リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

日本のピル普及状況

本日付のmsn.産経ニュースで見つけた記事です。

ピル承認から10年 服用者の95%が「満足」 (1/2ページ)
2009.6.24 08:12

 経口避妊薬(ピル)が国内で承認されてから今年でちょうど10年−。厚生労働科学研究の一環として行われた「第4回男女の生活と意識に関する調査」で、昨年度のピルの普及率は3%で、服用者は推計約82万人に上ることが分かった。服用者を対象とした全国調査では、約95%が「満足」と答えている。(大串英明)

 
ガイドライン改定

 ピル承認に当たっては、国内で性感染症の拡大や乳がんのリスクなどさまざまな論議が噴出、19年前に承認申請されたにもかかわらず、承認されたのは9年後の平成11年だった。18年には「低用量経口避妊薬の使用に関するガイドライン」が改定。それ以前の服用前に煩雑で高額な検査が課されていたガイドラインから、「問診を重視、血圧測定を必須」とする世界基準に準拠するガイドラインに変わった。

 意識調査の結果によると、普及率は昨年度、ガイドラインが改定された18年の1・8%から3・0%と上昇し、認知度も7割を超えた。しかし、「使いたくない」とする女性も7割以上おり、使用動向が順調に上昇しているものの、急増というほどでもない。

 10年前に取りざたされた懸念はどうだったのか。人工妊娠中絶の実施件数の中で特に心配された20歳未満の中絶は13年をピークに急激に下がり始め、産婦人科医を対象とした調査では、むしろ避妊薬の服用が増えたため、「中絶が減った」とする回答が42%を超えた。また、性感染症が拡大するという予測も大きく外れ、性感染症に関する予防指針の18年の改定では、「経口避妊薬」という言葉が削除されている。

産経ニュースの記事の2ページ目は次のとおりです。

ピル承認から10年 服用者の95%が「満足」 (2/2ページ)
2009.6.24 08:12

懸念は払拭?

 研究に携わった日本家族計画協会理事である北村邦夫氏は、「9年間にも及ぶ承認審査の際に抱かれた懸念は、もう払拭(ふっしょく)されたのではないでしょうか。ガイドラインの改定がそれを証明しています。避妊効果だけでなく生理が軽くなるなどの副効用を実感しているピル使用者もいて、ピルが女性の生活の質の改善に貢献していることは間違いありません」と話す。

 米国では来年、ピルが承認されて50年目を迎える。日本の6倍に当たる18・3%の普及率だが、出生率は2倍近い数値を保っている。

【用語解説】経口避妊薬
 女性ホルモンの卵胞ホルモンと黄体ホルモンを成分とする錠剤。一般に「ピル」と呼ばれている。排卵卵子が受精し、その受精卵が子宮内膜に着床することで妊娠する。妊娠中は排卵が起きず、女性ホルモンの分泌も減少しない。この作用を利用し、妊娠中だと思わせるように体内に女性ホルモンを高度に維持させることで排卵を抑える。このほか、万一受精してもその受精卵が子宮内膜に着床するのを難しい状態にしたり、精子が膣から子宮内に侵入しにくくしたりする作用などで避妊効果を示す。

しかし、ただ効用や安全性を強調しても、日本でピル承認が半世紀も遅れたことの理由は分かりません。

そこらへんの疑問を解消するために、昨年、翻訳出版したティアナ・ノーグレンの『中絶と避妊の政治学〜戦後日本のリプロダクション政策』(青木書店)をお奨めしたいです。日本の宗教団体、医師会、家族計画グループ、フェミニストなどの力関係を鮮やかに描きだした良書です。岩本美砂子先生の解説もすばらしいです。ぜひご一読ください。

中絶と避妊の政治学―戦後日本のリプロダクション政策

中絶と避妊の政治学―戦後日本のリプロダクション政策

  • 作者: ティアナノーグレン,Tiana Norgren,岩本美砂子,塚原久美,日比野由利,猪瀬優理
  • 出版社/メーカー: 青木書店
  • 発売日: 2008/08/01
  • メディア: 単行本
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ただし、国内のピルの普及を阻んでいる最大の要因は、アクセシビリティの低さだと個人的には考えています。医師の診断が必要な処方薬扱いであるため、店頭で気軽に購入することができず、定価が高いのみならず診療費も含まれるためさらにコストが高くつき、産婦人科での処方であるため若年者や未婚者は足を向けにくいといった問題は手つかずのままです。そうした問題を考慮すると、医師主導のピル普及運動は、限界があるように思われます。