リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

Realizing abortion law and policy reforms: Lessons from six country case studies

どうすれば中絶法や中絶政策を改革できるか~6か国から得た教訓

その6か国とはコロンビア、エチオピア、ガーナ、ポルトガル南アフリカウルグアイ~これらは長い間中絶が禁じられてきたけれども、最近になって中絶を合法化したり、アクセスしやすくするなどの変化が見られた国々で、この報告ではこれらの国々に見られた特徴や諸策が挙げられています。

・政治的意志とローカル・オーナーシップ(当事者主義)が鍵を握る
・中絶のスティグマやケア提供の拒否に対処する
・人権に関する法的改革
・公衆衛生に関する徹底的な議論を通じて安全な中絶へのアクセス改善の必要性を正当化する
・それほど訓練を必要とせず医療者からの抵抗も少ない中絶薬を導入する
・レイプや心理的状態の証拠とか親や配偶者の承諾といった制約をなくし、当事者の申請だけで中絶を受けられるようにすること(「オンデマンド」という)
NPO団体や市民団体などが中絶提供の中心的役割を担うこと
等々。

英語ですが、こちらで読むことができます。

「中絶」の男女不平等、ひどすぎる

地図とデータで見る女の世界ハンドブック

以前にも同様の本がありましたが、どうやら新版なのかな? この夏に出ていたようですが、今になって気づきました。ご紹介しておきます。コメンテータは「中絶」に男女不平等を見ていますが、単に中絶ができるできないだけでなく、「どんな中絶方法が採用されているか」に目を向けると、日本の悲惨な状況がより鮮明になります。

www.j-cast.com

Statistics of abortion in Japan

Guttmacher研究所に日本の中絶情報を提供

Guttmacher Instituteは、性と生殖に関する健康と権利(sexual and reproductive health & rights) にまつわる情報を収集している研究所です。このたび国連機関と協力して世界の中絶情報を新たに取りまとめることになり、たまたま知り合いで日本の担当になった海外の研究者から情報提供を求められたので私の方で資料を作成していました。先週、昨年度の母体保護法統計が公表されたので、その数値を追加して、本日すべての情報提供を終えました。以前の資料はこちらにあります。

現在、研究所の方で内容のチェックを進めているとのこと。世界中の中絶状況がより詳細に明らかにされた新たなデータが公表されるのが楽しみです。

なお、Guttmacherは元家族計画協会会長のAlan F. Guttmacher氏の名前を取ったもので、カタカナで表記する場合は「ガットマッハー」が正しいようです。

General comment No. 36 (2018) on article 6 of the International Covenant on Civil and Political Rights, on the right to life

Human Rights Committee, CCPR/C/GC/36 中絶の権利を女性や少女の生きる権利として主張

8. Although States parties may adopt measures designed to regulate voluntary terminations of pregnancy, such measures must not result in violation of the right to life of a pregnant woman or girl, or her other rights under the Covenant. Thus, restrictions on the ability of women or girls to seek abortion must not, inter alia, jeopardize their lives, subject them to physical or mental pain or suffering which violates article 7, discriminate against them or arbitrarily interfere with their privacy. States parties must provide safe, legal and effective access to abortion where the life and health of the pregnant woman or girl is at risk, and where carrying a pregnancy to term would cause the pregnant woman or girl substantial pain or suffering, most notably where the pregnancy is the result of rape or incest or is not viable. [8] In addition, States parties may not regulate pregnancy or abortion in all other cases in a manner that runs contrary to their duty to ensure that women and girls do not have to undertake unsafe abortions, and they should revise their abortion laws accordingly. [9] For example, they should not take measures such as criminalizing pregnancies by unmarried women or apply criminal sanctions against women and girls undergoing abortion [10] or against medical service providers assisting them in doing so, since taking such measures compel women and girls to resort to unsafe abortion. States parties should not introduce new barriers and should remove existing barriers [11] that deny effective access by women and girls to safe and legal abortion [12], including barriers caused as a result of the exercise of conscientious objection by individual medical providers. [13] States parties should also effectively protect the lives of women and girls against the mental and physical health risks associated with unsafe abortions. In particular, they should ensure access for women and men, and, especially, girls and boys, [14] to quality and evidence-based information and education about sexual and reproductive health [15] and to a wide range of affordable contraceptive methods, [16] and prevent the stigmatization of women and girls seeking abortion.[17] States parties should ensure the availability of, and effective access to, quality prenatal and post-abortion health care for women and girls, [18] in all circumstances, and on a confidential basis. [19]

https://tbinternet.ohchr.org/Treaties/CCPR/Shared%20Documents/1_Global/CCPR_C_GC_36_8785_E.pdf

