リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

「Dr.北村 ただ今診察中:第163話」

このところの中絶減について、知る人ぞ知る北村邦夫先生のコメントが、次のタイトルでついに出ました!

 中絶件数−さらに減って25万6672件

北村先生ならやっぱりピルと関連付けるのかなぁ……と思っていたのですが、やっぱり予想通りでした。

 ライフワークのひとつに「望まない妊娠の防止」を挙げている僕としては、「中絶件数さらに減少」の発表に小躍りして喜びを表現せずにはおれませんでした。低用量経口避妊薬(ピル)の普及と無関係ではないのですからなおさらです。

 10月17日、厚生労働省から平成19年度の人工妊娠中絶統計が発表されました。総件数は25万6672件。女子人口1000人に対する中絶実施率は9.3。1955年にはそれぞれ117万件、50.2だったことを思えばまさに隔世の感があります。5歳階級別に対前年度との増減率をみると、最も大きな減少を示したのが20歳未満で12.4%。平成18年度2万7367件だったものが2万3985件と3362件減少したことになります。2001年に13.0と過去最多であった20歳未満の中絶実施率を追ってみても、その後12.8→11.9→10.5→9.4→8.7→7.8と着実に減少の一途をたどっています。

そして原因の分析に続きます。

 人工妊娠中絶実施件数が減少する背景には何が考えられるのでしょうか。

1.妊娠の可能性が従来通りであるとしたら出生率が高まっている。

2.中絶は妊娠、妊娠は性交の結果として起こるわけですから、中絶実施件数が減少したということは、(1)性交頻度が少ない。そのために妊娠する可能性が低い(2)仮に性交が行われていたとしても環境などの影響からか妊娠率が低い(3)避妊実行率が高まるとともに確実な避妊法を選択するようになった、などが考えられます。特に(3)については、避妊教育の充実、的確な避妊情報の提供によって国民の避妊に対する意識が変化したのか。

3.人工妊娠中絶を実施するにあたっての法的規制が厳しくなった。

4.結婚を契機にしか産むことが認められない「婚外子率」の低いわが国の場合、中絶実施率がとかく高くなる可能性があります。国民が妊娠・出産を結婚と切り離して考えるようになった。

 これらすべての仮説を科学的に検証していくには詳細な調査研究が必要になります。ただし、1については出生数も減少傾向にあることからまずは否定できます。産むようになったから中絶実施件数が減少したわけではないのです。3にあるような法的規制が厳しくなったという事実はありませんし、4のような婚外子率が急増したという話も耳にしません。

 環境の影響で精子数が昔に比べて減少したとの議論もありますがまだ実証されてはいません。2の(1)については、このコラムでもしばしば登場する、厚生労働科学研究の一環として2年ごとに実施している日本人の性意識・性行動調査−男女の生活と意識に関する調査−の最新版(第4回)の結果が間もなく明らかにされますのでご期待ください。セックスレス化が一段と進んでいるのか興味のもたれるところです。

 となると、2の(3)のように日本人の避妊行動が変化したのでしょうか。詳細は前述の調査結果に譲るとして、手元にある資料によれば低用量ピルの普及が年々進み、それが中絶件数の年次推移と逆相関にあることは事実です。緊急避妊法(*)が広く国民に周知され利用されていることも中絶実施件数を減少させる要因になっていることも否定できません。

 「望まない妊娠の防止」を強く願って低用量ピルの普及や緊急避妊法の早期承認に向けて果敢に挑戦し続けてきた結果が、現実に数値として示され始めていることは望外の喜びと言わずにはおれません。

(*)緊急避妊法:避妊しなかった、避妊に失敗した、レイプされたなどに際して適量の女性ホルモンを服用するあるいは銅付加子宮内避妊具を挿入することで最後の避妊が可能にする方法。Dr北村のクリニックでは緊急避妊法ができる全国の施設を無料で紹介している(月〜金、10時〜16時、03−3235−2638)。関連コラムは第7話、第65話、第91話、第118話。
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* 第7話 「セックスのあとの避妊法」
* 第65話 緊急避妊ピルを薬局で販売
* 第91話 新年は緊急避妊から
* 第118話 緊急避妊、あなたは賛成? それとも反対?

2008年10月23日

Dr.北村のサイトではグラフも出ていますので、詳しくはそちらを参照してください。

緊急避妊法(EC)別名「事後避妊」あるいは「モーニング・アフター・ピル」の普及が影響しているのは、おそらく事実でしょう。ぜひ実態調査をしてほしいものです。他にもいくつかの要因が働いているとわたしは思っていますが……それについては、いずれまた。