リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

子どもを持つか持たないか、いつ持つか、何人持つかを決める自由

一般社団法人 日本国際保健医療学会のサイトに「国際保健用語集」というのがあるのを見つけました。これは使えそうです。その中で“Reproductive Health and Rights"は「アンド」も「/」もなく,ただ「・」でつなげて「リプロダクティブ・ヘルス・ライツ」となってました。

何にせよ,基本は当事者が決めるということ。そこを落としては始まりません。また,日本はここに示された情報や手段へのアクセスも不十分であることは,まだまだ声を上げていかなければならないと思います。

ジェンダーの授業で避妊や中絶を話題にすると,学生たちはたいてい,日本人の中絶は多いとか,ちゃんと避妊しないやつがおかしい(避妊しないのは少数派)などと思ってるんですよね。

だけど実際には,世界的に見れば日本人の中絶率は最低と言っていいほど低い方であり,なのにその一方で,避妊率は先進国として恥ずかしいほど低いという事実が知られていない。一般的に「医療先進国」である日本で暮らす自分たちが,「世界最先端」の中絶技術も避妊技術も選択肢として与えられていない,日本は避妊についても中絶についても「世界の後進国」だという事実を知らない,知らさていない,間違った情報によって正しい認識が妨げられている。

これからまだまだ妊娠する可能性のある世代にこそ,きちんと日本が避妊についても中絶についてもガラパゴスであること,より良い技術が世界にはあって,それは倫理的な苦悩も減らすようになっていることを,伝えていかなくちゃ,と思う。

「望まない妊娠」をして苦しんでいる人,「中絶という選択」に嘆き悲しんでいる人に言いたい。それはあなただけのせいじゃない。日本という国が間違った情報しか与えず,十分な選択権を与えてくれていないことが大きく影響しているのだということを知っていてほしい。

(英語訳 : Reproductive Health and Rights)

性と生殖に関する健康・権利と訳される。リプロダクティブ・ヘルスとは、人間の生殖システムおよびその機能と活動過程のすべての側面において、単に疾病、障害がないというばかりでなく、身体的、精神的、社会的に完全に良好な状態にあることを指す。したがって、リプロダクティブ・ヘルスは、人々が安全で満ち足りた性生活を営むことができ、生殖能力を持ち、子どもを持つか持たないか、いつ持つか、何人持つかを決める自由をもつことを意味する。1994年、カイロ国際人口・開発会議で採択された文章に基づいている。

生殖年齢にある男女のみならず、思春期以後、生涯にわたる性と生殖に関する健康を意味し、子どもを持たないライフスタイルを選択する人々を含めた、すべての個人に保障されるべき健康概念である。具体的には、思春期保健、生殖年齢にあるカップルを対象とする家族計画と母子保健、人工妊娠中絶、妊産婦の健康、HIV/エイズを含む性感染症不妊ジェンダーに基づく暴力等を含む。

リプロダクティブ・ライツとは、性に関する健康を享受する権利である。具体的には、すべてのカップルと個人が、自分たちの子どもの数、出産間隔、出産する時期を自由にかつ責任をもって決定でき、そのための情報と手段を得ることができるという権利。また、差別、強制、暴力を受けることなく、生殖に関する決定を行える権利も含まれる。さらに、女性が安全に妊娠・出産を享受でき、またカップルが健康な子どもを持てる最善の機会を得られるよう適切なヘルスケア・サービスを利用できる権利が含まれる。(小原ひろみ)

ただし残念ながら,リンクが貼ってあった「JICA 開発課題に対する効果的アプローチ リプロダグティブヘルス」のページはすでになくなっていました。2004年の報告書は,こちらで読むことができるようです。

ちょっと内容を覗いてみたんですが,「望まない妊娠の減少は、人工妊娠中絶を回避し、妊産婦の健康を保護するためにも重要」とか,「教育面でのジェンダー格差の是正、性暴力の減少、男性の理解の促進、女性の社会参加の促進と経済力の向上は、若年出産や望まない妊娠の減少に貢献するとともに、HIV/エイズなど性感染症の感染防止にもつながっている。」とか,今の日本もお手本にせ〜や!と思うようなことが書いてある。

海外援助はもちろん大切です。でも,その一方で,「周産期死亡率の低下」のみで安心してしまい,国内のリプロダクティブ・ヘルスをより良くしようと真剣に向き合ってこなかったツケが,現在の少子化や妊娠の高齢化による諸問題といった形で噴出してきているのではないか,と思う。