リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

すばらしきRCOG

世界中の女性医療を改善するために

昨年、Royal College of Obstetricians and Gynaecologists(RCOG)は英国下院に「ベター・フォー・ウィミン」という報告書を提出しています。

昨年度のRCOG年次報告に、このプロジェクトに対する姿勢がまとめられていたので、少々長くなりますが粗訳してみました。

ベター・フォー・ウィミン
 もう一つ大事な礎石となったのは、カレッジの『ベター・フォー・ウィミン』報告です。この報告書には、少女や女性が医療制度の裂け目からこぼれ落ちてしまわないようにするためのシンプルでコスト効果の高い解決法が具体的に示されています。英国では健康についても社会的にも不平等がはびこっており、その結果、英国では無計画的な妊娠率が高く、劣悪な妊娠ケアの結果、肥満率が高くなるなど様々な問題が生まれています。『ベター・フォー・ウィミン』報告書は、女性たちの生涯の健康にアプローチできる全国的な女性の健康戦略をめざしています。これは、現在および未来の少女たちや女性たちに、より良い健康を保障していくための重要な一歩です。

 私たちはこれまでにないほど女性の健康を政治課題にあげるようになっていますが、持続可能な変化をもたらすためには、誰もが――英国政府、保健省、国立大学、地方自治体、女性たちやそれ以外の多くの人々も――関与し、寄与しなければなりません。私は光栄なことに、保険社会福祉省の女性タスクフォースの共同議長として、過去一年間、女性たちが直面している不平等とどのように取り組むのが最良であるかを重要な人々と議論してきました。

 女性たちの声や個人的な経験は、今もカレッジの活動の中心にあります。女性たちが自ら受けるケアをどのように思っているのかに耳を傾けることは、女性たちに対する医療を改善するばかりかRCOGのすべての部門の活動にも多大な価値と洞察をもたらします。

 カレッジとして、私は世界中のすべての女性たちの声を増幅していく義務を負っていますが、とりわけ自分で声をあげられない女性や少女たちの側に立ち、代わりに声をあげていくことが重要です。RCOGの女性のグローバル・ヘルス・センターは、低開発国でのセクシャル&リプロダクティブ・ヘルスを改善していくというRCOGのミッションに焦点を合わせて、緊急分娩介助のスキル・コースを開始したり、最良の安全な中絶と避妊を届けたりしています。私たちは世界各地においてアドボカシーの先鋒であり続けるべきで、各国政府に国連持続的開発目標のナンバー5「女性や少女に対する差別を終わらせる」を実現するよう求め続けていかなければなりません。

 この報告書には、私たちはイギリスの女性たちの健康のために「行くべき」場所になることと、女性の健康とリプロダクティブ・ヘルスケアについて世界のリーダーになるという二つの野望を実現しつつあることが示されているのです。

Consolidated Annual Report and Accounts for the period ended 30 June 2019

このところずっと調べてきて、今まで抱いていたRCOGのイメージが一変しました。「王立」とあるので、威厳のありそうな伯父さま方がずらりと並んでいるのかとなんとなく想像していたら、それは私自身のジェンダーの偏見か、あるいは日本の産婦人科医会の投影だったことがよく分かりました。

RCOGでは、男性医師もちらほら交じってはいるものの、主な役職には女性が多く、「カレッジで行われるすべての中心に女性がいることを確実にする」ことが目的の「ウィミンズ・ネットワーク」と呼ばれる女性オンリーのお目付け役の組織まであるのです。

なお、RCOGは試験を受けてメンバーシップを獲得する(MRCOGという称号を名乗れるようになる)慈善団体で、それ自体は学校ではないものの医師に研修を施したり、医学校に産婦人科医療教育のモデルプログラムを提供したりしているようです。世界中に1万6000人ほどのメンバーがいて、その半分が英国外にいるそうです。

あっちもこっちも訳したくなるほど、まさに女性のリプロダクティブ・ヘルスケアの鑑です。

忘備録として「ベター・フォー・ウィミン」発行時のニュースを貼り付けておきます。
RCOG launches 'Better for Women' report

「帰国させられてしまう」乳児遺棄あいつぐ、技能実習生を追いつめる根深い課題

ベトナム人実習生が堕胎疑惑と死体遺棄容疑で逮捕

弁護士ドットコムで5/19(火) に配信された記事です。

「妊娠した外国人技能実習生は、帰国させられる」。それは本当なのだろうか。

岡山県津山市で住宅団地の浄化槽から乳児の遺体が見つかった事件で、岡山県警は5月7日、ベトナム国籍の女性技能実習生(死体遺棄容疑で4月16日に逮捕、処分保留で釈放)を堕胎容疑で再逮捕した。

堕胎薬を飲み、4~5カ月ほどの胎児を堕胎した疑いがある。報道によれば、警察の調べに「技能実習生の身分で妊娠したとなればベトナムに帰らされてしまうことから、堕胎を決断した」と話しているという。

