リプロな日記

中絶問題研究家~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

産む自由/産まない自由を脅かす政治的発言への反論

以下は塚原久美による書下ろし

女性を「産む道具」とみなす危険な思想
 2025年7月の参議院選挙において、参政党の神谷宗幣代表が行った一連の発言は、女性のリプロダクティブ・ライツ(性と生殖に関する権利)を根本から否定する極めて危険な内容である。これらの発言を看過することはできない。


問題となった発言の本質
 神谷代表は「申し訳ないけど高齢の女性は子どもが産めない」「大学や高校を出たら、家庭に入って子どもを育てるのもいいですよ」と述べ、さらに別の機会には「子どもを3人育てたお母さんのほうが次に就職したときに給料が高いって状況にする」という政策を提案した。
 これらの発言に共通するのは、女性を一人の独立した個人として尊重するのではなく、国家の人口政策のための「産む道具」として位置づける思想である。


生物学的事実の政治的悪用
 神谷代表は批判に対し「生物学的事実」を述べただけだと反論している。確かに、女性の妊娠・出産には年齢的な制約があることは医学的事実である。しかし、この事実を政治的な文脈で利用することの問題性を理解していない。
 生物学的事実と政治的主張は明確に区別されるべきである。妊娠・出産の年齢的制約を理由に、女性の教育機会や職業選択を制限し、特定のライフコースを推奨することは、個人の自己決定権の侵害に他ならない。


男女共同参画への誤った認識
 神谷代表は「今まで間違えたんですよ、男女共同参画とか」と述べ、女性の社会進出が少子化の原因であるかのように主張した。これは統計的事実に反している。
 2020年国勢調査によれば、子どもがいない世帯は共働き(34%)よりも専業主婦(39%)の方が多く、18歳未満の子どもが2人以上いる世帯は共働きの方が多い。つまり、女性の社会進出と出生率の間に神谷代表が主張するような因果関係は存在しない。


国際的な人権基準からの逸脱
 リプロダクティブ・ライツは、1994年のカイロ国際人口開発会議で確立された国際的な人権概念である。これは以下の権利を含む:
• 性と生殖に関する自己決定権
• 差別、強制、暴力を受けない権利
• 最高水準の性と生殖に関する健康を享受する権利
• 生殖に関して平等と尊厳をもって扱われる権利
 神谷代表の発言は、これらすべての権利に反している。特に、女性に特定のライフコースを推奨し、出産を奨励する制度設計を提案することは、国家による生殖への不当な介入であり、国際人権基準に明確に反する。


歴史が示す危険性
 国家が女性の生殖機能を管理・統制しようとする政策は、歴史的に悲惨な結果をもたらしてきた。1960~80年代のルーマニアでは、独裁政権が「人口を増やすと国力がつく」として避妊や中絶を禁止し、女性に出産を強要した。その結果、乳幼児の遺棄が後を絶たず、深刻な社会問題となった。
 個人の生殖に関する選択を国家が管理することは、必然的に個人の尊厳と人権を踏みにじることになる。


真の少子化対策とは
 少子化問題の解決は確かに重要な課題である。しかし、それは女性に出産を強要することで達成されるべきではない。真の少子化対策とは:
• 子育てと仕事の両立を支援する制度の充実
• 男性の育児参加を促進する社会システムの構築
• 経済的な子育て支援の拡充
• 多様な家族形態への理解と支援
• 性と生殖に関する包括的な教育と医療の提供
 これらの施策により、子どもを持ちたい人が安心して子育てできる環境を整備することこそが、民主主義社会における適切なアプローチである。


政治家としての責任
 政治家の発言は社会に大きな影響を与える。特に、女性の人権に関わる発言においては、細心の注意が必要である。神谷代表の発言は、すでに多くの女性に「生きにくさ」を感じさせ、社会の分断を助長している。
 政治家には、すべての国民の人権を尊重し、多様な生き方を認める社会の実現に向けて責任を果たすことが求められる。個人の自己決定権を否定し、特定の価値観を押し付けるような発言は、政治家としての資質に関わる重大な問題である。


結論
 神谷代表の発言は、表面的には少子化対策を論じているように見えるが、その本質は女性の人権を軽視し、個人の自由を制限しようとする極めて危険な思想である。
 私たちは、産む自由と産まない自由の両方が保障される社会を目指すべきである。それは、すべての人が自分らしく生きることができ、真の意味で持続可能な社会の実現につながるのである。
 リプロダクティブ・ライツは、女性だけでなく、すべての人の尊厳と自由に関わる基本的人権である。この権利を守り抜くことが、民主主義社会における私たちの責務なのである。


以下は、NHKが報じた公示後の最初の神谷氏の演説内容。
参議院選挙2025 公示 参政党 神谷氏【演説全文・全編動画】“日本人ファーストで” | NHK | 参議院選挙