リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

1976年(昭和51年)の厚生白書

今よりよっぽど進歩的?

国連「国際婦人年」の翌年で、「婦人問題解決」に向けた熱い意欲が感じられる。今よりよっぽど進歩的ではないか。

国際婦人年世界会議は,(1)男女平等の促進,(2)開発努力への婦人の全面的参加の確保,(3)国際平和への婦人の貢献に関する行動の強化の3つを目標として133か国の国々と各種の機関,団体の参加のもとに開かれた。この会議において,「世界行動計画」,「婦人の平等と開発と平和への婦人の寄与に関する1975年のメキシコ宣言」が決議され,また「婦女子の搾取防止」,「母親及び児童の健康の保護」等の決議案が採択された。
なお,国際婦人年に続く10年間は「国連婦人の10年」であると国連総会で決定され,平等,開発,平和の国際婦人年の目標達成のための努力が行われることとなっている。

2 さて,婦人の地位やその生活条件は社会,経済,政治,文化等によって異なる。(中略)我が国においても社会経済の動きに応じて,婦人の地位,役割に対する認識,評価は変化してきている。
我が国では明治維新から第2次世界大戦終了までの間,婦人は参政権を有しておらず,政治的活動も制限され,家庭では前近代的な家父長制の下で幾多の束縛を受けるとともに負担を負い,また,高等教育を受ける機会はほとんど閉ざされ,専門職への道も看護婦,教師等に限定され,一般に労働条件は繊維工業等に従事していた若年婦人労働者にみられるように,低賃金,長時間労働等過酷ともいえる状況で
あった。
このため,この時代の婦人の問題としては男女差別の撤廃が目標とされ,参政権の獲得,政治活動の自由,結婚の自由,夫婦の平等,教育の機会均等,職業選択の自由,労働条件の改善等に力が注がれた。
第2次世界大戦後は,昭和21年に制定された日本国憲法第14条において「すべての国民は法の下に平等であって,人種,信条,性別,社会的身分又は門地により,政治的,経済的又は社会的関係において差別されない」と規定され,普遍的原理として法の下の男女平等が保障されることとなった。これに伴い,各種法制の整備,改革が行われ,従来の差別的な法の規定,取扱いが是正され,婦人の地位の飛躍的な
向上が図られた。

3 現代の婦人問題を考えるに当たっては,昭和30年代以降の経済の高度成長や生活水準の向上等が婦人の生活周期や生活条件に与えた大きな影響,変化を考慮することが必要である。
まず,婦人の生活周期について昭和15年と47年を比較してみると,昭和15年には4歳上の夫と20.8歳で結婚していたが,47年には3歳上の夫と23.1歳で結婚するようになった。また,子供数がほぼ5人から2人へと大幅に減少したため末子出生は35.5歳から27.9歳へと,末子就学が42.0歳から34.4歳へと低下してきている。このことは,出産,育児期間が大幅に短縮され,また,核家族化の進行等による家族数の大幅な減少,生活水準の上昇の一面である家庭電化製品の普及等とあいまって,育児期を除けば主婦の家事の負担が軽減されたことを意味している。また,30年代後半には育児から解放され,時間的にかなりゆとりのある中年期を迎えることとなる。
また,末子の結婚の時期が58.3歳から52.5歳へと低下しており,一方,平均寿命をみると男子46.9年,女子49.6年から,男子70.2年,女子75.5年へと著しく伸びている。したがって,末子が結婚し家庭を出た後は夫と2人で15年近く生活する期間があり,また,夫の死亡の後,更に死ぬまで8年間過ごすといったように中高年の期間が著しく延長されてきていることを意味している。年齢階層で男女の割合を比較すると男子を100とした場合,47年では女子は40~64歳では112.3,65歳以上で128.7の比率となっており高齢になればなる程婦人が多くなっている。
次に,婦人の就業状況をみると,高度経済成長による就業構造の変化,婦人労働に対する需要の高まり,婦人の高学歴化,家事労働の負担の減少等を反映して婦人の職場への進出は著しいものがあり,25年に1,376万人(沖縄県を除く)であった婦人の就業者は45年には2,047万人(沖縄県を除く)と大幅な増加を示してきているが,48年以降は不況の影響を受けて若干減少してきており,50年には1,996万人と
なっている。
就業者中に占める女子の雇用者の割合も25年の26.4%から50年には60.2%と大きな伸びを示してきている。また,最近の婦人労働者の増加は既婚の婦人の増加によるところが大きく,有配偶者が30年で106万人(20.9%)であったものが,50年には599万人(51.4%)であり,死離別の者を加えると62.2%の既婚婦人が就労していることとなる。家庭の主婦のパート・タイマーも増加しており,45年の労働省の女子パート・タイム雇用調査では有配偶者が88.3%,死離別の者が4.1%と既婚の者が9割強を占めている。
婦人の年齢別就業率をみると,従前ば未婚婦人の就業率が高く頂点をなしていたが,50年でも20~24歳が64.4%と最も高い就業率を示しているものの,育児期,教育期を終えた中高年になって再び就職するため,40~49歳60.0%50~59歳54.4%と高くなり,いわゆる一時中断型の就業パターンが増えつつある。
更に,婦人の意識について総理府広報室が50年9月に行った「男女平等に関する世論調査」によると,家庭での男女平等については,男子の42%は平等であるとしているのに対し,女子の49%は平等でないと回答している。また,職場における男女平等については,女子の6割は平等でないと思っており,男子の57%も同様の回答を示している。結婚や出産を機会に勤めをやめることについては,やむをえないと答えた女子は6割に達しているが,そのうち条件さえ整えば勤めをやめないと答えている人が半数近くを示している。
これまでみてきたように,家庭では男女の役割分担などの意識に基づく男女の不平等感が依然として残っており,また職場では,若年退職,結婚退職にみられる不合理な差別や採用,給与等についての男女格差が存在している。結婚した勤労婦人は職業と家庭との両立が困難となるような諸要素が残っており,また,中年期に再就職しても低賃金のパート・タイムなど補助的,単純労働が多い状況にある。
このように,現代においても,家庭における男女の実質的平等,雇用の機会均等及び待遇の平等,母性保護,保育対策,年金等の社会保障の充実,社会活動への積極的参加の促進とその機会の確保など婦人をめぐる問題は多く残されており,法や制度の建前と現実とのかい離はなお大きなものがあり,今後ともこれらの不平等,差別を解消していくことが必要とされている。