搔爬による中絶は安全性に劣る

「毎年、世界中で推定2500万件の安全でない中絶が行われている」

これはWHOの最新ヘッドライン(ニュース)のタイトルです(原文は英語で私が訳しました)。

世界中で行われる中絶の3分の1が今もなお「安全性の劣った中絶」であることへの懸念を表明した内容で、「安全性の劣った中絶」の例として「訓練を受けた提供者が、"sharp curettage"などの安全でない、あるいは時代遅れの方法で行う場合」や「訓練を受けていない人が、中絶を引き起こすなどの目的でミソプロストルなどの安全な手法を用いる場合」が挙げられています。

Sharp curettageとは、鋭利な金属器具をもちいて行う「搔爬」と呼ばれる術式のことで、日本で今もなお行われている中絶手術(拡張搔爬法 D&C)で用いられています。

WebMDにある通り、海外でも、子宮内膜の検査(細胞診)のためにD&Cが使われることはあります。

ただし、Mayoクリニックでは、D&Cは通常は安全な処置ではあるが、子宮穿孔、頸管損傷、アッシャーマンシンドローム(子宮内膜に瘢痕が残る)の3つのリスクがあると注意を促しています。

Medicinenetでは、検診目的でのD&Cの使用が減っているのは、プラスチック製の吸引キュレットを用いた方が麻酔の必要性も低く、痛みも少なく、D&Cと変わらない質の高い検体が取れるためだとしています。

なお、WHOは妊娠初期の中絶のために、「古く廃れた」方法であるD&Cを使ってはならないと警告し、吸引法または経口の中絶薬に切り替えるよう指導しています。Safe Abortion 2nd editionを参照のこと。

今も毎年10万件も行われている中絶手術をより安全なものにするために、まずは日本の常識を塗り替えていく必要があります。

英語論考:日本と中絶の中絶方法と価値観の違いについて

Discrepancies of Abortion Methods and Values Between Japan and the World

Journal of Philosophy of Life Vol.4, No.4 (December 2014)に[Special Report]として掲載して頂いた論考です。2010年に行った母体保護法指定医対象の調査結果(初期中絶の約8割に搔爬と全身麻酔が使用されていたこと)も載せています。忘備録として。

ついでに、ブログに載せた調査結果学会発表のリンクも貼っておきます。

Facebookに載せた最近の話題など

緊急避妊薬 オンライン処方

緊急避妊薬(アフターピル)のオンライン処方に踏み切った久住英二医師の取材記事を見つけたので、ご紹介します。

従来の性行為後72時間(3日間)以内に有効な「ノルレボ」だけでなく、120時間(5日間)以内に有効な「Ella」も輸入して処方してらっしゃるようです。

性的同意と性教育

Yahoo Newsで、小川たまかさんの《義務教育で性交を教えないのは「性的同意年齢13歳」と矛盾しませんか(七生養護学校事件を振り返りつつ)》という記事を見つけました。そうそう!と、大きく頷いてしまいました。

同じライターさん(小川たまかさん)による《日本の性的同意年齢は13歳 「淫行条例があるからいい」ではない理由》もおすすめです!

eaualityとequity(平等と公平性)の秀逸イラスト

equalityとequityの訳し分けを考えていて、ネットで検索したらこんな絵が出てきた。とても分かりやすいのでご紹介。とりあえず、「平等と公平性」を採用することに。

緊急避妊薬/アフターピルの店頭販売に向け署名キャンペーン

キャンペーンのお知らせ:緊急避妊薬(アフターピル)のアクセスを高めるために、あなたも声を上げてみませんか。
アフターピル(緊急避妊薬)を必要とするすべての女性に届けたい!

アフターピルのOTC化を訴える署名キャンペーンに関する記事がYahooニュースに載ったそうです。

性的同意

2018年10月19日の朝日新聞より一部引用:

「付き合っていれば、性行為をするのは当たり前」「家に泊まるのは、性行為をしてもいいというサイン」。こう考えるあなたは要注意! 性行為について、互いの意思を確認することを「性的同意」と呼びます。パートナーとよりよい関係を築くために大切な考え方ですが、日本ではあまり知られていません。この言葉を広めるため、関西の大学生がチェックリストを載せた冊子をつくりました。

この大学生による「性的同意」に関するパンフ発行について、より詳しいウェブマガジンの記事を見つけたのでご紹介しておきます。

妊産婦の死因、3割は自殺…産後うつが影響か

ヨミドクターに掲載された記事をご紹介します。

2018年9月5日のNHKのニュースで、産後1年間の女性の死亡理由として自殺が最多だったと報じていました。産後うつとの可能性があると疑われています。研究結果を発表したのは、国立成育医療研究センターだそうです。

