人が2613人で46.9%、反対を選んだ人は2343人で42%だった。
「無条件で賛成」と「条件付き賛成」を合わせると、過半数を占める計54.7%となる。
回答者の91%が反対と結論づけた点についても「バイアスがありすぎというご指摘を受けており、その通りだと思います」と語った。
一方、「賛成」と「条件付き賛成」を選んだ人の中には「非常に温度差がある」と言い、中でも「条件付き賛成」と回答した人の8割以上が「性教育の充実」が必要と答えたことを強調。
「(緊急避妊薬が必要される理由として)男性任せの避妊の使用や膣外射精、自覚のない性暴力が非常に多いこと、特に中学生が性的同意のない性交後に緊急避難のために受診をしているという現場を(アンケートに回答した産婦人科医が)見ていることから、このようなことが起こらないようにしてほしいという意見が多数書かれておりました」
「賛成か反対かという議論で対立を作るのではなくて、反対と答えた方たちの合意形成を図るためには何が課題なのか、その課題解決に向けて考えることには、色々なヒントが隠されていると思います」と言い、現場の医師らが感じている課題を、検討会の議論にも反映すべきだと述べた。
同じく医会の安達知子・常務理事は検討会後、BuzzFeed Newsの取材に「個人的には『条件付き賛成』を『現状のままでは反対』と表記したことは間違いで、きちんと設問通りに表記すべきだったと思っている」とコメント。
調査資料については、少しでも回答率を上げるために調査期間を伸ばすことなども検討した結果、集計から資料提出までの期間が非常に短くなり、当初の資料で示した「暫定値」のまま公表するに至ったなどと説明した。
また、内容について「何が何でも(緊急避妊薬の薬局販売に)反対という人が4割いるとは思わなかった。そこは重く受け止めなければない」などと話した。
委員も問題視、資料差し替えを求める
医会の提出資料について、検討会の委員からも、調査目的や背景に書かれている文言から「OTC化に対して、色眼鏡的に見ていると感じられる」と問題視する声が上がった。また、産婦人科医の大多数が緊急避妊薬の薬局販売に反対しているかのように見える資料を、厚労省のサイトで公開し続けるのは問題だとして、暫定値でもいいので即日、資料を差し替えるべきだと指摘された。
厚労省の担当者は「現在の資料の一部に注釈を加えるなど、医会と相談した上で対応をする」とした。
「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」共同代表で、この日の検討会に参考人として出席した産婦人科医の遠見才希子さんは、「今回の検討会は4年ぶりに、OTC化に向けた議論が再開された重要な場。要望申請は5月にしており、医会は準備不足と言わざるを得ません」とコメント。
「設問の表現などからも、反対という結論ありきで調査が行われていたのは明らか。信頼性や中立性の観点からもこの検討会に提出するべき内容なのか、よく検討してほしい」と訴えた。
「アリバイ作りに使われた」
アンケート調査に参加した産婦人科医の宋美玄さんは「今回調査が行われた時は、医会が会員である産婦人科医の声を聞いてくれるということで、最初は喜んでいました」とBuzzFeed Newsの取材に語る。「でも、蓋を開ければ『条件付き賛成』を『反対』にカウントするなど、『産婦人科医はみんな薬局販売に慎重です』というアリバイ作りに使われたようで、とてもがっかりしています」
「こうした問題が起きると、産婦人科医が女性の権利を侵害しているかのような受け止めをする人も多く、現場の産婦人科医にも迷惑だし、私自身恥ずかしく感じました」
医会に対しては、「女性の健康と権利という重要な問題について、上層部の先生たちの経験や意見のみで判断するのではなく、会員である産婦人科医たちの意見をなるべく誠実に吸い上げた上で、個人の感情なども超えた判断をして欲しい」と語った。