リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

国内初「経口中絶薬」承認申請 手術を伴わない選択肢

NHK政治マガジン 2021年12月22日注目記事

人工妊娠中絶を外科的な処置をせずに薬で行う「経口中絶薬」について、イギリスの製薬会社が国内での使用を認めるよう22日、厚生労働省に承認を申請しました。


承認されれば国内で初めての経口中絶薬となり、手術を伴わない選択肢ができることになります。


承認の申請が行われたのは、イギリスの製薬会社「ラインファーマ」が開発した、人工妊娠中絶を外科的な処置をせずに薬で行う「ミフェプリストン」と「ミソプロストール」の2種類です。


ラインファーマなどによりますと、この2種類の薬を順番に服用することで、妊娠の継続を止め、排出されるということで、治験の結果では、妊娠9週までの120人に薬を投与した結果、93%に当たる112人が24時間以内に薬だけで中絶を完了したということです。


残る8人は、一部が体内に残り外科的な処置が必要になったり、時間内に排出されなかったりしたということです。


また、およそ60%に当たる71人が腹痛やおう吐などの症状を訴え、このうち薬の副作用と判断されたのは45人で、1人に発熱や出血による貧血など重い症状があったということです。


この薬は海外では80以上の国と地域で承認され、WHO=世界保健機関は安全で効果的だとして推奨しています。


また、日本の初期中絶の手術費用に比べ安価で、体への負担も軽いということで、女性団体や医療関係者から心身の負担軽減につながるという声もあります。


厚生労働省はこれから1年以内に有効性や安全性を審査する見通しで、承認されれば国内で初めての経口中絶薬となり、手術を伴わない選択肢ができることになります。


すでに多くの国と地域で承認 使用も
今回、承認が申請された経口中絶薬の「ミフェプリストン」と「ミソプロストール」は世界ではすでに多くの国と地域で承認され、使われています。


日本では人工妊娠中絶は金属の器具でかき出す、「そうは法」と呼ばれる手術で行われるケースが少なくありませんが、海外では欧米を中心にこれらの「経口中絶薬」が広く使われています。


アメリカのNPO団体などによりますと、今回、承認が申請された「ミフェプリストン」は、1988年にフランスなどで初めて承認されて以降、ことし10月までに、世界のおよそ80の国と地域で使用されているということです。


また、「ミソプロストール」は胃や十二指腸潰瘍の治療薬として、日本を含む多くの国や地域で承認されていて、経口中絶薬としては日本以外の多くの国や地域で承認されているということです。


さらにこれらの経口中絶薬については、WHO=世界保健機関は2005年に妥当な価格で広く使用されるべき薬として、風疹やインフルエンザの予防接種に使われるワクチンなどと同じ「必須医薬品」に指定しています。


また、WHOは2012年に発表した安全な中絶に関するガイドラインの中で、「そうは法」は子宮内を傷つけるなどのリスクがあり行うべきでないとし安全な中絶として経口中絶薬か真空吸引法に切り替えるべきだとしています。


安価で利用しやすさ求め署名も
経口中絶薬を安価で利用しやすいようにしてほしいと、7つの市民団体が署名活動を行っていて、12月14日には4万人分余りの署名を厚生労働省に提出しています。


署名では、経口中絶薬は、
▽安全で効果的だとしてWHO=世界保健機関が「必須医薬品」に指定していること、
▽海外では1988年から使われ、現在では日本で申請された薬はおよそ80か国、そして、薬による中絶はおよそ100か国で承認されていること、
▽海外ではオンラインで診察し、処方している国もあることなどから、
厚生労働省に対し、速やかに承認し、当事者の女性が利用しやすいようにするよう求めています。


さらに、経口中絶薬の価格について、WHOによると海外での平均価格はおよそ740円であるとして、国内で承認された場合は安価な料金で処方されるようにしてほしいと訴えているほか、WHOは胎児の心拍が止まり、流産になったときでも使用を推奨しているとして流産への適応拡大も求めています。


署名を提出した市民団体の1つ「Safe Abortion Japan Project」の代表で、産婦人科の遠見才希子医師は「国際的なガイドラインに基づいて運用管理が行われ、中絶薬による安全な中絶が早期に実現することを願っています」と話しています。


産婦人科医会は慎重な姿勢
経口中絶薬の承認申請について、日本産婦人科医会の木下勝之会長は「医学の進歩による新しい方法であり、治験を行ったうえで安全だということならば、中絶薬の導入は仕方がないと思っている。しかし、薬で簡単に中絶できるという捉え方をされないか懸念している。薬を服用し、夜間に自宅で出血した場合に心配になる女性もいると思う。そうした場合にすぐに対応できる体制も必要だ」と述べました。


日本産婦人科医会は、処方は当面、入院が可能な医療機関で、中絶を行う資格のある医師だけが行うべきだとしていて、木下会長は「医師は薬を処方するだけでなく、排出されなかった場合の外科的手術など、その後の管理も行うので相応の管理料が必要だ」と述べて、薬の処方にかかる費用について10万円程度かかる手術と同等の料金設定が望ましいとする考えを示しました。

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