リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

男女共同参画基本計画がへなちょこになった理由

2000年の第1次計画はすばらしかった……のに

どうして第2次計画からしょぼくなってしまったのか……性教育バッシングなどと関係しているのだろうと前から思っていたが原因が判明した。

まずは2005年7月11日の第12回男女共同参画基本計画に関する専門調査会で配布された「議事次第配布資料」の中にある自民党過激な性教育ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム(安倍晋三内閣官房長官が座長、山谷えり子議員が事務局長)会合(7月7日)提出資料の「男女共同参画基本計画改定『中間整理』のポイント」と「過激な性教育ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクト I.見直しのポイント II.推進すべき政策」という資料。

非常に雑な作りで(あちこちからのコピーのつぎはぎで、しかも乱雑に斜めに張られている)、資料としての体裁も稚拙で汚い。暴力的な印象さえ受ける異様な文書だ。

さらに7月14日に開かれた自民党内閣部会・女性に関する特別委員会・男女共同参画推進協議会及び過激な性教育ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム合同会議に、第13回男女共同参画基本計画に関する専門調査会の岩男壽美子会長と鹿嶋敬委員が招かれ、ジェンダー論によらない基本計画改定をすること、家族否定につながる表現は使わないこと、個人単位、税制、夫婦別氏など、党として方向性が定まっていないことは載せないこと、その他、性教育のあり方や「あらゆる」という言葉の表現について等を要請された。

安倍晋三は高橋史郎との対談で次のように述べている。

……ジェンダーフリーという概念は、生物学的性差や文化的背景をすべて否定し、生まれても男として育てれば男に育つという誤った考え方に基づいています。雛祭りや端午の節句も、女らしさや男らしさを押し付けるものだと教えていました。
 ジェンダーフリーの特徴は、過激な性教育です。ここにもやはり、「個人の家族からの解放」という目的が隠されている。というのも、男女の関係は性でしか結ばれないと言うわけです。家族の絆、夫婦の絆などは一切認めない。私は、ジェンダーフリー教育のもとになっている、男女共同参画基本計画については、約170カ所を修正し、正常化に努めました。



ここから委員たちの苦闘は始まった。〈「社会的・文化的に形成された性別」(ジェンダー)の表現等について〉ひたすら知恵を絞り、内容の洗い出しと文言の見直し、言い換え等々に迫られたからである。

その成果の第2次男女共同参画基本計画は、あちこちが白紙になっており、おそらく「問題がある箇所」を削除した傷跡ではないかと疑われる。

たとえば、2000年の第1次基本計画と2005年の第2次基本計画の「2 男女共同参画の視点に立った社会制度・慣行の見直し、意識の改革」を見比べると次のようになる。

2000年

施策の基本的方向
(1)男女共同参画の視点に立った社会制度・慣行の見直し
 社会制度・慣行は、明示的には性別による区別を設けていない場合でも、現実に男女が置かれている状況の違いを反映し、あるいは世帯に着目して個人を把握する考え方をとるため、結果的に男女に中立的に機能しないことがある。

 女性も男性も固定的な役割分担にとらわれず、様々な活動に参画していける条件を整備していくことが必要である。個人がどのような生き方を選択しても、それに対して中立的に働くよう、社会制度・慣行について個人単位の考え方に改めるなど必要に応じて見直しを行う。

 これまで、我が国の社会制度等について、男女共同参画社会の形成という視点からの調査が十分行われてきたとは言えない。このため、政府の施策が、女性と男性に実質的にどのような影響を与えるかなど、男女共同参画社会の形成に与える影響について調査を進めていくこととする。

具体的施策
(1)男女共同参画の視点に立った社会制度・慣行の見直し
 社会制度・慣行は、明示的には性別による区別を設けていない場合でも、現実に男女が置かれている状況の違いを反映し、あるいは世帯に着目して個人を把握する考え方をとるため、結果的に男女に中立的に機能しないことがある。

 女性も男性も固定的な役割分担にとらわれず、様々な活動に参画していける条件を整備していくことが必要である。個人がどのような生き方を選択しても、それに対して中立的に働くよう、社会制度・慣行について個人単位の考え方に改めるなど必要に応じて見直しを行う。

