リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

飲む中絶薬の承認 安心して使える仕組みを

毎日新聞 2023年6月4日社説

 人工妊娠中絶のための飲み薬の製造販売が、国内で初めて承認された。外科手術に比べて身体への負担が少ない。選択肢が広がったことは前進だが、なお課題も残っている。

 英製薬会社が開発した「メフィーゴパック」という薬だ。妊娠9週以内の人が、指定医のもとで2種類の薬剤を服用することにより、中絶が可能になる。

 経口中絶薬は、1988年にフランスで初めて承認され、現在70カ国以上で使われている。世界保健機関(WHO)も安全だとして推奨してきた。しかし、日本では、妊娠初期の中絶方法は、これまで外科手術しか認められず、世界の潮流から遅れていた。

 承認には、条件が付けられた。腹痛や出血などの副作用があるため、当面、入院が可能な病院・診療所での使用に限られる。外来であっても、中絶が確認されるまでは院内待機が求められる。


 安全性を考慮すれば、当初は慎重を期すのはやむを得ないだろう。だが、病院と有床診療所に限定することで、女性が薬にアクセスしにくい状況を招かないか懸念が残る。知見を生かしながら、柔軟に対応していく必要がある。

 費用の問題もある。中絶薬の服用は、外科手術と同様、原則として保険が適用されず、自由診療となる。薬代に加え、医療機関での診察・検査などの料金を含めると10万円程度かかると想定されている。もう少し安価に提供できるようにすべきではないか。


 また母体保護法は、中絶に原則として配偶者の同意を求めているが、要件撤廃を求める声は強い。法改正を検討すべきだ。

 国内の中絶件数は、2021年度で約12万6000件にのぼる。厚生労働省が承認前に一般から意見を公募したところ、異例に多い約1万2000件が寄せられ、関心の高さを示した。

 世界では「性と生殖に関する健康と権利」への理解が広がっている。産むか産まないかなど、自分の身体に関することを自己決定できる権利を尊重する考え方だ。

 承認を第一歩として、安心して使用できる仕組みを整える必要がある。女性の健康と権利を守る取り組みをさらに進めていかなければならない。