リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

6月2日のダイアリーへの追記。

1994年の『インパクション』89号で,大橋由香子さんによる原ひろ子さんへのインタビューの中に,こんな話が出てきました。

大橋:
94年9月のカイロ会議での最終的な行動計画案の第二章原則に,ソバリン・ライト(Sovereign Right),国家主権が加わりましたね。中絶合法化やリプロダクティブ・ライツの観点からすると,各国の主権が認められてしまった,というふうに私なんかは否定的に見てしまいます。……

原:
性と生殖に関する健康/権利(リプロダクティブ・ヘルス/リプロダクティブ・ライツ)という文言をカイロ文書に入れるためには,イスラム圏とバチカン……と合意しなければならない。そのためには原則の章に「それぞれの国家の主権を尊重する」という一節を入れるという形で妥協せざるをえなかった。……もう一つ大事なことは国連憲章を見るべきなんです。国連憲章の冒頭の文章は,We the People(ウィー ザ ピープル)となっていて,We the Government(ウィー ザ ガバメント)ではない。つまりピープル,人間が主語であって,政府が主語ではないんです。……国家の主権,ソバリン・ライツといったって,究極は一人一人の人間なんだと国連憲章で謳っているじゃないかということができる。便宜的に「それぞれの国家の主権」が入ったとしても,国連会議の基本理念としては個々の人間が主体なのだから,カイロ文書にリプロダクティブ・ライツ/ヘルスが文言に入ることのほうが意味があるとも言える。…〔しかし〕…女の問題を考えようとした時に,結局,国家はパトリアーキー(家父長制・男権主義)だから,国家主権が認められていけば,おのずと男尊女卑,ジェンダーバイアスが内包されてしまって,男女平等が後退してしまう懸念があるという評価は当たっていると思います。

ICPD行動計画の原文(Chapter II PRINCIPLES)は次のとおり。

The implementation of the recommendations contained in the
Programme of Action is the sovereign right of each country,
consistent with national laws and development priorities, with full
respect for the various religious and ethical values and cultural
backgrounds of its people, and in conformity with universally
recognized international human rights.

山谷発言が根拠にしたいもののひとつは,これなんでしょうね。でも,その後で,女性差別撤廃委員会(CEDAW)や人権高等弁務官事務所(OHCHR: Office of the United Nations High Commissioner for Human Rights)が「リプロダクティヴ・ヘルスは女性の人権」と確認しているから,国家の力は相対的に弱まったんじゃないのかな?……国際法に詳しい人に聞いてみたい。

(ついでに言うと,定義にもよるけれど,リプロダクティヴ・ヘルスの根幹を成すものとしてリプロダクティヴ・ライツがある……と解していいようです。リプロダクティヴ・ヘルスはOKだけど,リプロダクティヴ・ライツはダメという解釈は成り立たないってわけ。)