週刊金曜日 古川晶子・ライター|2025年9月9日3:04PM
https://www.kinyobi.co.jp/kinyobinews/2025/09/09/gender-188/
現在、政府では2026年度から始まる第6次男女共同参画基本計画の策定に向け、検討を進めている。SRHR(性と生殖に関する健康と権利)の実現に向けて活動する「#なんでないのプロジェクト」は、基本計画にユース(若者)が直面するSRHRに関連する課題を盛り込むよう求め、8月8日、内閣府男女共同参画局の岡田恵子局長に提言書を渡した。
手交後に行なわれた会見で、同プロジェクト代表の福田和子さんは、「計画策定にかかわる専門家会議にユースの委員が少なく、このままでは切実なニーズが見落とされてしまうという懸念から提言を手渡した」と話した。
提言書は、同プロジェクトの「胸アツ会議」という取り組みに全国から10代と20代のユースたち約30人が参加し、約4カ月かけて作成した。内容は、「SRHR」「教育・ジェンダーに基づく暴力」「交差性(インターセクショナリティ)」「人権」「SRHRを守る仕組み」の5分野。性教育で「性交」についての授業を制限する学習指導要領の「はどめ規定」を廃止することや、就職活動時に起きるセクシュアルハラスメントの防止、デジタル性暴力への対応強化、政府から独立した国内人権機構の設立など60項目にのぼる。
「胸アツ会議」の着想は、昨年10月の国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)日本審査を経験したことによる。現地ジュネーブでCEDAW委員に会い、日本の課題をプレゼンした福田さんらは、伝えたことが審査での質問やその後の勧告に活かされたことに力づけられたという。日本でも当事者の声が政策に反映される社会をつくろうという取り組みが「胸アツ会議」だ。6時間にわたるCEDAW審査ビデオを観るなど資料をもとに対話を重ね、提言を作成した。
若者の人生設計に影響
提言書の各項目には、7月29日に政府の専門調査会で示された第6次基本計画骨子案の該当箇所の番号・記号も書き込まれ、基本計画への反映が容易だ。また、CEDAW勧告で2年以内に進捗を報告するよう特に求められた、人工妊娠中絶の配偶者同意要件を廃止することや、緊急避妊薬の処方箋なしでの薬局販売など避妊法へのアクセス改善なども盛り込まれている。これらは現時点では政府骨子案に含まれていない。提言書を受け取った岡田局長は、それぞれが置かれた立場で力を尽くしていこう、と自身の立場も含めて語ったという。手交に参加した栃原磨衣さんは、局長の言葉を振り返って「SRHRに関わる法制度を整えることは行政にしかできない。それは私たちがこれから迎えるライフイベントにおける意思決定に大きな影響を与える」として、今後の政府の動きへの期待を述べた。
先の参院選でも排外主義的な主張をする政党が躍進したように、日本では平等や多様性に対する逆風(バックラッシュ)が強まっている。協力団体として「胸アツ会議」にかかわったTネットの高井ゆと里さんは、「このようなバックラッシュが深刻な環境で、最初に被害を受けるのは、(障害、性別、人種、民族、性的指向などへの差別が組み合わさった)複合的差別を受ける人々」と指摘。今回、多様な背景を持ったユースが集まり、SRHRの課題を自分のこととして提言の作成に取り組んだことを「頼もしい次の世代が現れた」と評価した。
「#なんでないのプロジェクト」は今回の提言書にとどまらず、パブリックコメントやイベントで、問題提起を続けていくという。
(『週刊金曜日』2025年8月29日号)
【タグ】男女共同参画基本計画