リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

男女共同参画審議会が消えた!?

男女共同参画局のホームページの実に奇妙な配置

平成8年(1996年)に「男女共同参画ビジョン-21世紀の新たな価値の創造-」を橋本総理(自民―自社さ連立政権)に答申した「男女共同参画審議会」のことを調べていて気づいた。(諮問したのは同じ連立政権の村山総理―社会党だった。)


まず、このビジョンそのものを単体で扱った説明ページは存在しない。男女共同参画局の中では、以下の「プラン」の説明ページの中に説明が出てくる。全文はURLを参照してほしい。その下に、見出しだけ拾って、どのような構成になっているのかを示す。

内閣府ホーム > 内閣府男女共同参画局ホーム > 男女共同参画とは > 男女共同参画白書 > 男女共同参画の現状と施策
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/press/genjyo.html
男女共同参画2000年プランのスタートに当たって》
男女共同参画2000年プランに関する報告書(第1回)


男女共同参画の現状と施策 ―男女共同参画2000年プランに関する報告書(第1回)」の概要
Ⅰ 現 状
1. 政策・方針決定過程への女性の参画
2. 職場、家庭、地域への男女の共同参画
3. 女性の人権
Ⅱ 施策の推進
男女共同参画ビジョンの答申
男女共同参画2000年プランの策定
男女共同参画審議会設置法の成立


さらに細かい説明が続く中に次がある。

5 計画の推進
(1) 施策の積極的展開と定期的フォローアップ
(2) 国内本部機構の組織・機能強化
・平成9年2月、男女共同参画審議会設置法案を第140回通常国会に提出、同法は同年3月に成立し、4月1日より施行されることとなった。
(3) 国、地方公共団体NGOの連携強化、全国民的取組体制の強化
総理府は、平成8年9月、男女共同参画社会づくりに向けて国民的な取組を推進するため、広く各界、各層との連携を図ることを目的として、男女共同参画推進連携会議(えがりてネットワーク)を開催することとした。


上記で斜体にしたところの経緯は以下で説明されている。

内閣府ホーム > 内閣府男女共同参画局ホーム > 男女共同参画とは > 法律 > 男女共同参画社会基本法 > 男女共同参画社会基本法逐条解説釈
https://www.gender.go.jp/about_danjo/law/kihon/chikujyou21.html
内閣官房長官を議長とし、各省大臣等12名及び学識経験者12名の総計25名で構成。


上記ページの説明によると、政令に基づいていた「男女共同参画審議会」が、平成9年の男女共同参画審議会設置法に基づいて半数が閣僚で占められる「男女共同参画審議会」に代わり、さらに「平成13年1月の中央省庁等改革に併せ、現在の男女共同参画会議になった」というのである。


しかし実のところ当初の男女共同参画審議会では、少数精鋭の民間のそうそうたる有識者(20数名)たちが、何十時間にもわたる審議を重ねてビジョンを策定していた。諮問したのは専門家の意見を尊重していた村山総理(社会党)。過半数が閣僚によって占められ、政権の意向に忖度する有識者を数多く揃えた現在の「男女共同参画会議」とは全く別のしろものなのである。


男女共同参画審議会設置法は平成9年(1997年)に成立しながら11年(1999年)に早くも廃止されている。

男女共同参画審議会設置法 平成9年3月26日法律第7号
廃止:平成11年6月23日法律第78号
https://hourei.ndl.go.jp/#/detail?lawId=0000082852¤t=-1


外に情報はないかと検索を重ねていったところ、なぜか以下の国際的協調のページの中に「男女共同参画審議会」が掲載されていた。

内閣府ホーム > 内閣府男女共同参画局ホーム > 国際的協調 > 国際会議 > 世界女性会議等 > 第二部 財政的及び制度的措置
3 フォローアップ体制におけるNGOの役割
https://www.gender.go.jp/international/int_kaigi/int_women_kaigi/beijing/2-3.html


これだけでは何の第二部なのかもわからない。さらに検索していくと、第二部の1と2のページが見つかった。

内閣府ホーム > 内閣府男女共同参画局ホーム > 国際的協調 > 国際会議 > 世界女性会議等 > 第二部 財政的及び制度的措置
1 財政的措置
https://www.gender.go.jp/international/int_kaigi/int_women_kaigi/beijing/2-1.html


