リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

薬価の基本

AnswersNews Plus - 製薬業界のキホンがよくわかるキーワード解説集 2018/06/07


とても分かりやすいのでご紹介しておきます。
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薬価とは
薬価とは、医療用医薬品(医師が処方する医薬品)の公定価格のことです。公的な医療保険が適用される医薬品の価格は、すべて国(厚生労働大臣)が決めています。病院や診療所で使われる薬の価格は、製薬会社が自由に決めているわけではありません。


薬価基準とは
公定価格である薬価をまとめたリストのことを薬価基準といいます。薬価基準には、2018年3月5日現在で1万6432品目が収載されています。


薬価基準に収載されている医薬品の数(2018年3月5日時点)。内用薬:1万235品目、注射薬:3827品目、外用薬:2324品目、歯科用薬剤:28品目。


薬価基準には2つの大きな役割があります。1つが公的医療保険で使える薬の「品目表」としての役割と、もう1つが公的医療保険で使える薬の価格を定めた「価格表」としての役割です。


品目表としての役割
公的医療保険では、医師や薬剤師は原則として「厚生労働大臣の定める医薬品以外の医薬品を使用してはならない」と定められています。そして、この「厚生労働大臣が定める医薬品」は「薬価基準に収載されている医薬品」と規定されています。 つまり薬価基準は「保健医療で使っていい薬」のリストで、これが品目表としての役割になります。

●保険医療機関および保険医療養担当規則(第19条)
保険医は、厚生労働大臣の定める医薬品以外の薬物を患者に施用し、または処方してはならない。

保険薬局および保険薬剤師療養担当規則(第9条)
保険薬剤師は、厚生労働大臣の定める医薬品以外の医薬品を使用して調剤してはならない。

価格表としての役割
公的医療保険で薬を使った場合、医療機関や薬局は、薬の費用を薬価基準で定められた価格に基づいて算定します。薬価基準は、医療保険で使った薬剤の請求額を定めたもの、という点で価格表としての役割も持っています。


薬価改定とは
薬価改定とは、公定価格である薬価を見直すことです。通常の薬価改定は2年に1回、4月の診療報酬改定にあわせて行われます。ここで決まった薬価は、次の改定まで変わりません。

医薬品卸→医療機関・薬局への販売価格は自由
医療機関や薬局は、患者に処方したり調剤したりした薬の費用を、薬価基準で定められた公定価格に基づいて請求します。ところが、製薬企業から医薬品卸売業者に販売される価格や、医薬品卸売業者から医療機関・薬局に販売される価格は、当事者間で自由に設定することができます。


医療用医薬品の市場は、表向きは公定価格制度でありながら、その裏では一般的な消費財と同じように自由な価格競争が繰り広げられているのです。


医療機関・薬局にとっては、卸からの仕入れ値と公定価格である薬価の差額はそのまま利益になります(これを薬価差益という)。医療機関・薬局は可能な限り薬を安く仕入れようとするので、卸と医療機関・薬局の間では薬価を下回る価格で取り引きが行われています。


薬価改定の基本の図表。製薬企業から医薬品卸への販売価格、医薬品卸から医療機関や薬局への販売価格は自由。医療機関や薬局から患者へ処方・調剤の価格が公定価格=薬価。

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市場実勢価格に合わせて薬価を引き下げる
薬価改定は、実際に卸から医療機関・薬局に販売された価格(市場実勢価格)に合わせて薬価を引き下げるのが基本です。2000年以降は1回の改定でだいたい5~7%引き下げられています。2018年度の改定では、薬価制度の大きな見直しがあったため、引き下げ率は7.48%と大きくなりました。


2年に1回、強制的に価格を下げられる薬価改定は、製薬企業の経営に大きなダメージを与えます。さらに、2018年度の薬価制度改革では、通常の薬価改定の谷間の年にも、一部の薬について薬価改定を行うことが決まりました。


通常改定の谷間の年に行われる改定は2021年度から始まることになっていますが、2019年度には消費税率引き上げに伴う改定が予定されており、実質的には2018年度以降、毎年薬価改定が行われることになります。


