リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

中絶をめぐる諸々情報

●中絶薬は世界で77か国、OECD37か国中32ヵ国で承認しています。ほぼすべての「先進国」ですが、実は承認している国々の過半数は非OECD国です。

承認していない非OECDの国々は、サハラ以南と呼ばれるアフリカの最貧国、ムスリムの中東諸国、南米のいくつかの国々で、いずれも女性差別がすさまじい国々す。

OECD諸国で中絶薬を認可していないのは、スロバキア、トルコ、ポーランド、韓国、日本だけです。いちおうOECD諸国=先進国とされていますが、その中では比較的発展が遅れた国々と言っていいかもしれません。(それでもジェンダー開発指数では、130位のトルコ以外は、日本の121位に比べて、ポーランド40位、スロバキア63位、韓国108位と上位に位置しています。)そういう中に日本は混じっているのです。

ただし、本年1月1日から堕胎罪がなくなった韓国は現在薬の導入に向けて動いています。スロバキアは妊娠12週まで女性の自由意志で中絶を受けられるのに、中絶薬を認可していないためにコロナ禍で中絶が受けられない女性たちが続出して人権問題になっています。トルコは日本同様に、中絶のために配偶者の同意が必要な数少ない国の一つですが、妊娠12週までの中絶は、どんな理由でも受けられるので、日本よりは進んでいると言えます。ポーランドは、宗教的な理由のために、現在、世界で最も中絶に対する規制が厳しい国の一つで、政府の弾圧がますます強くなっているため全世界の注目を浴びています。そんな国と日本は同じ地点にあるのです。

●本日、塩村あやか議員が内閣委員会で、打越さくら議員は厚生労働委員会で中絶薬に関する質問をしました。その結果、ラインファーマ社と国内のメーカーの2件とも第3相治験を終了していること、ラインファーマ同様に「体内動態」を調べる追加の治験をすることが明らかになりました。以下がその会社の治験の状況です。株式会社メディサイエンスプラニングという治験の受託会社ですね。

「日本人女性及び白人女性におけるLPI 001の薬物動態及び安全性を検討する第I相試験」
日本人女性及び白人女性におけるLPI 001の薬物動態及び安全性を検討する第I相試験|関連する治験情報【臨床研究情報ポータルサイト】
一方のラインファーマはこんな状況です。
LPI001とLPI002の初期人工妊娠中絶における有効性及び安全性を検討する多施設共同非盲検第3相試験|関連する治験情報【臨床研究情報ポータルサイト】


おそらくラインファーマにも同様の追加治験をするよう厚労省は指示したものと思われますが、全くもって無駄なことです。すでに終了した治験で安全性と有効性は確認されているのです。しかも、世界的に標準投与量(ミフェプリストン200mg)が定まっているのに、50mg、100mgという少量の投与量で「体内動態」を調べることには何の意味もありません。

この追加治験は中絶薬の承認をできるだけ遅らせるのと共に、コストをかけることで薬の価格を釣り上げるための操作ではないかと疑われます。

そもそも30年以上も全世界で安全に使われてきた薬であり、コロナ禍のためにイギリスやフランスでは自宅に薬を送付して女性自身が服用する方法(自宅中絶、自己管理中絶といいます)まで導入されたくらい安全な薬なのです。(万が一、妊娠していなくて飲んでも何も問題ありません。)

「ミフェ・ミソ」のコンビ薬(セットにした薬)は、WHOのエッセンシャル・ドラッグ・リスト(必須医薬品リスト)に2005年から入っているばかりか、2019年からは必須中の必須である薬を厳選した「コアリスト」にも入っているのです。

それほど安全性と有効性が厳しく確認済みの薬なので、国内で新たに治験を行うこと自体がほとんど無駄だったと思われるのに、さらに追加治験を行わせるというのは愚策にもほどがあります。

●WHOは妊娠初期の中絶については「中絶薬」と「吸引法」の両方を「セーフ・アボーション」として推奨してきましたが、コロナ・パンデミックのために、現在は以下のように中絶薬を自宅で使う方法等が奨励されています。

  • 少女やレイプ被害者など、特に弱い立場にある人々のケアを遅らせ、その結果、リスクを高める可能性のある障壁を取り払うこと。
  • 安全な中絶や不全中絶の処置のために、非侵襲的な方法を採用すること。
  • 遠隔医療や自己管理中絶(女性が自宅で自分で薬を服用する方法)を活用することで、医療施設への訪問回数を減らし、医療従事者と患者の接触を最小限にすること。

FIGOは9月28日セーフ・アボーション・デーに、パンデミック後も自己管理中絶で中絶へのアクセスを強化すべきだとの見解を出しています。
www.figo.org