リプロな日記

日本のアボーション(中絶と流産)にまつわる諸問題を研究しています

韓国で堕胎罪に違憲判決が出るまで

リプロダクティブ・ジャスティス運動の言説と動向

20191214の日記に書いた論文からポイントをまとめておきます。

韓国の中絶の歴史
1953年 刑法(269条と270条)ですべての堕胎を禁止

1960s-2005年 人口抑制策時代
中絶容認 家族計画普及 出生率6.0(1960s)⇒1.6(1990s)

  • 1986 年 母子健康法で一部の中絶を合法化

中絶犯罪化時代 

高齢化社会における低出生率枠組法 違法中絶防止基本計画

  • 2009年 プロライフ医師会

⇒未曾有の反中絶キャンペーン

  • 2010年 妊娠と出産を決める女性の権利ネット―ワーク(フェミニスト、社会公正派、労組、その他先進的集団などが集合)

⇒母子健康法に社会経済条項を入れるかどうかで議論が紛糾⇒堕胎罪を温存してこの条項を入れるのでは、障害を持つ女性や貧しい女性は子を持つべきではないとするなどの従来の偏見を放置することになると論じられた。

  • 2010年 助産婦が中絶実施で堕胎罪に問われ、中絶禁止の是非が争われた。
  • 2012年 最高裁は中絶禁止を合憲とし、「胎児生命は公共の利益」「女性の中絶権は個人の利益」として、「女性の権利は胎児の権利より重要にはなりえない」と判決。

⇒その直後、中絶がうまくいかなかった少女が、搬送先の医者が違法の中絶に関わることを恐れて受け入れを拒んだために死亡する事件が発生。
⇒中絶禁止は女性の命を脅かすとの認識が広まった。

2016-2019年 現在の中絶脱犯罪化運動

  • 2015年 障害をもつ女性のリプロダクティブ・ライツ(RR)の新パラダイムを作る計画グループが、韓国の中絶犯罪化の歴史、言説、文脈(強制堕胎など)の見直しを開始

⇒単に中絶権を得るだけではRRは得られないと認識
⇒中絶の脱犯罪化のための組織化⇒セクシャル&リプロダクティブ・ライツ・フォーラム(ザ・フォーラム)結成
⇒ザ・フォーラムは、韓国政府が歴史的に妊娠した女性の命も胎児の命も保護してこなかったことをあらわにする新たな言説やパラダイムを生み出し、様々なイベントを開き、新聞記事、意見広告、関連書も発行し、2012年の最高裁が採用した女性の権利と胎児の命の二項対立の枠組みが間違いだと主張。
⇒フォーラムが提起した新たな枠組みは、「政府vs.女性」である。政府は歴史的に女性の身体と生殖能力を管理することで、出生率を引き下げたり上げたりしようとしてきたが、いずれの場合も、女性の権利も人間生命も保護してはこなかったと論じた。

  • 2016年 厚生省は医療法を修正し、外科的中絶は「非倫理的」として罰則を強化⇒大衆の怒りに火をつけ、大規模な抗議デモを招く。
  • 2016年10月15日 初の大規模デモ。2日後、フォーラムは記者会見。スローガンは「真の問題は中絶の犯罪化」「中絶が犯罪だというなら、犯罪者は国家だ」。

⇒参加者たちは、「政府はすでにあるリプロダクティブ・インジャスティスを修正し、すべての人のセクシュアル&リプロダクティブ・ライツを守る義務がある。そこには妊娠を終わらせる権利も、婚姻状態や性指向、能力、社会経済的状況を問わず誰でも子どもをもてる権利も含まれる」と指摘した。

  • 2017年 堕胎罪が緊急の課題になるなか、ジョイント・アクション・フォー・リプロダクティブ・ジャスティス(リプロダクティブ・ジャスティスのための合同行動)というあらゆる関連グループを巻き込む一大グループを組織していった。
  • 2017年9月28日国際セーフ・アボーション・デイに公式に立ち上げ。設立式では、若く、ヘテロでシスジェンダーの健常者とされる女性のみならず、年若い少女や、HIV/AIDS患者の女性、障害をもつ女性、クイアやトランスジェンダーの女性、セックス・ワーカーたちも交えて、中絶や出産にまつわる多種多様な物語が語られた。

⇒もうひとつの狙いは、中絶問題に関する歴史的な文脈や交差性*1を明らかにすることで、中絶の脱犯罪化を単なるリプロダクティブ・フリーダムの問題ではなく、社会正義の問題であることを確立することだった。
⇒賛同するグループの輪が広がっていった。

  • 2017年 ジョイント・アクションは本格的な連合となり、韓国のリプロダクティブ・ジャスティスを達成する第一段階として中絶の脱犯罪化を目指すことにした。主な戦略は2つ:1) 中絶脱犯罪化するために最高裁に対する不服申し立て(constitutional appeal)を行う。2) リプロダクティブ・ライツ支持の国民の総意を構築する。
  • 2017年9月 匿名の国民がオンラインで全国規模の中絶脱犯罪化の請願活動を開始したところ、23万人の署名が集まった。毎日1000件の請願が出されている中で、20万人以上の署名が集まったのは韓国初のことだった。

⇒ジョイント・アクションは精力的なロビー活動も開始し、最高裁での協議が始まると、裁判所前で大規模集会でスピークアウトを開き、署名活動を行い、公開フォーラムを開いたばかりか、テレビ討論会にも参加した。
⇒ジョイント・アクションは大衆の関心を引き続けることを目指し、その努力の一環として、2018年7月の国民集会にテレメディシンで自己管理中絶を提供しているWoWの代表レベッカ・ゴンパーツを招き、中絶薬を用いて安全な薬剤中絶を導入することをアピールした。
⇒その直後、ソウル市の光化門広場で中絶禁止に抗議する大規模集会を行い、約5000人と77団体が集まった。
⇒2018年8月8日、ジョイント・アクションはアルゼンチンでの中絶合法化を目指すグループを支援するために、アルゼンチン大使館の前で記者会見を行った。
2018年のセーフ・アボーション・デイには、従来の活動のみならず、世界中からの支援も取り付けることができた。
⇒政府の対応は生ぬるく、国連人権委員会から勧告された堕胎罪の撤廃も否定していたが、2018年3月の人権委員会の定期的審査(UPIレビュー)は中絶権を求める運動側に有利に働いた。

  • 2018年8月に3人の新たな最高裁判事が任命され、堕胎罪への意見判決が下されることが期待されるようになった。

最高裁判決が近づく2019年3月、ジョイント・アクションは大規模の講義活動を行い、政府に対して以下の4つを要求した。

  1. 安全に妊娠を終わらせるために中絶を全面的に合法化すること。

包括的性教育と避妊へのアクセスを拡大すること。
母子健康負の優生学的要素を全面改定すること。
スティグマや差別のないリプロダクティブ・ライツを保障すること。

  • 2019年4月11日 最高裁は、現在の中絶禁止法は憲法違反であるとの判決を下した。

2019/12/17更新

*1:人種、エスニシティ、国家、ジェンダー、階級、セクシュアリティなど、さまざまな差別の軸が組み合わさり、相互に作用することで独特の抑圧が生じること