内閣府ホーム > 内閣府男女共同参画局ホーム > 国際的協調 > 国際会議 > 世界女性会議等 > 第二部 財政的及び制度的措置
2 「北京行動綱領」のフォローアップ体制
https://www.gender.go.jp/international/int_kaigi/int_women_kaigi/beijing/2-2.html


一つ上の水準のページを開いたのが以下だが、第一部、第二部といった見出しは見当たらない。

内閣府ホーム > 内閣府男女共同参画局ホーム > 国際的協調 > 国際会議 > 世界女性会議等
https://www.gender.go.jp/international/int_kaigi/int_women_kaigi/index.html


このページの中身は以下の通り。

世界女性会議等
■第64回国連婦⼈の地位委員会(CSW)/ ジェンダー平等を目指す全ての世代フォーラム(Generation Equality Forum/GEF) (2021年)

■第59回国連婦⼈の地位委員会(CSW)/「北京+20」に向けた取組について(2015年)

■第54回国連婦人の地位委員会(CSW)/「北京+15」記念会合 (2010年)
概要
1995年に開催された第4回世界女性会議(北京会議)から15年目にあたることを記念し、「北京宣言及び行動綱領」と第23回国連特別総会「女性2000年会議」成果文書の実施状況の評価を主要テーマに開催されました。
「北京行動綱領・第23回国連特別総会成果文書の実施状況に関する質問状」(英語 [PDF形式:60KB]別ウインドウで開きます / 仮訳 [PDF形式:208KB] 別ウインドウで開きます)
「北京行動綱領・第23回国連特別総会成果文書の実施状況に関する質問状」への回答(英語 [PDF形式:160KB]別ウインドウで開きます / 仮訳 [PDF形式:408KB]別ウインドウで開きます )
ESCAPハイレベル政府間会合
北京+10記念シンポジウム

北京+10記念シンポジウム 北京をこえて [PDF形式:77KB]別ウインドウで開きます ~きりひらく男女共同参画の未来~ (2005年)

■第49回国連婦人の地位委員会(CSW)/「北京+10」閣僚級会合 (2005年)
概要
1995年に開催された第4回世界女性会議(北京会議)から10年目にあたることを記念し、「北京宣言及び行動綱領」及び「女性2000年会議成果文書」の実施状況の評価・見直しを行うとともに、更なる実施に向けた戦略や今後の課題について協議することを目的に閣僚級会合として開催されました。
「北京行動綱領・第23回国連特別総会成果文書の実施状況に関する質問状」
「北京行動綱領・第23回国連特別総会成果文書の実施状況に関するへの回答 [PDF形式:572KB] 別ウインドウで開きます
ESCAPハイレベル政府間会合
■国連特別総会「女性2000年会議」/北京+5 (2000年)
概要
採択文書
政治宣言
北京宣言及び行動綱領実施のための更なる行動とイニシアティブ(いわゆる「成果文書」)
岩男壽美子首席代表演説
北京行動綱領の実施状況に関する質問状
「北京行動綱領の実施状況に関する質問状」への回答
ESCAPハイレベル政府間会議
女性2000年会議準備委員会
女性2000年会議日本国内委員会
NEWSLETTER 「女性2000年会議-21世紀に向けての男女平等・開発・平和-に向けて」
■第4回世界女性会議 (1995年)
概要
北京宣言
行動綱領
野坂浩賢首席代表演説


さらに上のレベルは以下の通り。

内閣府ホーム > 内閣府男女共同参画局ホーム > 国際的協調 > 国際会議
https://www.gender.go.jp/international/int_kaigi/index.html


男女共同参画局で「第一部」と検索しても何も出なかったが、いろいろ試していたら次のページが見つかった!

