男女共同参画審議会 審議会答申 平成12年(2000年)9月26日
リプロの出てくる箇所:
II 個人の尊厳の確立
個人の尊厳の確立は、男女共同参画社会の根底をなす考え方である。生命、身体、精神にかかわる個人の尊厳が確立されなければ、男女がその個性と能力を発揮していくことはできない。国際的にも民族紛争により発生した難民への対応など国家主権を超えた視点での取組が課題になるとともに、「女性2000年会議」においても女性に対する暴力の問題がこれまでよりも一層重視されるなど、個人の尊厳の確立は、その重要性に対する認識が一層深まっている。1 女性に対する暴力への今後の取組
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2 リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(*1)への今後の取組
【視点】
女性も男性もそれぞれの身体の特性を十分に理解し合い、思いやりをもって生きていくことは、男女共同参画社会の形成に当たっての前提といえる。とりわけ、女性は、妊娠や出産をする可能性があることもあり、リプロダクティブ・ヘルス/ライツの視点から女性の生涯を通じた健康を支援するための総合的な対策の推進を図ることが必要である。
妊娠、出産期は女性の健康支援にとっての大きな節目であることから、我が国の妊産婦死亡率が先進国の中でやや高いことなどの課題を踏まえ、妊娠・出産の安全性や快適さを確保することが必要である。また、不妊に悩む男女が多いことから、精神面を含む支援を行っていく必要がある。
女性が自らの身体について自己決定を行い健康を享受するという観点から、性と生殖に関することを含め自らの健康について、幼児期から高齢期に至るまで適時、正しい情報を入手できるよう十分に対応する必要がある。人工妊娠中絶の件数は、昭和30年と比較し、平成11年では1/3以下に減少しているが、未だに33万件を上回っており、中でも20歳未満の女性の人工妊娠中絶は増加の傾向にある。これらの事実は人工妊娠中絶が女性の心身に及ぼす影響に対する認識や安全な避妊の知識が十分でないことなどが原因となっているものと思われる。このため、女性と男性の相互の尊敬と理解に基づく家族計画等の普及が重要である。
女性の生涯を通じてリプロダクティブ・ヘルス/ライツが保障されることが肝要である。
【具体的な取組】
リプロダクティブ・ヘルス/ライツの考え方を踏まえ、性と生殖に関し、自ら判断し、決定すること(性的自己決定)を相互に尊重することが重要である。このため、自分の身体や相手の身体について正しい情報を入手し、自分で判断し、自ら健康管理できるようにするため、学校や地域における性教育や健康教育の一層の充実を図る必要がある。その際、青少年の性行動が低年齢化・活発化している状況を踏まえ、また、性情報が氾濫している状況を踏まえ、学校や地域においてリプロダクティブ・ヘルス/ライツの視点に立つ性教育や健康教育の充実を図る必要がある。なお、性教育を進める際には、避妊に関する情報提供及び適切な対応にも留意するとともに、学校と関係機関・地域社会、あるいは産婦人科医・助産婦・保健婦等と必要に応じ適切な連携・協力を行うことも重要である。
摂食障害、喫煙、飲酒及び薬物については、それらが生殖機能や胎児に影響を及ぼすものであることから、女性が主体的に取り組めるよう学校や地域社会において健康被害に関する正確な情報提供が行われる必要がある。特に、喫煙は個人の問題ではあるが、リプロダクティブ・ヘルス/ライツの考え方を踏まえ、生涯を通じた女性の健康への配慮という点から、公共空間を始め飲食店など不特定多数の人が利用する空間及び職場においては禁煙が推進されることが望ましい。
妊娠・出産の安全性や快適さ及び避妊の選択肢を確保するため、周産期医療や家族計画指導を含む母子保健医療施策等を推進する必要がある。