同日の朝日新聞では次のように報道されています。

 2016年までの2年間で、産後1年までに自殺した妊産婦は全国で少なくとも102人いたと、厚生労働省研究班が5日発表した。全国規模のこうした調査は初めて。この期間の妊産婦の死因では、がんや心疾患などを上回り、自殺が最も多かった。

無意識に自傷行為産後うつ治療中に反動「情けなくて」
産後うつ、10人に1人とも 対策、事前の知識も大事
 妊産婦は子育てへの不安や生活環境の変化から、精神的に不安定になりやすいとされる。研究班は「産後うつ」などメンタルヘルスの悪化で自殺に至るケースも多いとみて、産科施設や行政の連携といった支援の重要性を指摘している。

 妊産婦の死亡例に関する国の統計は、出産時の大量出血などが対象で、産後うつの悪化などメンタル面の影響による自殺は把握されていない。研究班(代表=国立成育医療研究センター研究所の森臨太郎部長)が、国の人口動態統計をもとに、15~16年に妊娠中や産後1年未満に死亡した妊産婦357人を調べたところ、自殺は102人だった。ほかの死因は心疾患28人、脳神経疾患24人、出血23人など。

 自殺した時期は妊娠中3人、出産後が92人、死産後7人。出産後に自殺した92人を分析したところ、10万人あたりの自殺者数を示す「自殺死亡率」は、無職の世帯の女性が45・3と最も高かった。国内の女性の自殺率10・0(17年)を大きく上回った。年齢別だと35歳以上の自殺率がほかの年代より高かった。初産婦は2人目出産の約2倍だった。(後略)

国立成育医療研究センターのプレスリリースに詳細があります。

児童虐待について

こんな記事を見つけました。望まない妊娠、望まない出産は減らしていきたいですね。⇒虐待死の8割、3歳以下…児童虐待増加続き「妊娠期から支援が必要」

優生保護法関連 about Eugenic Protection Law in Japan

English references: 旧優生保護法の障害者への強制不妊手術や強制堕胎について

英語による情報をまとめてみました。Here're English references on Eugenic Protection Law in Japan.


eugenic protection law - The Japan Times
以下の5本の記事がまとめられています。5 articles from Japan Times.

1.EDITORIALS JUN 9, 2018
Speed relief for eugenics victims
 The government should work harder at compensating victims of the Eugenic Protection Law, which remained on the books until 1996.
2.NATIONAL / SOCIAL ISSUES MAR 24, 2018
 Japan's panels on forced sterilization skipped mandatory meetings in eight cases: documents...
3.NATIONAL / SOCIAL ISSUES MAR 6, 2018
Lawmakers weigh compensation for victims of forced sterilization under Japan's defunct eugenics law
4.NATIONAL / SOCIAL ISSUES FEB 22, 2018
Second lawsuit eyed against government over eugenics law, as records in 13 prefectures show sterilizations of children aged 15 and below
5.NATIONAL / SOCIAL ISSUES FEB 2, 2018
Lawyers set up hotlines for victims of 1948-1996 eugenics law

A REUTERS's article
Victims of Japan's forced sterilizations demand justice after decades of silence | Reuters

WORLD NEWSMAY 8, 2018 / 4:14 PM / 6 MONTHS AGO
Victims of Japan's forced sterilizations demand justice after decades of silence
Elaine Lies
TOKYO (Reuters) - One day when Saburo Kita was 14, he was taken from an institution for troubled children to see a doctor.

1997年に大阪市立大学の講師(当時)の先生がお書きになった文章も見つけました。もはや20年も前になります。
An article written by a lecturer of Osaka City University in 1997.
(Newsletter of the Network on Ethics and Intellectual Disability, Vol.3, No.1 [Fall 1997], pp.1-4.)
Japanese Eugenic Sterilization

Eugenic Sterilizations in Japan and Recent Demands for Apology: A Report
Takashi TSUCHIYA, M.A.
Lecturer
Department of Philosophy
Osaka City University
JAPAN

最新の中絶統計

衛生行政報告例 2017年度中絶数など

平成29年度衛生行政報告例が発表されました。

2017年度の中絶総数は164,621件で、前年度に比べて3,394件減少しました。

母体保護法関連の結果の概況はこちらにあります。

中絶統計はこちらです。ページの下の方を探すか、「母体保護」で検索すると該当ファイルが5つ見つかります。