リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

コロナと中絶 国内動向

新型コロナウイルス感染症流行下の自粛の影響(1)(キイワード:予期せぬ妊娠等-人工妊娠中絶)2021/4/14

総括
1. 世界中でDV等の暴力増加が懸念される中、予期せぬ妊娠等の増加や中絶時期の遅れ等が生じる可能性が予想されたが、日本では5-9月の時期に人工妊娠中絶件数は減少し、また、妊娠件数も減少したことより、予期せぬ妊娠等による中絶が増加したとは言い難い.
2. 自粛の影響等で医療機関受診の遅れに伴う中絶時期の遅れ、中期中絶件数の相対的な増加などが懸念されたが、中期中絶は少なかった. しかし、妊娠22週を超えて妊娠継続した予期せぬ妊娠件数については、この調査では不明である.
3. 中絶件数の減少は、妊娠数の減少を反映した可能性が高い. 避妊行動については不明であるものの、確実な避妊法を選択した結果とは考えづらい.
4. バイアスとして、本人のDVやデートDVなどの認識が低い可能性はあるものの、コロナの影響はDV等の暴力による中絶に結びついていない.
5. コロナの影響として、経済的理由は大きく、経済的支援はより重要と考えられる.
6. 避妊後進国である日本で、年齢や状況に合った適切な避妊行動をとれるような教育・広報・支援を行うことにより、さらに予期せぬ妊娠等を減少させることが期待される.

妊娠中絶 去年5月以降減少 新型コロナによる収入減で中絶も
NHK 2021年4月15日 4時39分

 去年の人工妊娠中絶の件数は、新型コロナウイルスの影響が大きくなった去年5月以降、大幅に減っていたことが、国の研究班の調査で分かりました。一方で、新型コロナウイルスの影響による収入の減少などが理由で中絶を選んだ人もいたことから研究班は「低所得者への支援が必要だ」と指摘しています。

 
 この調査は、日本産婦人科医会の安達知子常務理事らで作る厚生労働省の研究班が行ったもので、全国の合わせて192の医療機関を対象に去年1月から9月までに中絶を行った件数や状況などを詳しく調べました。


 その結果、この期間の中絶件数は前の年の同じ期間と比べて12.8%減っていて、特に新型コロナウイルスによる緊急事態宣言などの影響が大きくなった5月以降は20%以上減った月もあったということです。


 研究班によりますと妊娠自体が減ったことが影響した可能性があるということで、予期せぬ妊娠による中絶が増加する状況は確認されなかったということです。
 一方で、中絶を選んだ理由について調べたところ新型コロナウイルスの影響があったのは全体の7.7%で、主な理由として収入が減少したなどの経済的な影響を挙げた人が多かったということです。
 研究班の代表を務める安達常務理事は、「限定的ではあるが低所得者が出産をためらうなどの影響がみられる。経済的な支援の拡充が必要だ」と話していました。


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妊娠中絶、8%「コロナ影響」 目立つ経済的理由―厚労省研究班
時事通信2021年04月20日13時06分


 昨年10~11月に人工妊娠中絶手術を受けた約2000人のうち、約8%が新型コロナウイルスの影響があったと推定されることが20日、厚生労働省研究班の全国調査で分かった。パートナーの収入減など経済的な理由が多く挙げられた。
26日から民間給与調査 コロナ影響が焦点―人事院

 研究班は昨年10月15日~11月14日に中絶手術を実施した医療機関のうち、178施設で医師らが聞き取った中絶理由などを分析した。
 それによると、手術を受けた1965人のうち、152人(7.7%)がコロナの影響があったと回答。25~29歳が46人で最も多く、20~24歳35人、30~34歳30人と続いた。
 152人に理由を三つまで選んでもらったところ、「パートナーの収入減や失業」(87人)や「自身の収入減や失業」(74人)が目立ち、「妊娠期間中の感染が怖い」(42人)も多かった。外出自粛に伴い増加が懸念された家庭内暴力(DV)による妊娠を理由とした中絶はなかった。
 研究班は「経済力があれば出産を選択できた可能性がある」と分析。「コロナの影響は所得が比較的少ない人などに大きい。相談体制や経済的な支援が必要だ」としている。

「新型コロナウイルス感染症流行下の自粛の影響-予期せぬ妊娠等に関する実態調査と女性の健康に対する適切な支援提供体制構築のための研究」2021/5/15

結果の概要

1. 2020年は前年に比較して、中絶件数は全国的に減少し特に5-7月の減少は著しかった.
2. 中絶した週数は例年と同様に、初期中絶が多く、中期中絶はきわめて少なかった.
3. 中絶選択に対して、「コロナ禍の影響あり」は7.7%と少なかったが、その中では経済的理由を挙げるものが多く、性暴力による中絶に対するコロナ禍の影響は明らかでなかった.
4. 一般国民の10%、不妊施設の11%、不妊患者の20%が第一波の緊急事態宣言による自粛の時期には、不妊治療は不要不急と考えていた.
5. 5-7月の中絶件数減少は妊娠件数の減少を反映し、避妊法の実施や緊急避妊薬の使用が増加したためではなかった.
6. 自粛期間に、性交を持たないカップルは約半数で、性交回数「減少」は「増加」よりも多かった.パートナー間の性暴力の頻度は4%に認め、過半数は不変、減少が増加より多かった.
7. 妊娠継続に恐怖を覚えるものは、健診、届出を躊躇し中絶を考えることなどが起こりうるが、これに対するコロナ禍の脅威は全くなかった.もともとの境界性パーソナリティ傾向や配偶者との不安定な関係が規定していた.
8. ワンストップセンターでは、相談件数はやや増加したものの、新規相談はそれほど増加していなかった. 外出先における性被害は減少し、DVなどがやや増加した可能性はある.
9. 妊娠SOSなどでは、 2020年3~7月の妊娠や養育に関する不安の相談件数が、前年同月と比較し明らかに増加している月もあったが、統計学的有意差を認めなかった.家庭内の加害者の在宅時間の延長により、DVや性虐待の程度・頻度の増悪につながったと思われる事例が認められた.元々暴力や貧困が存在していたものがコロナの影響で、相談につながった可能性がある.