専門家は「妊娠しても帰国する必要はない。堕胎は最悪の結果。実習生はなんとかして支援団体に助けを求めてほしい」と話す。

●妊娠した技能実習生の死体遺棄事件は最近でも

最近でも、ベトナム人の女性が、実習先の福岡県福津市の会社内で男児を死産し、遺棄したとして2019年4月に逮捕されている(朝日新聞デジタル、2019年4月18日)。

また、愛媛県の製紙工場で働く予定だったベトナム人の女性が、妊娠を理由として研修施設から「中絶か帰国か」を迫られたことも報じられた(朝日新聞デジタル、2018年12月2日)。

2013年7月には、富山地裁が、中国人実習生の妊娠を理由とした解雇を無効と認めた。それでも、いまだに痛ましい事件が繰り返されている。

出入国在留管理庁(入国管理庁)、技能実習機構は

技能実習を中止して帰国する場合、受入先の企業は監理団体に通知をし、監理団体が外国人技能実習機構(OTIT)に届け出ることになっている。

女性技能実習生の妊娠を理由とした解雇や帰国の件数について機構に問い合わせたが、「公表していない」とのこと。

2019年3月、入管や機構は連名で、監理団体及び実習実施者に対して「妊娠等を理由とした技能実習生に対する不利益取扱いについて」とする文書を通達した。実習生にも日本の労働関係法令が適用されるという通達だ。

技能実習生に対して、妊娠や出産を理由とした解雇や帰国の強制などの不利益な取り扱いをした場合については、受け入れ企業や監理団体に対して厳正に対応することになります」(入管)

ただし、この通達が当の技能実習生たちにまで届いているか疑問は残る。

●実習生の支援者が語る「問題の根深さ」

特定非営利活動法人 移住者と連帯するネットワーク(移住連)」事務局次長の安藤真起子さんはこう話す。

「2020年1月更新の技能実習手帳(多言語で発行)に、通達で示された内容が載りました。それはよかったと思ったのですが、このような事件が再度起きたことで、問題の根深さを痛感しています」

安藤さんによれば、先の「中絶か強制帰国か」を迫られたベトナム人女性と送り出し機関が結んだ契約書には、「強制送還になる禁止事項」として「窃盗」「盗品の使用・販売」「慢性病、エイズになること」などのほかに、「妊娠」という記載もあったそうだ。

また、昨年5月、横浜地裁川崎支部は、出産した男児を他人の住宅の敷地に放置したとして、中国人の技能実習生の保護責任者遺棄罪を認めて懲役1年6月(執行猶予4年)の判決を言い渡した。

この女性が来日前に送り出し機関と結んだ契約書には、実習中に問題が起きた場合でも、 日本の労働組合や社会的な活動をしている団体、実習先に相談することを禁じる内容が示されていたほか、

「本人都合で実習継続できなくなった場合の損害賠償請求および、保証金含む渡航前費用(約60万円)を返還しない」などの取り決めもあった。

●保証金制度が実習生を「人質」にする

「日本で最低賃金ギリギリの給与で生活する実習生たちにとって、保証金が戻されないことは大きな痛手。来日前のガイダンスでは、妊娠してはいけないと説明を受けます。『来日前の健康診断で妊娠していないかチェックされた』と打ち明けられたこともあります」

「保証金の徴取は日本の技能実習制度で禁止されており、機構も管理に努めているのかもしれませんが、送り出し側での契約の条件などはコントロールしきれません」

とはいえ、送り出し側は送り先の需要に応じたビジネスを遂行しているだけとも考えられる。「現地にも問題がありますが、それは日本側が実習生を安くて使い勝手のよい労働力と見ているからです」

対症療法的な制度の改善では、問題解決はできない。安藤さんが「根深い問題」と言った理由がここにある。

●弁護士は「なんとかしてあきらめずに助けを求めてください」

「妊娠しても、解雇や帰国は許されない。堕胎する必要もない」と語気を強めるのは、外国人の労働問題に詳しい指宿昭一弁護士だ。

今回の岡山県津山市の事件について「彼女のしたことは肯定できないが、彼女は同時に犠牲者でもあると思う。追い詰めてしまった関係機関や技能実習制度の問題を強く感じる」と述べる。

「制度を守る立場の技能実習機構は、妊娠で解雇される実態や堕胎の実態を正確に把握する気や、数字を発表する気がないのではないか。『実習生は黙って働け、妊娠して出産する実習生は想定外だから帰国しろ』。そんな意識が法務省にも受け入れ先の企業にもあると思う」

誰にも相談できずに困っている技能実習生に向けて指宿弁護士は「なんとかネットで調べるなりして、どこかに助けを求めてください」とメッセージをおくる。

「実習生は奴隷でも機械でもない。子どもを産みながら働き続ける権利がある。意に反した堕胎をしないで、支援する労働組合NGOや宗教関係施設に相談、場合によっては駆け込んでください。子どもを捨てたり、堕胎したりするのは最悪の選択肢。機構が助けてくれないとしても諦めないでください」

エトセトラ VOL.3 発売!

特集 私の 私による 私のための身体

長田杏奈責任編集 etc.books

本日発売!

