リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

オーストラリアとカナダでラインファーマの「中絶薬」が重宝されるわけ

ラインファーマ社が日本に承認申請している「ミフェ・ミソ」コンビ薬は割高だが……

このところイギリス人産婦人科医のサムさんと何度かやりとりしていて、日本と全く同じだと思われるミフェプリストンとミソプロストールがラインファーマ社の「コンビパック」として販売されているオーストラリア(MS-2-Step)とカナダ(Mifegymiso)の中絶事情が少し見えてきた。

まずサムさんから頂いた情報。カナダ、オーストラリア、参考として英国のミフェ+ミソの調達コストです。(10月6日の1ドル=144.6円で換算しているので、円安が進むと日本円換算額はもう少し高くなるはず。)

Australia
Combi pack: 380 AUD = 246 USD =35,570 JPY
Private service around 550 AUD = 359 USD = 41,900 JPY for EMA
With Medicare, only 62 AUD=4,723 JPY

Canada
Combi pack: around 400 CAN = 293 USD = 42,400 JPY.

UK
Mife Mifepristone 200mg per tablet £8.40
Misoprostol 200mcg per tablet £0.54
Cost of medication to provider for EMA = £10.56 = 12 USD = 1,734 JPY

オーストラリアでは3万6000円、民間で4万2000円くらい、カナダでも4万2000円くらいだという。イギリスについてはコンビパックの値段ではなかったのでどうしてと訊いたら、イギリスの医者は割高なコンビパックは買わない。バラで買ったほうが安くなるから1回のEMAで1700円くらいだとの答えが返ってきた。

どうしてオーストラリアとカナダでは「割高な」ラインファーマ社のコンビパックを使っているのか……そこでふと気づいた。両国とも国土が広すぎて「医療機関に到達できない」人が多いという話を聞いたことがある国だ。そもそもオーストラリアは、コロナ前からいち早く「テレヘルス」を導入していたし、カナダは出遅れているけれども、やはり「テレメディシン」を駆使することで、中絶薬を届ける体制を作ろうとしている最中だ。

つまり、国土が広くて医療にかかりにくい人が多い国では、95%の人が診療所に通わなくてもすむことは大きな魅力なのだ。妊娠のごく初期の中絶をより多くの人に届け、医師が介在しなくても患者が自分で対処できるようにするために、言い換えると「セルフケア」を行うためには、一式揃っていて、薬の取り違えもなく、服薬の方法も一律で足りるコンビパックは便利なのだ。何よりも「医者いらず」のこの薬があれば、全国の医師たちに「新しい薬の処方」を指導を徹底する必要もなくなる。

そう考えると、国土の小さいイギリスでこの「割高な薬」が避けられている意味も分かる。イギリスはすぐにかかれる診療ネットワークが国内にはりめぐらされている。万が一あったら対応できる医療制度が整っているところでは、コンビパックの利益はあまりない。それどころか、世界でもおそらく最も中絶薬の扱いに慣れている国のひとつであるイギリスの医師たちは、自分たちなりのさじ加減でミフェ-ミソを使いこなしているため、パックではかえって使い難いと感じているようだ。そして何よりも「高い」。イギリスでは中絶は基本的にすべて公費負担になっているため、高い薬を使うことで医師たちの儲けになるということはない。そして合理性を好む国柄でもある。そこらへんが、イギリスでパックではなくバラ売りが好まれるゆえんなのかもしれない。

さて、では日本はどうか。日本も国土は狭い。しかし、最近、産婦人科医療はまばらになりつつあり、地方では診療を受けるのが難しくなっている地域も出ている。しかも、こと中絶薬について、日本の医師たちの知識レベルは低い。そもそも「入院させて監視する」ほどびくびくしていること自体、2003年からこの薬の安全性についてずっと情報を追ってきた私から見ると異常な事態だ。医師たちの間で、この薬の安全性について知識が書けている証拠だろう。

そうなってくると、日本でコンビパックを導入するには、入院どころかテレメディシン、遠隔医療にすることこそ求められることではないかと思う。ぐずぐずすることなく、ためらうことなく、すぐにオンラインで診察を受け、自宅に送付してもらうことで、日本の女性たちはより良く自分の妊娠を管理できるようになるだろう。

ただしそのためには、「価格」がある程度抑えられる必要がある。オーストラリアでは民間施設で4万2000円くらいだったが、健康保険に入っている場合には5000円以下に抑えることができた。カナダも、州によっては健康保険がきく。

となると、日本で「中絶薬」をより良く活用していくためには、公費を投入し、遠隔医療(テレメディシン)を導入していく必要があるのではないか。

そうすれば、指定医師たちを徹底的に教育しなくてもこの薬を安全に必要とする人のもとにより良く届けられるようになるはずだ。

カナダについて
いくつかの州政府が「no cost plan」を発表している。

Universal, no-cost coverage for Mifegymiso in B.C. to start on Jan. 15, 2018 | BC Gov News
Abortion Pill Available Across Ontario at No Cost*ただしこの記事では、「妊娠49日まで」となっており、もしかしたら州が使用可能週数に規制をかけている可能性もある。

また、州によって「病院やクリニック」で行われる中絶が保険で無料になる。
Abortion Coverage by Region - National Abortion Federation Canada