リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

メモ……というより,おしゃべりだろうか。

ジュディス・ジャーヴィス・トムソンの「中絶の擁護」という論文のことを考えていた。知ってる人は知ってるだろうけど,ある朝,目覚めたら世界的に有名なヴァイオリニストと身体がつながれていた。ヴァイオリニストは致命的な腎臓病で,あなたの腎臓を使うことで今はどうにか生き延びている。(しかも,音楽愛好家協会が,昨夜,あなたを誘拐して,勝手に身体をつないでしまった!という場面設定。)「9ヶ月我慢してくれれば,接続を外してもヴァイオリニストは生きていけるようになります」と医師は言う。さて,あなたはこの状態を我慢すべきか?……というバイオエシックスの話。ヴァイオリニストは胎児,「あなた」は妊婦と考えることで,中絶の倫理のアナロジーになるってわけ。

荒唐無稽すぎる!と言って怒ってる人もいるんだけど,わたしは,あの何とも言えない超然とした感じが,けっこう好きなんです。

どこが好きかと問われれば……たとえば,彼女がヴァイオリニストの事例をでっちあげるのは,「胎児は,すでに生まれている人間と同等の権利がある」というプロライフの主張を,反実仮定した上で,それをひっくり返すためなのね。そういう論法を採っていること自体もおもしろい。それに,あれって,「妊娠できない男性のために」書いたアナロジーでしょう? 半ば親切というか,イジワルというべきか……。「世界的に有名なヴァイオリニスト」を「音楽愛好家協会」が救うために画策したことだという設定も,いったい誰にとっての「価値」なのかしらねぇ……というトムソンの声が聞こえてきそう。当然,「わたし」は音楽愛好家協会のメンバーではないわけで……。最後に,「以上で,わたしは,最初の仮定が間違いであることを論証した。だが,そもそもごく初期の胚は別の話だ。あの仮定にすら当てはまらない。」とかいって,さらにどんでん返ししちゃうようなところが好きかな。ウインクして,逃げちゃうような感じが,なんかとっても,わくわくする。(わたしって,へそまがり?)

ともかくも,トムソンって,いろんなアナロジーを駆使する人。他にも,「ドングリと樫の木」も有名ね。ドングリがやがて樫の木になるのは確かだけど,今現在は樫の木と同じじゃないでしょ?……とか。仮に胎児と私が狭い家にいて,胎児がどんどん大きくなってきて,私が押しつぶされそうになった時,その「家」がそもそも私の持ち物であるなら(狭い借家を胎児と私で借りているんじゃなくて),私は胎児を追い出す権利がある!とかね。まだある。泥棒が入ってこないように窓に格子をつけておくという予防措置をわたしはちゃーんとしていたのに,その格子そのものに欠陥があって泥棒が入ってきてしまったら,それは私の責任か?……とか。(念のためにつけ加えれば,家は子宮をもつ女性身体のアナロジー,窓の格子は避妊のアナロジー。)

この人,なんて豊かな想像力の持主なんだろう……と,呆れるやら,感心するやら。やっぱ荒唐無稽さが好きなんでしょうね,はい。(おまけに,あの超然さ! ドゥルシラ・コーネルさんが,「まあ,わたしと同じことをおっしゃってたんですね! 感激!!」みたいなノリで近づいていったときに,「あら,そうお?」で終わってしまうような態度にも表われている……と思う<勝手な解釈だし,コーネルさんの側にあまりに感情移入してないなと,われながら思うけれども。)

なんか,スケールの大きい人だなぁ……と。すみません,ものすごく主観的,だよね。

P.S.ついでに言っておくと,トムソン論文は日本語で全訳されていません。部分訳はありますが,あれははっきり言って誤訳というか,“曲解”訳です。全体の半分しか訳されていないし,結論部分をことごとく消して,訳者たちにとって都合のいいところだけをパッチワークしているからです。訳者の方々が,悪気でそうしたとは言いませんが,世界的な中絶議論のなかで,この論文がどれほど重要視されているかということと,邦訳に関して,ごく単純な誤訳の指摘さえ今まで皆無だったことを思えば,日本の“生命倫理”の中絶議論の浅さを思いしらされます……。

わたしが生きているあいだに,もう少しはマシなレベルに持っていきたいな……と,思わず抱負を語ってしまう(無謀でしょうか?)。

以下,昨日の未来日記です,はい。

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ショック……! ワードがおかしくなっちゃって,夕方から何時間も修復にかけてしまった。脚注の対応がズレてしまってて,どうやっても直らないのだ。何百もあるから,全部打ち直すには,あまりにも多い。不便だけど,このままいくしかないかと諦めようと思ってはいる……けど,なんかケチがついた感じで,やっぱり無理なのかなぁ……と。

もはや,いったい何考えていたんだっけ? という感じになっちゃったから,今日はもう寝たほうがいいのかも。

それにしても……だからワードは嫌いなんだ! シンプルなエディターのほうが好き!(じつはVZ時代から使ってるWZの愛好者。)

うーん,脚注付きの論文を書けるアウトライン機能のあるエディターってないものかなぁ?

P.S.ありがとね!(以下のコメント)↓+