リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

IMADR: 国連女性差別撤廃委員会の見解文書IMADR:

国際人権NGO 反差別国際運動

国連女性差別撤廃委員会の見解文書の放置に関して

外務大臣 茂木敏充
内閣府特命担当大臣 丸川珠代


国連女性差別撤廃委員会の見解文書の放置に関して


 国連女性差別撤廃委員会(以下、委員会)が 2018 年 12 月 17 日付けで日本政府に宛てたフォロー
アップ審査の見解文書が、本年 3 月 15 日まで外務省において放置されていたことが3月 23 日の参
議院特別委員会において明らかになりました。このフォローアップ審査は、2016 年 2 月に実施され
た日本政府報告書審査の総括所見において、委員会が緊急を要する、あるいは経過報告が必要であ
ると指定した勧告に関して、日本政府が 2018 年 3 月にフォローアップ情報を出し、それをもとに行
われたものです。
 今回のフォローアップ審査の対象となった二つの勧告のうちの一つが、私たち部落、アイヌ民族
在日コリアンおよび移民女性に関するもので、これらマイノリティ女性に対する差別を煽るヘイト
スピーチなどへの法的措置の整備と、女性たちに対する固定観念や偏見をなくすための措置を求め
たものです。政府が出したフォローアップ情報と並行して、私たちも NGO のフォローアップ情報
を提出しました。これらの情報は委員会のウェブサイトに掲載されています。問題となっている委
員会の見解文書も、日本政府への送付後すぐに委員会の同じサイトにて公開されています。
 委員会が見解文書を政府に送った 2018 年 12 月 17 日の数日前の 12 月 13 日、私たちは、フォロ
ーアップ審査について、内閣府文部科学省および法務省との非公式な意見交換会参議院議員
館で行い、複合差別の問題が政府関係者のあいだでようやく可視化され始めたと確認したところで
した。その後、2019 年から 2020 年にかけて行われた第五次男女共同参画基本計画の策定にあたっ
ての基本的考え方に対して、私たちもコメントを提出しました。
 フォローアップ審査の見解文書が放置されていたことは、こうした経緯を一瞬にして吹き飛ばす
ものであり、政府への疑念を抱かせるものです。マイノリティ女性に対するヘイトスピーチやヘイ
トクライム、あるいは偏見に基づく差別的行為は後を絶たず、有効な手段もないまま放置されてい
ます。政治的代表を確保されていないマイノリティ女性にとって、国連人権条約機関の審査は直面
する人権問題を明らかにする場であり、同時に国際人権基準が保障する権利の主体者であることを
公に確認する場であります。


 これらを踏まえたうえで、私たちは日本政府に対して以下のことを要請します。
1.なぜこのようなことが起きたのかを政府内で調査し、判明したことを明らかにしていただきたい。
2.今後このようなことが起きないために、国連人権機関による勧告およびフォローアップ勧告について市民社会団体と意見交換を定期的に開くようにしていただきたい。


2021 年 3 月 31 日


部落解放同盟中央女性運動部
アプロ・未来を創造する在日コリアン女性ネットワーク
一般社団法人メノコモㇱモㇱ
反差別国際運動(IMADR)


放置されていた文書の仮訳

(仮訳)
2018年12月17日
ジュネーブ国際機関日本政府代表部常駐代表
伊原純一閣下
閣下


 私は、女子差別撤廃委員会(CEDAW)の総括所見フォローアップに関する報告者として、2016年2月に開催された委員会第63回会期における日本の第7回及び第8回定期報告の審査について、謹んで申し述べる。会期終了時に、委員会の総括所見(CEDAW/C/JPN/CO/7-8)を貴国代表部に送付した。御承知の通り、総括所見のフォローアップに関するパラグラフ55において、委員会は、日本に対し、総括所見のパラグラフ13(a)、21(d) 及び(e)に盛り込まれている勧告を実施するために講じた措置について、2年以内に、書面による情報を提供するよう要請した。
 委員会は、CEDAWフォローアップ手続の下、2018年4月に1カ月遅れて受領したフォローアップ報告(CEDAW/C/JPN/CO/7-8/Add.1)を歓迎する。2018年11月にジュネーブで開催された第71回会期において、委員会は、このフォローアップ報告を審査し、以下の評価を採択した。
 「民法を改正し、女性の婚姻適齢を男性と同じ18歳に引き上げること、女性が婚姻前の姓を保持できるよう夫婦の氏の選択に関する法規定を改正すること、及び女性に対する離婚後の再婚禁止期間を全て廃止すること」を締約国に要請する総括所見パラグラフ13の勧告に関し:


