リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

中絶方法 基本のき――日本編

どんな中絶が行われているの?

以下は基本であって、個々の医師のやり方は異なることがあります。

日本の初期妊娠中絶(妊娠12週未満):

  • 頸管拡張搔爬法(けいかん かくちょう そうはほう)

 英語ではdilatation & curettageでD&Cと略します。
 稀にdilation & curettageあるいはsharp curettageと表現されることがあります。

  • 吸引法 vacuum aspiration略VA


 VAには2種類あります

  • 「手動吸引法」manual vacuum aspiration 略MVA――大型の注射器のような器具の先端(カニューラ cannulaと呼ばれる細い管)を子宮の中に入れ、手で引っ張ることで中身を吸い出す方法
  • 「電動吸引法」electric vacuum aspiration 略EVA――機械式のポンプで子宮の中身を吸い出す方法


D&CとVAは、それぞれ単独で使うこともあれば、組み合わせて使うこともあり、後者は「併用法」と呼ばれます。
 日本の初期中絶はほとんどの場合全身麻酔 general anesthesiaで行われます。


中期中絶(妊娠12週以降~日本では法律のために妊娠21週まで):

  • プレグランディン膣座薬(商品名Pregrandin Vaginal Suppositories、一般名Gemeprost)と呼ばれる薬を使って子宮を収縮させ、内容物を外に排出させます。「分娩法」と呼ばれることもあります。
  • 中期中絶の前処置――子宮内容物が出てくるときの通り道になる頸管(膣の奥の固く細い部分)を広げておくために、水分を吸うと広がる細長いラミナリア稈(かん)laminaria stick やダイラパンdilapanなどの器具を挿し込んで、頸管を広げる前処置が必要になります。この前処置は非常に痛いと言われますが、日本の中期中絶では前処置も中絶処置も多くの場合無麻酔で行われているようです。
  • (頸管拡張)子宮内容除去法((けいかんかくちょう)しきゅうないよう 除去法)dilatation and evacuation 略D&Eは、海外では通常中期中絶で使われる外科的手法のことを指し、D&Cとは区別されていますが、日本ではD&Cの延長線上に位置付けられたリ、D&Cを含むより大きな概念として捉えている医師もいます。

 この方法でもやはりラミナリア稈またはダイラパンで頸管を開いておいて、手術道具を用いて子宮の内容物を外に取り出します。
 前処置については、日本では多くの場合麻酔なしで行われているようです。逆に中絶手術では、どの方法でも基本的に全身麻酔が使われているようです。

これら日本で使われている中絶方法のうち、WHOが「安全な中絶」に分類しているのはVAのみです。ただし、海外のEVAでは女性の身体に挿し込むカニューラはフレキシブルなプラスチック製のものを使うのがほとんどですが、日本では金属製のカニューラがスタンダードだという違いがあります。また、海外では麻酔の事故リスクを減らすためにMVAもEVAも局所麻酔 local anesthesia で行うのが標準です。
 日本ではほとんどのVAは全身麻酔で行われているため、それを考慮すると、厳密な意味では日本では世界標準の「安全な中絶」は用いられていないということになります。


以上の用語を対訳で並べておきます。

頸管拡張搔爬法(けいかん かくちょう そうはほう)
dilatation & curettage; D&C
(dilation & curettage, sharp curettage)

吸引法
vacuum aspiration; VA

手動吸引法
manual vacuum aspiration; MVA

電動吸引法
electric vacuum aspiration; EVA

カニューラ
cannula
(金属製metal cannula, プラスチック製 flexible plastic cannula)

プレグランディン膣座薬
Pregrandin Vaginal Suppositories
一般名Gemeprost

ラミナリア稈(かん)
laminaria stick

ダイラパン
dilapan

全身麻酔
general anesthesia

局所麻酔
local anesthesia