リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

全国の「都道府県等における妊婦の方々への 新型コロナウイルスに関する相談窓口」への調査 報告書

新型コロナ感染拡大に伴う妊産婦や母親の支援の不安と支援の実態

1)従来受けている相談内容
メンタルヘルス」(69.6%),「思春期」(69.6%)が最も高率であった(図 83)。窓口組織別では,「妊娠中絶」において,職能団体の相談窓口が有意に高率であった(図 84)。「性感染症」は行政の相談窓口が有意に高率であった。……


2)新型コロナウイルス感染拡大に伴い,増加している相談内容
メンタルヘルス」が 22.6%と最も高率であり,「望まない妊娠」(11.3%),「若年妊娠」(6.5%),「妊娠中絶」(5.7%)と続いた(図 85)。窓口組織別では,「望まない妊娠」「妊娠中絶」において,職能団体の相談窓口が有意に高率であった(図 86)。感染状況別では,「望まない妊娠」「若年妊娠」「妊娠中絶」「不妊」において感染拡大注意都道府県が有意に高率であった(図 87)。「メンタルヘルス」「緊急避妊」「児への心理的虐待」においても有意に高率である傾向が見られた。

 今回の調査では,増加している相談内容としては,「メンタルヘルス」との回答が最も高率であったことから,感染拡大が継続している中で,感染への不安,経済的不安,自粛生活に伴うストレス等の様々な要因が重なり,メンタルヘルスの問題を抱える人が多くなっていると考えられる。感染拡大注意都道府県がその他の都道府県に比較して高率であったことからも,感染拡大により,状況がさらに深刻化すると推測される。気軽に相談できる窓口の周知と相談員の傾聴力が重要である。また,感染拡大注意都道府県では,「望まない(予期しない)妊娠」「若年妊娠」「妊娠中絶」においてもその他の都道府県に比較して有意に高率であったことから,感染拡大状況が深刻化するにあたり,「望まない妊娠(予期しない)」が増加している可能性が明らかになった。
 神戸市の助産院を拠点とした妊婦向け相談窓口からの報告でも,寄せられる相談が急増しており,従来,毎月の相談は 30 人ペースであったが,2020 年 7 月には 152 人となり,10 代の相談が7割を占めており,収入減少や外出自粛や休校により,屋内で過ごす時間が長くなったとの声が目立つとの報告がある 18)。

 厚生労働省による「子ども虐待による死亡事例等の検証結果について(第 15 次報告)」によると,死亡時点における子どもの年齢について,心中以外の虐待死事例では,「0 歳」が 28 人(53.8%)で最も多い結果となっている。さらに,心中以外の虐待死での実母が妊娠期・周産期に抱えていた問題をみると,「遺棄」が 36.5%と最も多く,次いで「予期しない妊娠/計画していない妊娠」「妊婦健診未受診」「自宅分娩(助産師などの立会いなし)」が 30.8%を占めている 19)。また,「岡山県児童相談所への児童虐待通告事例解析の報告(2016 年)」によると,虐待の可能性は,母親が「望んでいなかった妊娠」の場合,「望んでいた妊娠」の場合に比較してはじめに 16.76 倍であることが明らかになっている 20)。以上のことから、望まない妊娠は児童虐待へとつながるリスクが高いことがわかる。
 涌井らは 21),現行の文部科学省学習指導要領では,妊娠については「受精・妊娠までを取り扱うものとし,妊娠の経過は取り扱わない」と明記されており,性交・避妊・中絶については取り扱わないため,児の誕生と性交が結びつかないことで,ただ快楽や背徳的なイメージのみが先行し,望まない妊娠・出産が起こってしまうとし,新型コロナウイルス感染拡大前にも,望まない妊娠等の日本の性教育が問題とされていた。今回の新型コロナウイルス感染拡大により,性教育の問題が顕著に表れており,性教育の見直しが求められている。早急な対応策としては緊急避妊薬の周知が重要であると考えられる。