内閣府ホーム > 内閣府男女共同参画局ホーム > 国際的協調 > 国際会議 > 「北京行動綱領の実施状況に関する質問状」への回答
https://www.gender.go.jp/international/int_kaigi/int_women_kaigi/beijing/
「北京行動綱領の実施状況に関する質問状」への回答
男女共同参画社会基本法の制定に向けて


第二部 財政的及び制度的措置

財政的措置
「北京行動綱領」のフォローアップ体制
フォローアップ体制におけるNGOの役割


もしやと思い、「男女共同参画社会基本法の制定に向けて」をクリックしたらビンゴ! 第一部を発見した。

内閣府ホーム > 内閣府男女共同参画局ホーム > 国際的協調 > 国際会議 > 世界女性会議等 > 第一部 男女平等と女性の地位向上の達成における動向の概観
https://www.gender.go.jp/international/int_kaigi/int_women_kaigi/beijing/1-5.html


このページには以下のように書いてある。

第一部 男女平等と女性の地位向上の達成における動向の概観
 男女共同参画ビジョン及び男女共同参画2000年プランにおいては、男女共同参画社会の実現を促進するための基本的な法律について検討を進めることが盛り込まれていたところであるが、男女共同参画審議会は、1997年6月、内閣総理大臣から「男女共同参画社会の実現を促進するための方策に関する基本的事項について」諮問を受け、1998年11月、同諮問に関するそれまでの調査審議の結果を取りまとめ、「男女共同参画社会基本法について-男女共同参画社会を形成するための基礎的条件づくり-」と題する答申を内閣総理大臣に提出し、基本法の制定を提言した。

 政府においては、この答申を受け、法案の検討を進め、1999年2月、「男女共同参画社会基本法案」を国会に提出したところである。


こうやって「ビジョン」を北京会議の「資料」に貶めて過去に葬り去ったというわけだ。


ちなみに、ビジョンの本文は次で読める。

https://www.ipss.go.jp/publication/j/shiryou/no.13/data/shiryou/syakaifukushi/588.pdf:title=男女共同参画ビジョン-新たな価値の創造- 総理府 平成8年7月30日 男女共同参画審議会]


ビジョンとプランについては次のブログも参照。
男女共同参画ビジョンと男女共同参画2000年プランの「目標」 ポイントがぼやけてしまっているように感じずにいられない


なお、ビジョンがいかに画期的な内容であったかについては以下の論文を参照。
女性運動と行政の協働に関する一考察 : 縫田曄子と男女共同参画ビジョンに着目して女性学研究 21 120-141, 2014-03 大阪府立大学女性学研究センター


男女共同参画審議会は、平成6年8月に村山総理(自社さ連立政権)による「男女共同参画の形成に向けて、21世紀を展望した総合的ビジョンについて」の諮問を受け、橋本総理(自社さ連立政権)に答申した。ところが11月に組閣された第二次橋本政権は自民単独政権に返り咲き、その直後の12月にプランが策定されている。


現在は120名も名を連ねた男女共同参画推進連携会議というのが作られているが、これほどの大所帯では、まともな議論も行えないし、合意にも達せないに違いない。「民間から意見を聞きました」という言い訳作りのためなのだろうか。


最後に、以下の論文からの引用を示しておく。
女性運動と行政の協同に関する一考察——縫田曄子と男女共同参画ビジョンに着目して――
鈴木彩加・関めぐみ・堀あきこ
女性学研究 21 120-141, 2014-03
大阪府立大学女性学研究センター

縫田氏は人権を重く受け止め、様々な場所で一貫した態度をとってきた。ビジョン制定の審議会で重要な役割を果たした古橋源六郎(後述)は、「人権の問題が書けているのではないかという縫田会長からの指摘があり、【ビジョンの】理念の最初に<人権の確立>が上がりました」と語っている。縫田が審議会を辞した【答申翌年の1997年】後の基本法で「人権」への焦点がぼやけたことを考えると、その存在の大きさを感じさせるエピソードである。


ちなみに、古橋氏は総務事務次官まで上り詰めて退官した元役人で、ビジョンの3部会の一つ「男女共同参画の推進のための諸制度」部会長を務めた。残り二つは「男女共同参画社会への展望」(藤原房子部会長)、「国際的な関心事項」(有馬真喜子部会長)であった。後者二人は「女性問題に詳しいジャーナリスト」だとされる。