リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

産科医、55%が定数割れ 総合母子医療センター

共同通信社で行われた緊急調査の結果が本日付「h:47news」に載っていました。

 緊急処置の必要な妊婦や赤ちゃんを受け入れる全国の「総合周産期母子医療センター」(計75施設)のうち、共同通信の緊急調査に回答した60施設中55%は必要な産科の常勤医数を確保できずに定数割れに陥っていることが29日、分かった。

 当直の産科医が1人態勢のセンターが半数を占め、全体の90%以上が産科医確保に「苦労している」とした。

 センターに指定されている東京都立墨東病院など8病院に受け入れを断られた妊婦の死亡判明から1週間。母子の命を救う「最後のとりで」ともいえるセンターの中には、東京以外でも綱渡り診療を余儀なくされているところが少なくない現状が浮かんだ。

 調査は23日から全センターを対象に質問用紙を配布して実施。匿名を条件に医師数や診療上の不安を尋ね、60施設(回答率80%)からファクスで回答を得た。

 定数は各病院が望ましいと考える医師数を独自に定めるもので、それより産科の常勤医数が下回っているのは33施設(55%)。うち4施設は定数の半分以下だった。定数を満たすのは17施設(28%)で、残る10施設は定数なし(9)と無回答(1)。
2008/10/29 21:13 【共同通信

未来日記になってしまうけど、翌朝うちに届いた北陸中日新聞の10月30日付け報道(朝刊28面)から、抜粋で一部示す。

 定数は各病院が望ましいと考える医師数を独自に定めるもので、それより参加の常勤医数が下回っているのは33施設(55%)。うち4施設は定数の半分以下だった。定数を満たすのは17施設(28%)で、残る10施設は定数なし(9)と無回答(1)。
 国はセンターについて原則「24時間体制で複数の産科医が乗務することが望ましい」としているが、平日又は土日の当直が一人体制で、緊急時は別の医師を呼び出しているのは30施設(50%)。ほかは二人から三人の医師が当直していた。一人当直でも地方の施設からは「待機の医師が十分程度で駆けつけられるので問題ない」などの意見は多かった。
 産科医の確保に36施設が「非常に苦労している」とし、「やや苦労している」(19)も合わせると「苦労している」は92%。

あとはよもやま話。余裕もないので、書き散らしになりますが……。

先日来の中絶件数減少の問題とも関連するが、戦後以来続いてい産婦人科医の「中絶業務独占」状態を見直すときがきているのではないだろうか。

WHOが安全性と確実性の面で推奨している初期中絶の方法は現在2つ――ミフェプリストン(RU486)と手動吸引(MA)である。前者は子宮外妊娠の確認と既往症のチェックさえすれば(これも助産師は基本的に行えるはずだし、不安なケースのみ医師にみてもらえばいい)、あとはパラメディカル(日本の現状であれば助産師)が行いうるし、ミフェプリストンに至っては、なにも多忙で医師不足産婦人科医が対応しなくても行えるものである。(他の国では、医師であればあるいは専門のパラメディカルであれば投与化としているところもあるようだ。)

とりあえず、子宮外妊娠がないことをチェックできれば、ミフェプリストンを使えるという場所が、産婦人科以外になってもいいんじゃないだろうか? お産のほうでも、かつては「正常産は助産所で、異常産は病院で」という棲み分けができていたが、避妊についても「難しいケースは病院で、かるい初期中絶はコメディカルで」という制度が作られてしかるべきだと思う。

そうすることで、産科医が対応せねばならない仕事はかなり減るはずである。

一方、ネットを使った中絶薬の入手実態が分からず、いつか医療事故が起きるのではないかと、心配でならない。(特に、まとめ買いできるサイトが販売対象にしているのは男性のように思われる。つまり、「妊娠に困った女性が飛びつく」というよりも、何度「クスリで中絶」させても自分の身体が痛むわけではない男性が(前にサバさんが教えてくれたAV業界などを筆頭に)、そのクスリの所持を理由に強制的に無避妊のセックスを行っているのではないかという恐れが感じられるためである。今のところまだ、ミフェの連続使用で、毎回の月経をすべて処置して健康に影響がないかどうかは確認されていない。日本国内できちんと解禁して、医師の元で女性が投与を受けられるようになれば、少なくともそうした問題は減るだろうと思うのだけど……。

私がもっと若くって、妊娠の恐れに気づいたら、今ならきっとこうしていただろう。まず、「妊娠かも」と気づいたときに市販の「妊娠検査薬」を試しただろう。続いて産婦人科に受診して子宮外妊娠の有無、他の既往症の問題がないことを確認する……で、どうにかしてクスリをゲットするだろう……たぶん闇ルートから。だって通常の産婦人科医が行う中絶より何倍も(あるいは一桁)安いからだ。