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16年度、18年度、20年度は通常の薬価改定(全品目対象、2年に1回)。19年度には消費増税に伴う薬価改定が予定されているほか21年度には一部品目を対象とした谷間の年の改定がスタートすることにより、薬価は毎年改定に。


薬価がつかない薬
日本の制度では、医薬品医療機器等法に基づいて承認された薬で、かつ公的医療保険でカバーされる診療に必要な薬(=医療用医薬品)は全て薬価を決め、薬価基準に収載するのが原則です。しかし、医療用医薬品の中には薬価がつかず、薬価基準にも収載されない薬があります。


治療目的でない薬は薬価収載されない
健康保険法では「疾病または負傷に関する『診察』『薬剤または治療材料の支給』『処置、手術その他の治療』」に対して保険給付を行うと定められています。つまり、病気やケガの「治療」を目的とする薬には保険が適用されますが、そうでないもの、具体的には病気の「予防」に使う薬や、「生活の改善」に使う薬は、医療用医薬品であっても保険はきかず、薬価基準にも収載されません。

●健康保険法(第63条)
被保険者の疾病または負傷に関しては、次に掲げる療養の給付を行う。
一 診察
二 薬剤または治療材料の支給
三 処置、手術その他の治療
四 居宅における療養上の管理およびその療養に伴う世話その他の看護
五 病院または診療所への入院およびその療養に伴う世話その他の看護


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予防に使う薬としては、インフルエンザなどの各種ワクチンが挙げられます。生活改善薬には、勃起不全治療薬「バイアグラ」や男性型脱毛症薬「プロペシア」、緊急避妊薬「ノルレボ」などがあります。こうした薬を使う場合は自由診療となり、費用は全額、患者の自己負担。患者が支払う薬の値段も医療機関が自由に設定できます。


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このほか、体外診断用医薬品も薬価収載されません。体外診断用医薬品とは文字通り、病気の診断に使われるもので、血液や尿などを体の外で検査するための薬です。また、一般用医薬品OTC)も医療用医薬品ではないので薬価収載されません。


他に情報医療ナレッジというサイトも見つけました。こちらも分かりやすいです。
薬と医療制度~「薬価制度とは」~ - データインデックス

薬と医療制度 2018年04月更新
薬と医療制度~「薬価制度とは」~
 日本では、医療用医薬品の価格について、製薬企業ではなく国が定める「薬価制度」をとっています。他の一般的な商品やサービスとは価格の設定方法が大きく異なるため、価格がどのように定められているかイメージを持ちにくいのではないでしょうか。
 そこで、今回は薬価制度について説明します。


薬価とは
 医薬品は、医療用医薬品とOTC医薬品の2つに大別されます。医療用医薬品とは、医療機関などで医師から処方される薬のことです。一方、OTC医薬品とは、処方を必要とせず、ドラッグストアなどで購入することができる薬のことです。
保険医療で用いられる医療用医薬品は、国が価格を定め、「薬価基準」に収載されます。2018年3月時点で薬価基準に収載されている医療用医薬品は、約15,000品目となっています。
 一方で、OTC医薬品の価格は製薬企業が定めることができ、薬価基準には収載されないため、OTC医薬品の価格を薬価とは呼びません。メーカー希望小売価格や販売価格など、一般的な商品と同じ呼称となります。
このように、薬価基準に収載された医療用医薬品の価格を薬価といいます。


薬価の設定方法
 それでは、国はどのように薬価を決めているのでしょうか。ここでは、薬価を定めるための基準をいくつか紹介します。


新薬の薬価算定方法
 製薬企業は、新薬を開発してもその医薬品が薬価基準に収載されるまでは販売することができないため、国に対し薬価基準収載の申請を行います。申請を受けた国は、次のような算定方式に沿って薬価を定め、製薬企業へ結果を通知します。