45年前の文書です。何も達成できてないではないですか!?

4 社会保障は,国民生活の安定と福祉の向上を図るものであり,さまざまな階層を対象としている。婦人にとっても社会保障は密接な関わりを有しており,婦人が健康で安定した生活を営む上で不可欠なものとなっているが,婦人に関連する事項は次のとおりである。
まず第1は,妊娠,出産をはじめとする母性の保護である。妊娠,出産は婦人にとって極めて重要なものであり,また,次代を担う児童の健全な育成を図る観点からも母子保健の施策が一層重要性を増している。
第2は,育児負担の軽減である。婦人の就労にとって最大の課題は家事労働,育児の問題の解決であるが,育児については保育所等の設置によって集団保育の促進が図られるなど,婦人の負担が軽減されてきている。
第3は,母子世帯の援護である。母子世帯においては母親が子供を養育し,生計を維持していかなければならないが,現在の婦人一般の就業状況からみて低賃金のため収入は低い状態にある場合が多いと考えられるので,これらの者の経済的自立,援助のための措置の充実が必要となってくる。
第4は,老後の保障である。老いは誰にでも訪れるものであるが,既にみたように,高齢になる程婦人の割合は多くなり,寿命の伸びにより老齢期間は長くなる。従って,高齢の婦人の経済的,精神的安定を図るためにも所得保障,医療保障,社会福祉サービスの有機的な連携が要請される。
第5は,社会保障を担う人々の問題である。看護婦,保母,家庭奉仕員等の職業は婦人の適性を十分生かしたものとされており,また,社会保障の分野において重要な役割を果すものであることから,今後も引き続きこれら職種のその確保と待遇改善を図っていくことが望まれる。

エッセンシャル・ワークの重要性、それにも関わらず待遇が悪いことが、すでに認識されていたようです!

5 次に,我が国の社会保障制度の中で婦人に関連する事項の沿革について簡単に触れてみることとする。(中略)
36年から国民すべての者がいずれかの医療保険の対象となる国民皆保険体制
が達成された。
医療保険の中で,被保険者である勤労婦人に対する措置としては,疾病に関する給付のほか,出産した場合の分べん費,出産手当金,育児手当金の給付が行われている。また出産に関しては被扶養者である妻についても配偶者分べん費や配偶者育児手当金の支給が行われている。

分べん費、出産手当金はすでに給付されていた! いったいいつから始まったのだろう……?
厚生白書(昭和51年版)