北原みのり「私の私による私のためのプレジャー」
早乙女智子「産婦人科医が語るマイボディ・マイチョイス」
福田和子「避妊の権利、なんでないの」
塚原久美「妊娠するからだとガラパゴス中絶」
齋藤有紀子「堕胎罪と母体保護法
大橋由香子 新連載「Who is she? 第1回中絶の罪に問われた彼女」etc.......

etcbooks.co.jp

包括的性教育

自分の権利、相手の権利、関係性のありかた/つくりかたを知った上で性を学ぶ

イギリスではこの9月から新しい「関係性・性教育(relationships sex education =RSE)」が学校教育に取り入れられることになりました。英国政府のサイトに詳しいガイダンスがあります。
www.gov.uk

ガイドラインの中に入ると、Sexwise.website*1で関係性やリプロダクティブ・ヘルスの詳しい情報が得られるとしてリンクが貼ってあり、クリックすると「セックスについて語ろう!」「あなたに避妊、妊娠、性感染症と快楽(プレジャー)について誠実なアドバイスをするために私たちはここにいます」とのメッセージと、横には男女のカップル、男性同士のカップル、傘の向こうに隠れた女性2人らしき姿等々の写真が添えられています。

下の方にカーソルを動かすと「助けを見つけてね(Find help with)」→そして6つのエリアがでてきます。

このうち「計画外の妊娠」をクリックすると出て来るのが、「妊娠、どうしていいか分からない?」「中絶:あなたの質問に答えます」「中絶とCOVID-19」の3つのコーナー。2番目の「中絶」のコーナーで「もっと読む」を選ぶと、「中絶って合法?」から「中絶後、いつから避妊を始めればいいの?」まで、ずら~っと並んだ21もの質問があり*2、それぞれクリックすると回答が出て来るしくみ。22個目は「さらなる情報」となっていて、頒布されている詳しい小冊子を紹介するページが開きます。

とにかく内容が盛りだくさんで、しかも、すでにCOVID-19に関する情報が掲載されているように、科学的でアップトゥーデートであることが徹底されているのです。女性団体とかではなくて、政府がやっているサイトですよ!

日本では残念ながら、文部科学省厚生労働省もきちんとした性の情報を出していないし、このようにフットワーク軽く、変化に対応できていません……中絶薬については間違った情報を20年近くも晒したままであるように、特にリプロについては動きが鈍重……。

日本では、最近、ピルコンさんが「ピルコンが取り組む社会課題」として包括的性教育を紹介する活動を展開しています。ユニークな動画を翻訳して紹介するページもありますので、ぜひご注目ください。
pilcon.org

*1:「賢くセックスしよう」という名もすごい!

*2:なんで費用に関する疑問がないのだろう?と思ったんだけど、イギリスでは中絶に保健がきくから無料だし、そのこと自体、すでに子どもにも「常識」として知られているのだろうなと気が付いた。

英:『女性たちのためによりよく(Better for Women)』

産婦人科医の問題意識から始まった画期的なBCOG報告書

2020年4月22日のブログの続きです。

2019年11月29日のBCOGのウェブサイトで『ベター・フォー・ウィミン』の報告書発行が報告されています。冒頭には、この調査プロジェクトを実行するにあたった産婦人科医たちの問題意識が記されています。

英国の女性たちは、エッセンシャルな(不可欠な)ヘルスケア・サービスへの幅広い障害に直面している。

国内3000人の女性を対象とした調査を行い、多くの女性が避妊や中絶ケア、閉経への支援を初めとする基本的なヘルスケア・サービスにアクセスしようともがいていることが分かった。RCOGは、一ヶ所で一度に女性にとって必要なヘルスケアを提供できるワンストップ女性のヘルスクリニックを設置するよう求めている。RCOGは、少女や女性が生涯にわたって健康とウェルビーイングを向上できるようにするために、画期的な報告書『ベター・フォー・ウィミン』を本日下院に提出した。

前書きでは「女性」と自認していない人でも産婦人科のサービスが必要になる場合があることを明記しており、人権意識の高さのほどが伺われます。

この文書で我々は女性や女性の健康といった言葉を用います。しかしながら、婦人科系の健康やリプロダクティブ・ウェルビーイングを維持するために女性の健康サービスやリプロダクティブ・サービスを必要とする人の中には、女性としての自己自認をもたない人々もいることを確認しておくのは重要です。そのため、婦人科および参加のサービスとケアの提供は、出生時に割り振られた性と一致しないジェンダーアイデンティティをもつ一人一人のニーズに合わせて適切でインクルーシブで思いやりをもって行わねばなりません。

この報告書では中絶薬の自宅服用に関して次のような提言も見られます。

提言11:すべての女性は容易にかつ罰や嫌がらせを恐れることなく中絶ケアにアクセスできるべきである。

中略……

保健社会保障省(DHSC)は、1967年中絶法における「自宅」の定義を見直し、拡大すべきである。さらにDHSCは、女性たちが妊娠初期の薬物中絶を実行するために使われる第一薬ミフェプリストンの自宅服用を許可することを検討すべきである。

こうした医師たちの提言があったからこその、COVID-19拡大下での「自宅中絶の許可」だったのですね。