 これまで、我が国の社会制度等について、男女共同参画社会の形成という視点からの調査が十分行われてきたとは言えない。このため、政府の施策が、女性と男性に実質的にどのような影響を与えるかなど、男女共同参画社会の形成に与える影響について調査を進めていくこととする。

  • 政府の施策が男女共同参画社会の形成に及ぼす影響についての調査の実施

 政府の施策が男女共同参画社会の形成に及ぼす影響についての調査(以下「男女共同参画影響調査」という。)について効果的な手法を確立し、的確な調査を実施する。また、こうした取組について、地方公共団体においても取り組めるよう、情報提供する。

  • 家族に関する法制の整備

 男女平等等の見地から、選択的夫婦別氏制度の導入や、再婚禁止期間の短縮を含む婚姻及び離婚制度の改正について、国民の意識の動向を踏まえつつ、引き続き検討を進める。

  • 個人のライフスタイルの選択に中立的な社会制度の検討

 税制、社会保障制度、賃金制度等、女性の就業を始めとするライフスタイルの選択に大きなかかわりを持つ諸制度・慣行について、様々な世帯形態間の公平性や諸外国の動向等にも配慮しつつ、個人のライフスタイルの選択に対する中立性等の観点から総合的に検討する。

 また、これらの制度は相互に関連しており、総合的な視点からの検討も必要であることから、諸外国における社会制度について総合的な視点から調査研究を行う。

 女性と年金の在り方について指摘されている問題については、厚生大臣の下に設置した各分野の専門家からなる検討会において、民事法制、税制、他の社会保障制度等との関連や諸外国の動向、社会実態など幅広く研究しながら検討を行う。

  • 職場・家庭・地域等における慣行の見直し

 職場・家庭・地域等様々な場における慣行についても、性別による偏りにつながるおそれのあるものについて、広くその見直しを呼びかける。

担当府省
 内閣府法務省財務省厚生労働省、関係府省

2005年は「具体的施策」と「担当府省」が全削除されており、「施策の基本的方向」も微妙に書き換えられている。

施策の基本的方向
(1)男女共同参画の視点に立った社会制度・慣行の見直し
 社会制度・慣行は、明示的には性別による区別を設けていない場合でも、現実に男女が置かれている状況の違いを反映し、あるいは世帯に着目して個人を把握する考え方をとるため、結果的に男女に中立的に機能しないことがある。

 女性も男性も固定的な役割分担にとらわれず、様々な活動に参画していける条件を整備していくことが必要である。その際、国際社会の一員として、国際規範・基準の国内への採り入れ・浸透にも十分留意する必要がある。

 このため、政府の施策及び社会制度・慣行が女性と男性に実質的にどのような影響を与えるかなど、男女共同参画社会の形成に与える影響について調査を進め、また、個人の生き方がますます多様化する中で、男女の社会(過程を含む。)における活動の選択に対して中立的に働くよう、社会制度・慣行について個人単位の考え方に改めるなど必要に応じて見直しを行う。

よく見たら、「具体的施策」は別のページに独立しておかれていた。「施策の基本的方向」「具体的施策「担当府省」を並べて提示しないことにより、気づきにくくなっているのだ。

こんな操作が行われているなんて気づかなかった……。あまりにも激しいジェンダーバッシングに恐れをなして、だれも批判しなかったのだろうか? マスコミも気づかなかったの?? 不思議である。

 以下、比較しやすいように第1次~第5次男女共同参画基本計画のURLを示す。ただし、第1次計画については、全文が載っているページはなく、目次からそれぞれの章を開くしかない。また第2次計画については、なぜかコピー機能を使えないPDFファイルになっているし、フォントも異なる。

第1次 https://www.gender.go.jp/about_danjo/basic_plans/1st/2-8h.html
第2次 https://www.gender.go.jp/about_danjo/basic_plans/2nd/pdf/all.pdf
第3次 https://www.gender.go.jp/about_danjo/basic_plans/3rd/pdf/3-26.pdf
第4次 https://www.gender.go.jp/about_danjo/basic_plans/4th/pdf/print.pdf
第5次 https://www.gender.go.jp/about_danjo/basic_plans/5th/pdf/print.pdf