リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

流産と不育症

今朝の北陸中日新聞のトップに妊娠女性の41%が流産経験 「不育症」は8万人 という記事に目を引かれました。ネットで調べたら、共同通信の配信記事らしく、こちらのほうが内容的に若干詳しかったため、以下では通信社の記事のほうを紹介する。

 妊娠したことがある女性の41%は流産の経験があり、流産や死産を繰り返して出産に至らない「不育症」の患者は年間約8万人いるとの研究結果を、厚生労働省研究班が2日までにまとめた。

 名古屋市立大の杉浦真弓教授(産婦人科)と鈴木貞夫講師(公衆衛生学)らが、一般の女性を対象にしたアンケートを基に計算した。産婦人科を受診した人などに偏らず、不育症の発生に関して行われた調査は初。

 杉浦教授は「流産は一般に思われているより頻繁に起きている。不育症の患者のうち多くは出産できる可能性があるので、積極的に検査や治療を受けてほしい」と話している。

 教授らは、2007年2月からの1年間に、愛知県岡崎市で健康診断を受けた35〜79歳の女性のうち503人から回答を得た。妊娠経験がある458人中、流産したことがあったのは190人(41・5%)。2回以上で「不育症」とみられるのは28人(6・1%)、3回以上の「習慣流産」は7人(1・5%)いた。

 国内の年間出生数は約110万人で、一般的な流産率は15%とされ、研究班は年間妊娠数を約129万人と推定、不育症患者は約7万9千人と算出した。

 杉浦教授によると、流産の大半は、自然現象として一定の割合で起きる胎児の染色体異常が原因。通常、流産時に胎児の検査までしないため「原因不明」とされることが多いが、次回以降の妊娠で出産できる可能性がある。抗リン脂質抗体症候群という、胎盤血栓をつくる自己抗体の異常が原因なら、薬でコントロールできるという。

 杉浦教授は「流産を繰り返すと精神的にも疲れ、あきらめてしまう人も多いが、原因が分かれば次の妊娠に臨む気持ちが持てる」と指摘。ただ、一部の検査や薬は保険の対象外で自己負担になるといった問題がある。
2009/08/02 15:43 【共同通信

いろいろと気になるところのある記事だ。

まず41%というのは、その後に書いてある「一般的な流産率 15%」とは分母が異なることに注意。41%というのは経験した人の割合であって、1回の妊娠に対する比率ではないので、医学的に確認された1回の妊娠に対する流産の確率ではないということに注意が必要である。つまり、今、妊娠している10人に4人が流産するという意味だと誤解してはならない。

また、一般女性に対するアンケートが元であるため、信憑性が疑わしい。医学的には流産ではなく早産にあたるものも含まれている可能性もあるし、本当は妊娠していなかったのに当人が「流れた」と思い込んでいる可能性もある。さらに、調査対象者の年齢は比較的高く、とりわけ対象者中の高年齢者は、人工妊娠中絶の経験率が非常に高い年齢層であるということにも注意が必要つまり、現在、妊娠するような年齢の女性たち(現時点で「不育症」を心配する必要のある人々)とは、そもそものリプロダクティヴ・ヘルスのありようが異なる人々が多数を占めているという点も考慮する必要がありそうだ。

さらに、こうした報道を元に拙速な中絶批判に走るのは間違っていると思う。かつての技術的に未熟だった外科的中絶は、習慣性流産の原因になったと言われているが、最近の、特に初期に安全な方法で正しく行われた中絶の場合は必ずしも習慣性流産を引きおこしはしない。

最後に「不育症」という言葉にも注意が必要だ。これはあたかも「女性の側」に欠陥があるかのようにレッテル貼りをする言葉だが、妊娠が持続しないのは必ずしも女性側のみの問題だとはいえない。胎児自体に欠陥があったり、環境的な要因が影響していたりする可能性を見ずに、すべて「女性のせい」とみなして、「治療の対象」にしたてあげるのは間違いだろう。

望んでいる妊娠が継続しない辛さは、多くの女性が知っている。自分を責める女性も多い。だけど、それは決して女性個人の「問題」ではないということを、あえて強調しておきたい。

貴女が悪いわけじゃないんだよ……それは、流産だけではなく、多くの中絶もそうなのだけど。

むしろ女性のみを悪者にしたてあげ、他の要因を放置していることこそ、社会問題なのではないだろうか。