子どもを持ちたいにもかかわらず不妊で悩む人々が、正しく適切な基礎情報を基にその対応について自己決定できるよう、不妊に関する多面的な相談体制を整備する必要がある。また、不妊治療に関する研究環境の整備を推進する必要がある。
月経、乳がん、子宮内膜症、骨粗鬆症、更年期障害等の女性に特有な健康状態あるいは女性に多く見られる疾病について、これらに関する研究及び予防、健康診査、相談、情報提供等の適切な保健サービスを推進する必要がある。
医師、保健婦、助産婦、看護婦、カウンセラーや保健所、市町村保健センター等の担当職員に対し、女性の生涯を通じた健康支援の総合的な推進を図る視点から、リプロダクティブ・ヘルス/ライツに関する研修を強化する必要がある。
女性が生涯を通して自己の健康を維持・管理するため、思春期、月経時、妊娠・出産期、更年期、高齢期など女性の生涯を通じたメンタルヘルスに関する事業を推進する必要がある。
HIV/エイズや性感染症は、女性の健康に甚大な影響をもたらすものであり、HIV/エイズについては、正しい知識の普及・啓発、医療体制の充実、治療薬の研究開発等の予防から治療までの総合的な対策、性感染症については、正しい知識の普及・浸透、予防、健康診査、相談、治療等の対策の推進を図る必要がある。
女性が主体的に避妊するため、低用量経口避妊薬(ピル)や女性用コンドーム等に関する知識の普及等の支援を行う必要がある。
女性労働者の母性保護及び母性健康管理の徹底を図る。特に、妊娠中及び出産後も継続して働き続ける者が増加していることにかんがみ、これらの女性労働者が引き続きその能力を十分に発揮する機会を確保するための環境を整備することが重要である。また、妊娠又は出産を理由として、雇用管理面で不利益な取扱いを受けることのないよう企業の望ましい雇用管理の在り方やそのための環境整備に向けての方策等について、母性保護条約の改正など国際的な動向も見極めつつ検討を進めるべきである。
女性をめぐる現行の関連法令、関連制度について、リプロダクティブ・ヘルス/ライツを保障するための法的整備を含め、総合的に今後の在り方を検討する必要があるが、その際、リプロダクティブ・ヘルス/ライツのうちのライツの概念については、種々の議論があるため、世論の動向を踏まえた検討が必要である。
(*1)リプロダクティブ・ヘルス/ライツ:1994年にカイロで開催された国際人口・開発会議において提唱された概念。リプロダクティブ・ヘルスは、個人、特に女性の健康の自己決定権を保障する考え方。健康とは、疾病や病弱でないことではなく、身体的、精神的、及び社会的に良好な状態にあることを意味する。リプロダクティブ・ライツは、それをすべての人々の基本的人権として位置付ける理念である。リプロダクティブ・ヘルス/ライツの中心課題には、いつ何人子どもを産むか産まないかを選ぶ自由、安全で満足のいく性生活、安全な妊娠・出産、子どもが健康に生まれ育つことなどが含まれており、また、これらに関連して、思春期や更年期における健康上の問題等生涯を通じての性と生殖に関する課題が幅広く議論されている。
男女共同参画社会基本法の施行から男女共同参画基本計画の策定までの流れ
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執務提要
第1章 男女共同参画社会基本法の施行
男女共同参画社会基本法は、6月15日の衆議院での議決後(第145会国会の会期は6月17日まで)、6月18日の閣 議において公布決定がなされ、6月23日に法律第78号として公布、同法の附則により公布日に施行された。なお、本法には地方公共団体における責務があることなどから、6月23日付けで各都道府県知事宛に「男女共同参画 社会基本法の施行について」周知等を求める文書を発出している
第2章 男女共同参画会議に関する基本法の改正等
