リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

女性学会で発表します

来る6月27日に日本女性学会で個人研究発表を行う予定です。第2分科会で時間は13:00-14:40、発表タイトルは「科学技術とリプロダクティヴ・ライツ」です。

このタイトルから何を思い浮かべるでしょうか? ここでいう「科学技術」とは、生殖コントロール技術(生殖能力を管理/抑制/制御するための技術)のことであり、具体的には胎児監視技術や避妊および中絶の技術を指します。

また「リプロダクティヴ・ライツ」そのものについても、国内の定義はしばしばかなり危ういことがあります。まず確認しておきたいのは、「リプロダクティヴ・ライツ=中絶権」ということです。リプロダクティヴ・ライツの二大原則は、リプロダクティヴ自己決定権と、リプロダクティヴ・ケアへの権利なのです。中絶にまつわる権利は、この二大原則にまたがる重要な権利の“ひとつ”ではありますが、「中絶を受けられること」のみが問題なのではありません。たとえば、そもそも中絶を受けなければならないような不本意な妊娠を避けるために十分で正確な避妊の情報と手段を得られることも、リプロダクティヴ・ライツのなかの重要な要素のひとつです。

ここで、同じ「避妊」「中絶」という言葉を用いていたとしても、海外の国々(特に欧米諸国)と日本で採用されている技術はかなり違うということをご存じでしょうか? 技術が異なるということは、医療従事者や一般の人々の「避妊」「中絶」観も異なるはずであり、ひいては制度や法も違ったものになるではないか?――という疑問が、本論の出発点でした。

20世紀後半の世界では、避妊についても、中絶についても革命的な技術革新がありました。前者は避妊ピルであり、後者は吸引法と呼ばれる比較的新しい外科的中絶技術です。国際社会で「人権としてのリプロダクティヴ・ライツ」が採用された背景には、これら科学技術の発達とリプロダクティヴ・ケアの導入があります。ところが世界の常識は日本の常識ではありません。たとえば日本においてピルの導入は西欧諸国に比べて半世紀近くも遅れたことは周知の事実であり、しかもその普及は今も遅々として進みません。(これに比して、他の国々では1960年代から1970年代にかけて合法化されるやいなや一気に普及したと言われています。)中絶技術についても、他の国々では女性の権利運動の結果として中絶が合法化された際に吸引中絶法が医療慣行として普及していきましたが、他国に何十年も先駆けて中絶を事実上合法化した日本ではかつての違法堕胎時代に用いられていた掻爬法が長らく当然視されてきました。

その一方で、日本は胎児の可視化技術については世界を先駆け、一般化していた掻爬手術のために胎児の遺骸の可視化も早くから進みました。おそらくそうした可視化の背景もあいまって、人口の高齢化(少子化)時代の到来に伴い、「中絶罪悪視」のキャンペーンが功を奏し、1970年代から80年代にかけて「水子供養」も急速に一般化しました。結果的に、国内の中絶議論では胎児中心主義的言説が突出することになり、それが女性のリプロダクティヴ・ライツ推進を妨げる一因になったのだと考えられます。

発表時間が短いので、どれだけ話せるかは分かりませんが、ざっと上記のような内容を話しに行きます。

学会員以外も参加費を払えば参加可能なようでます。詳しくは大会プログラムをご参照ください。

中絶と避妊の政治学―戦後日本のリプロダクション政策

中絶と避妊の政治学―戦後日本のリプロダクション政策

  • 作者: ティアナノーグレン,Tiana Norgren,岩本美砂子,塚原久美,日比野由利,猪瀬優理
  • 出版社/メーカー: 青木書店
  • 発売日: 2008/08/01
  • メディア: 単行本
  • 購入: 8人 クリック: 71回
  • この商品を含むブログ (17件) を見る
なお会場では、上記の本(私も翻訳者のひとりとして訳出・出版した『中絶と避妊の政治学』)を出版社(青木書店)のご厚意により、今回のみ特別に3割引で提供いたします!! この機会にお買い求めいただけたら嬉しいです。

なぜ日本では“優生保護法”で中絶を合法化したのか、なぜ日本のピル普及は遅れたのか……等々、目から鱗が落ちる一冊です。リプロに興味がある方、必読ですよ!