リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

日本の中絶、母体に重い負担 WHOが勧める方法、1割……の間違い

過去ログの再掲です。金属管(カニューレ)を用いている日本の吸引中絶は,WHOが勧める「プラスチック製カニューレを使った吸引」とは別物であるという認識を広めたいと思うためです。

標記タイトルの記事が2012年6月27日付の朝日新聞に掲載されました。

日本で行われている人工妊娠中絶では、世界保健機関(WHO)が安全と勧めている「吸引法」は1割に過ぎず、事故が比較的起きやすい方法が8割を占めていた。神奈川県立保健福祉大などの調査でわかった。中絶に関連した深刻な事故は、この5年で72件あった。WHOが勧める中絶薬も認可されておらず、日本の女性は体への負担が軽い手法を選びにくい実態が浮かんだ。
 妊娠初期の中絶法には、器具で胎児をかき出す「掻爬(そうは)法」や、金属棒で吸い取る「吸引法」がある。掻爬法は医師の技量が必要で、子宮に穴があいたり、腸を傷つけたりする事故が起きることがある。
 日本学術振興会の研究で同大の杵淵(きねふち)恵美子教授(看護学)らが2010年、中絶手術ができる医師がいる932の医療機関を対象に行い、343施設から回答を得た。この結果、吸引法は11%だけで、掻爬法が35%、掻爬法と吸引法の組み合わせが48%を占めた。

実はこの調査は、金沢大学医学部の打出喜義先生の科研の一環として、上記の杵淵先生と金沢大学の水野真希先生、私の3人で行ったもの。以前、このブログでも速報を書いています。次を参照してください。
やはり掻爬が中心〜日本の中絶方法について初の調査結果(第一報)
初期中絶の方法〜掻爬使用が8割超

この記事の中の説明で、吸引法は「金属棒で吸い取る」と書いてあったことにびっくりし、杵淵先生等に確認したところ、日本では実際、今も金属製カニューレが主流なのだと分かって愕然としました。なぜなら、海外では1970年代にはすっかり使い捨てのプラスチック製カニューレに移行しているからです。その方が安全性が高いことが確認されたからです。

日本の中絶医療は、こんなところでもガラパゴス化しているのですね。

 WHOは03年、安全な中絶方法の手引を発表。吸引法と中絶薬を推奨し、掻爬法は「吸引法や薬が使えない場合のみ使用」とした。欧米でも吸引法が主流で、米疾病対策センターは、掻爬法は吸引法に比べ、重い合併症が2〜3倍起こりやすいとしている。
 中絶薬は正しく使えば、自然流産に近い状態で中絶できる。欧米では認可されているが、日本では発売の見込みはないという。
 中絶手術に関連した事故も相次いでいる。日本産婦人科医会によると、10年は21件報告された。全会員が報告しているわけではないため、実態に比べ少ない。

なぜ日本では発売の見込みがないのか、残念ながら全く説明がありません。取材相手(医会?)がそう答えたのだろうか。

 吸引法が広がらないのは、ベテランの医師が中絶手術を行う例が多く、慣れた手法を変えにくいほか、国内では古くから掻爬法が主流で継承されてきたことも背景にあるようだ。
 同医会の川端正清常務理事は「日本人は手先が器用で、掻爬法でも事故は少ない。本当に吸引法の方が安全なのか、国内ではデータがない」と話す。一方、調査をした杵淵教授は「やむを得ず中絶という選択をした女性にも、より安全な方法を選ぶ権利はある。医療者側の意識改革が必要だ」と話す。(岡崎明子)

次は背景情報ですね。

 〈人工妊娠中絶〉 母体保護法で経済的理由や、母体の健康への影響などを理由に認められている。妊娠22週未満まで可能で、12週以降は死産届が必要になる。1950年代は年間100万件を超えていたが、2010年度は21万件と年々減る傾向にある。厚生労働省研究班が10年に16〜49歳の男女3千人を対象に行った調査では、女性の6、7人に1人が経験していた。

なお産婦人科学会のサイトには「中絶のトラブル」という報告が載っています。参考までに