男女共同参画社会基本法の男女共同参画審議会に係る規定はその後、「中央省庁等改革のための国の行政組織関 係法律の整備等に関する法律」(平成11年7月16日法律第102号)及び「中央省庁等改革関係法施行法」(平成11年 12月22日法律第160号)により改正され、現在の条文となった。男女共同参画会議は、内閣府に置かれる重要政策に関する会議の一つであり、従来の男女共同参画審議会の機能 に加え、<1>男女共同参画社会の形成の促進に関する施策の実施状況の監視、<2>政府の施策が男女共同参画社会の形 成に及ぼす影響についての調査、<3>必要があると認めるときは、内閣総理大臣及び関係各大臣に意見を述べることがで きるというものとなった。
また、中央省庁等改革の際に内閣府の中に男女共同参画を担当する局が設けられた。
第3章 男女共同参画基本計画の策定
平成11年8月9日、内閣総理大臣は男女共同参画審議会に対して、男女共同参画社会基本法(平成11年法律第78 号)第21条第2項第2号の規定に基づき、「男女共同参画社会の形成については、平成8年7月30日に「男女共同参画 ビジョン」(男女共同参画審議会答申)により21世紀を展望した総合的ビジョンが示され、平成8年12月13日に国内行動 計画である「男女共同参画2000年プラン」(男女共同参画推進本部決定)が決定されたところである。その後の男女共同 参画社会の形成に関連する国内外の様々な状況の変化を考慮の上、今後、政府が基本法に基づく男女共同参画基本 計画を策定していく際の基本的な考え方についてお示しいただきたい。」として、「男女共同参画社会基本法を踏まえた男 女共同参画社会の形成の促進に関する施策の基本的な方向について、貴審議会の意見を求める。」と諮問した。同審議会は、平成12年5月に、「男女共同参画社会の形成の促進に関する施策の基本的な方向に関する論点整理」 を公表し、平成12年9月26日には、内閣総理大臣に「男女共同参画基本計画策定に当たっての基本的な考え方 - 21 世紀の最重要課題 -(答申)」を提出した。
政府は、平成12年7月31日に男女共同参画審議会から出された、「女性に対する暴力に関する基本的方策について (答申)」、平成12年6月に開催された「女性2000年会議」の成果も踏まえて、男女共同参画基本計画(案)を策定し、12 月11日付けで男女共同参画審議会に「男女共同参画基本計画(案)」について意見を求めた。
同審議会は同日付けで「標記計画案は、本審議会が平成12年9月26日に答申した「男女共同参画基本計画策定に当 たっての基本的な考え方」の趣旨に概ね沿うものであり、妥当である。」と答申したが、「なお、本審議会は、政府が標記 計画を推進するに当たって、別紙の点について十分留意することを、強く要望する。」として、以下の要望が出された。
男女共同参画社会の実現は、21世紀の我が国社会のあり方を決定する最重要課題であり、政府においてはこのこ とを強く認識し、男女共同参画社会基本法に基づき初めて定められる男女共同参画基本計画に盛り込まれた施策を、当 審議会答申「男女共同参画基本計画策定に当たっての基本的な考え方」の趣旨を踏まえ、早期に実現していくこと。
個人のライフスタイルの選択に大きな影響を与える税制、社会保障制度等の社会制度については、個人の活動の 選択に中立的な制度となるよう、世帯単位の考え方をもつものを個人単位に改めるなど、制度の検討・見直しに早期に取 り組むこと。
女性に対する暴力は、女性の人権に直接関わる深刻な問題であり、その根絶を目指して、既存の法制度の的確な 実施や各種施策の充実だけでなく、これまでの状況を踏まえ、新たな法制度や方策などを含め、早急に幅広く検討するこ と。
平成13年1月からの中央省庁等改革において、内閣府に男女共同参画会議と男女共同参画局が置かれるなど新 たな推進体制が発足するところであるが、その機能を十分発揮し、男女共同参画社会の形成のための取組を整合性を もって、総合的かつ効率的に推進すること。また、そのためにも、内閣の要であり、男女共同参画会議の議長である内閣 官房長官が男女共同参画担当大臣としてその任に当たることが必要であること。
本計画は基本法に基づく初めての計画として平成12年12月12日に閣議決定された。