リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

出生前診断の商業化


ふぇみん2013年8月5日号で報告された「ふぇみん泊まってシンポ in神戸」の「第5分科会 血液検査で障害のあるなし分かるって,いいの?悪いの?」の記事から気になる部分をメモ。

 今年の4月から国内の約20施設で新型出生前診断が開始された。妊婦の血液でダウン症など胎児の染色体の変化が分かるというもので,「手軽で安心」を強調した報道がなされた。
 講師の利光恵子さん(生殖医療と差別・紙芝居プロジェクト)は1960年代から続く出生前診断をめぐる論争の歴史を解説したうえで,生まれてくる子どもの3〜5%が先天的な疾患や障害をもち,その半数は原因不明であること,新型出生前検査で検出できるのはそのうちの1割強にすぎないことをデータで示した
 また日本産婦人科学会は「十分な遺伝カウンセリングができる施設で限定的に実施」するとしているが,医学的情報に偏った説明を受けることで女性(カップル)の選択の幅を狭めたり,問題を妊娠・出産する個人の領域に押し込めてしまう危険性を指摘,今回の導入は出生前診断の商業化へのスタートであると話した。

この検査の末に,出産もしくは中絶を「選んだ」人々のメンタルケアが行われているのかどうかも不明で,非常に危うい気がする。この検査の結果,中絶を選ぶ場合は,いわゆる中期中絶の時期に入っていると思われるため,そうでなくとも心理的な負担は非常に大きい。ましてや,それを胎児の障害の有無で自分が選別したという思いや,万が一,中絶してみたら障害が見当たらなかった場合(思ったほどひどくなかった・・・等)のショックなどにもしっかり対応しなければいけないと思う。

それを言うなら,別に新型出生前診断に限らず,日本の中絶医療ではそもそもの中絶の決断から,その前後のメンタルケアが全くと言っていいほどできていない。日本は女性差別撤廃委員会からも,女性の自己堕胎罪を廃止すべきことや,女性のメンタルヘルスを重視すべきことを勧告されているのだから,中絶というデリケートな医療については,すべてのケースにおいてメンタルケアを行うのが妥当であろう。