リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

性と健康を考える女性専門家の会シンポジウム

開催者のみなさま,おかげさまで医療関係の方々に日本の中絶問題について聞いていただけて,とても嬉しかったです! と,こんな場ですが,ひとことお礼を書かせてください。

さて,今日の私の発表内容をざくっとふりかえっておきます。

前段は現状です。

  • 日本では初期中絶が主であり,その方法として「掻把(D&C)」が今も多用されている。
  • 世界で現在主流の初期中絶方法は,「吸引(VA)」とミフェプリストンとミソプロストールという薬を使った方法(外科手術を行わず,薬で治療するため「内科的中絶=Medical Abortion」と言われる。略MA)
  • 日本でも最近「吸引(VA)」を使う医師も増えているが,たいてい古い道具(金属管)が使われており,海外の安全なプラスチック製器具などが導入されていない。(1970年前後,海外でVAが広まったのは,安全なプラスチック製器具が考案されたため。)
  • ミフェプリストン&ミソプロストール」はエッセンシャル・メディシンのリストにも掲載されている安全で基本的な医薬品。
  • 日本にはまだミフェプリストンが導入されていない。それどころか,後述する通り,個人輸入を抑制しようとする動きが見られる。
  • 2012年のWHOの『安全な中絶 第2版』では,D&Cは「廃れた方法」とされ,吸引か中絶薬で置き換えるべきだとされている。

海外でエヴィデンスに基づき中絶技術が進化してきた過程については,この1月にバンコクで開かれた国際会議2nd IWACで講演を伺ったDr. Grimesの発表資料を元に説明しました。ドクターの発表資料はこちらに公開されています。

後半は「中絶薬」が日本でいかに誤解されているかを,インターネット検索結果の分析で示しました。

  • ヒットした10件中3件がおそらく中国のネット販売業者。うち2件は精力剤や媚薬,ED治療薬などと共に販売されている(怪しいサイト)。なお,中国製中絶薬の失敗率は3割との報告もある。欧米の正規の薬を使った通常の失敗率は数パーセントであり,その意味でも,こうしたサイトを通じて中絶薬を購入するのは望ましくない。
  • 10件中正しい情報提供をしていたサイトは1件のみ(ただし情報は古い)。
  • 残り6件のうち1件は厚生労働省の注意喚起で,他の4件はその注意喚起を引用して中絶薬の危険性を広めているサイト。
  • しかも,そのうち1件は今年国民生活センターが発行した内容で,そこでは中絶薬の危険性のみならず,「堕胎罪に問われるおそれ」と違法性まで強調されている。
  • 残り1件は「知恵袋」のQ&Aで「中絶薬による中絶を考えているが,安全か?」との質問に,「まれに死んでしまうこともある」との回答で,上記の危険性を知らせる情報を鵜呑みにしたものだと思われる。
  • ところが,厚生省の注意喚起が根拠とする米FDA情報は2004年段階のものであり,すでにその警告は撤回されている。
  • 「中絶薬は危険」という作られたイメージが流布している。
  • 国際的な女性ボランティア団体が日本女性の救済に乗り出しているが,堕胎罪の懸念は残る。
  • 中絶薬を正式に認可して,医療を通じて安全に使えるようにすべき。

インターネットを通じて,主に中国製のジェネリック薬を怪しいサイトから買うのはやめましょう。その代り,日本でこの薬を安全に使えるように,お医者さんに働きかけていきましょう。