若い人にとっては、コストの問題はとても大きい。それほどにはお金に困っているわけでもなくても、受診料を合わせると3ヶ月で1万円を超えるピルは高いと感じたし、しょっちゅう病院に行かなければならないのも無理だった。(しかも、産科医不足のためか、どこに行っても長時間待たされる。とてもじゃないが、「手軽に入手」などできない。

そもそも妊娠経験がなかったり未産婦である女性には(特に若ければ若いほど)「産婦人科そのもの」に足を向けにくい。仮に足を向けたとしても、はっきりいって高い。良心的なところでも初期中絶1回数万円はするが、ネットでは数分の一から10分の1で購入できる。

ただし、でもミフェプリストン(RU486 のむ中絶薬)や緊急避妊薬セット(EC)を常用することの健康上のリスクは、まだ確立されていないため、何回も続けるのは駄目。となると、マーベロンを初めとする避妊セットを一緒に買うんじゃないかな……なにしろ考えようによってはコンドームより安いのだから。

で、はっきり言えば、このところの中絶率減少の多くが、ネットを使ったRU486避妊薬の購入と、それによって海外からECや避妊ピルを購入するヒトが激増したことによるだろうと、わたしは見ている。北村先生は、病院の高くて面倒な手続きを受けて国内でピルを買った人と中絶減少率を比べているけど、若年層は(私みたいにお金がなければ中年層でも)病院に通って避妊ピルを購入するという手段は、よっぽど金銭的・時間的に余裕がある一部か、あるいは副効用でよほど何かいいことがある特殊な事情のヒト意外は、使わないと思う。安くても一ヵ月3000円プラス診察費(+検査費)がかかる日本のピルに対し、その半額以下で変えるネットショッピングが魅力であるのは当然です。いくら厚労省が「麻薬対策科」の規制対象に入れることでミフェプリストンを危険なクスリに見かけようとしたって、エヴィデンスト・ベースト・メディシンを追及するなら、今のところ、ミフェほど安全な中絶方法がないというのも、とりあえずは嘘ではないようなのだし。

でも、これでいいとは、わたしは思っていない。RU486は基本的に医師の(あるいは助産師の)子宮内妊娠を確定したら、その処置は(今後拡充する)専門助産師の仕事にしていったらよいのではないかと思う。はっきり言って、もはや「掻爬」による危険な中絶を続けていくことは、かえって問題であろう。

なお、RU486は単に「手軽に」終わる中絶ではない。その逆である。大量出血が副作用などと書かれているのは実態を知らされないままこの手法を受けた人の間違い。実際には、腹痛とともに大量出血するし、受胎産物も目にすることになる。女性は、基本的に痛みや経血および受胎産物の処置を自分で行うことになる。そのために罪悪感や哀れみなどのネガティブな重いもあるが、一方で、プライバシーを確保できるし、自らの行ったことに対する反省と受容の経験にもなる。苦しみながら受胎産物を排出する彼女を支えることで、恋人との絆が増す可能性があるのは、ある種、お産と似ているかもしれない。(私は“お父さん”に赤ちゃん誕生の最後の瞬間だけを見せる単なるお産の「立ち会い」には反対しているが、苦しい陣痛の最中から付き添いっきりで一緒に生むようなカップル分娩には賛成しているし、実行してもいる。)ミフェの第二薬を自宅でのむことで、排出を自宅で迎えられる方法というのは、「その時」をどう迎えるかを自らの裁量権で決められる。ミフェで女性が求めているのは「手軽に」「楽に」中絶を終わらせることだというよりも、むしろ自分の関与を増やし「いろいろ面倒」だけど「自分が中絶をするのだ」という自覚を持てる(それは罪悪感をある程度相殺するはずである)中絶の形態なのである。中絶における自己コントロールの増大。これは……自宅出産や助産所での出産で求められているものに近似しているように思われる。

かつて、1970年頃に日本のウーマン・リブは中絶ピルを拒絶した。実際、その頃の中絶ピルはあまりにも高容量で副作用の強いものだった。だが欧米のフェミニストたちは副作用が強いからやめるのではなく、じゃあ、副作用を減らしてよと要求し、結局、それは実現した。現代の「クスリ」に対する日本人の抵抗感は、「ピルは男や製薬会社にのまされるもの!」だとして反対して1970年代の女性運動の時代とは反対」の時期とはかなり状況が違っているように思う。第一に、70年代に反対していた副作用の多い「高容量・中容量」ピルはもはや使われていない。何よりも延々と続いているサプリブーム。わたし自身も、毎朝、毎夕、何かしらのクスリをのむことには慣れっこになっている。時代は変わる。変わっていないのは、第2次世界大戦時に、その時の国の都合、不充分な医療の体制、そして何よりも何も知らされず、女が口出しするなんて「はしたない」と思われていた時期に作られた制度が半世紀以上も使われている。

誤字がありそうだけど、後で直すね。今日は時間切れ。