委員会は、締約国から提供された、女性の婚姻開始年齢を18歳に引き上げ、婚姻可能な年齢を男女とも18歳という法案を2018年3月に国会に提出したとする情報を歓迎する。委員会はさらに、再婚禁止期間を100日に短縮する民法の一部を改正する法律の採択を歓迎する。しかしながら、委員会は、女性が婚姻後に婚姻前の姓を保持することを認めるための立法措置を締約国が講じていないこと及び締約国が女性の再婚禁止期間を廃止していないことを遺憾に思う。委員会は、締約国が勧告を実施するためにいくつかの実質的な措置を取ったと考える。委員会は、勧告が実質的に実施されたと考える。
 委員会は、締約国から提供された情報が十分かつ広範囲にわたっており、勧告に全面的に応じていると考える。よって、委員会は、提供された情報の質は満足できるものであると考える。
 委員会は、総括所見パラグラフ13に関し、次回定期報告において、下記の更なる措置に関する情報を提供するよう締約国に勧告する。


1. 既婚女性が婚姻前の姓を保持することを可能にする法整備を行うこと。
2. 女性に対する離婚後の再婚禁止期間を全て廃止すること。
アイヌの女性、同和地区の女性、在日韓国・朝鮮人の女性などの民族的及びその他のマイノリティ女性や移民女性に対する攻撃を含む、民族的優越性又は憎悪を主張する性差別的な発言や宣伝を禁止し、制裁を課す法整備を行うこと」を締約国に要請する総括所見パラグラフ21の勧告に関し:

 委員会は、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」及び「部落差別の解消の推進に関する法律」の採択を歓迎するが、前者の適用範囲が極めて限定的であること、及びいずれの法律もジェンダーの視点を欠いており、また、差別を禁ずる規定が盛り込まれているか否かが明確でないことを遺憾に思う。いずれの法律も罰則を課していない。委員会は、締約国がアイヌの人々への差別に関して法的措置を何も講じなかったことについても遺憾に思う。委員会は、締約国が勧告を実施するためにいくつかの措置を取ったと考える。委員会は、勧告が部分的に実施されたと考える。
 委員会は、締約国から提供された情報は十分かつ広範囲にわたっているが、勧告に全面的に応じてはいないと考える。よって、委員会は、提供された情報の質は部分的に満足できるものだと考える。
 「差別的な固定観念及びアイヌの女性、同和地区の女性、在日韓国・朝鮮人の女性や移民女性に対する偏見を解消するために取られた措置の効果について独立した専門機関を通じて定期的に監視及び評価すること」を締約国に要請する勧告に関し:
 委員会は、特定のマイノリティ集団に属する女性への差別の分野において国の政策を知らせる2つの重要な調査を実施したとする締約国から提供された情報を歓迎する。委員会はさらに、法務局及び地方法務局における相談体制の強化を歓迎する。これらは重要な措置ではあるが、委員会は、締約国におけるマイノリティ集団に属する女性への差別を解消するために取られた措置の効果について、監視及び評価する独立した専門機関
が存在しないことを遺憾に思う。委員会は、締約国が勧告を実施するための措置を全く取らなかったと考える。委員会は、勧告は実施されていないと考える。
 委員会は、締約国から提供された情報が十分かつ広範囲にわたっており、勧告に応じていると考える。よって、委員会は、提供された情報の質が満足できるものと考える。
委員会は、総括所見パラグラフ21に関し、次回定期報告において、下記の更なる措置に関する情報を提供するよう締約国に勧告する。


1.アイヌの女性、同和地区の女性、在日韓国・朝鮮人の女性などの民族的及びその他のマイノリティ女性や移民女性に対する攻撃を含む、民族的優越性又は憎悪を主張する性差別的な発言や宣伝を禁止し制裁を課す法整備を行うこと。

2.差別的な固定観念及びアイヌの女性、同和地区の女性、在日韓国・朝鮮人の女性や移民女性に対する偏見を解消するために取られた措置の効果について、定期的に監視及び評価する権限を持つ独立した専門機関を設置すること。


 閣下に対し敬意を表します。


敬具


女子差別撤廃委員会
フォローアップ報告者
ヒラリー・グベデマ