1.類似薬効比較方式
新薬と同じような効果を持つ医薬品(以下、類似薬)が既に存在するかどうかを調査し、類似薬が存在する場合は、類似薬と大きな価格の差が生じないように調整します。ただし、類似薬と比べてより優れた効能や安全性など、高い有用性が認められる場合は、価格の加算をします。


2.原価計算方式
新薬に類似薬が存在しない場合は、原材料費や製造経費などから算出します。既存の治療と比較した場合の有用性の程度に応じて、営業利益の予測額を加算します。


3.外国平均価格調整
新薬の薬価を定める際は、諸外国と大きな価格の差が生じないように価格を調整します。比較の対象国は、「自由価格制度」をとっているアメリカ、イギリス、ドイツ、フランスです。各国の価格の平均額と比較して、大きな差が生じないよう基準値を設けています。


既収載医薬品の薬価改定
 一度定められた医薬品の薬価は不変ではなく、2年に1度の定期的な見直しが行われます。この価格の見直しを「薬価改定」と呼び、原則として改定の度に薬価は引き下げられます。薬価が引き下げられる理由は、新薬が発売された後に類似の新薬が薬価収載されたり、ジェネリック医薬品が薬価収載されたりすることで、希少性が低下し新薬としての価値が下がるためです。


ジェネリック医薬品の薬価収載
 ジェネリック医薬品とは、新薬の特許が切れ、他の製薬企業も同じ成分の医薬品を製造できるようになった医薬品のことです。ジェネリック医薬品は、新薬における有効性や安全性などに基づいて開発されるため、開発費を抑えることができ、新薬と同等の効果を有し、かつ新薬に比べ低価格で製造することができます。
 なお、薬価制度においては、ジェネリック医薬品を「後発医薬品」と呼ぶのに対し、最初に開発された新薬を「先発医薬品」と呼びます。
 ジェネリック医薬品の薬価は、先発医薬品の薬価によって定められます。ジェネリック医薬品が初めて薬価基準に収載される時の価格は先発医薬品の約50%とされ、薬価改定で先発医薬品の価格が変わるのと同様にジェネリック医薬品の薬価も改定されます。


国によって異なる薬価制度
 日本では、国民皆保険制度により、国民は公的医療保険で保障されています。そのおかげで、私たちは公平な医療を受けることができ、世界最高レベルの平均寿命と保健医療水準を実現しています。この保険医療に使用できる医薬品とその価格を定める制度が、薬価制度です。
 これに対し、薬価制度のない諸外国は、製薬企業が医薬品の価格を定める自由価格制度となっています。製薬企業が価格を定め多くの利益を得られるようになると、数千億円とも言われる莫大な費用がかかる新薬の研究開発に取り組みやすくなります。患者さんの立場から考えた場合、新薬を使用できるようになり、治療の選択肢が増えることにつながります。
 一方で、自由価格制度においては、それまで低価格であった薬が何倍にも高くなった事例や、薬が高額なため治療が受けられない事例などが発生し、問題視されています。自由価格制度は、負担する医療費が高くなることで治療を受ける患者さんが減少し、結果として製薬企業にとっての不利益につながりかねません。
しかしながら、薬価制度にも問題点はあります。


薬価制度が私たちの生活に与える影響
薬価改定の見直しについて
 2013年度に40兆円を突破した年間国民医療費は、人口動態最大である団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年を控え、更に増大し続けると言われています。国は、ジェネリック医薬品の普及やセルフメディケーションの推進などの医療費抑制のために対策を行っていますが、効果は十分でなく、このままでは国民皆保険制度の存続も危ぶまれる状況です。
 そこで、新たな対策として薬価を毎年改定する案が検討されようとしています。これまで2年毎に行われていた薬価改定を1年毎にすることで、薬価を引き下げる回数を増やし、医療費を抑制することが狙いです。
 しかし、薬価改定の調査にかえってコストがかかる点や、製薬企業における新薬研究開発のイノベーションを萎縮させるという問題などが指摘されており、今後の議論の行方が注目されます。


イノベーションの評価について
 薬価の引き下げは、国の医療費抑制や国民の医療費負担の軽減にもつながる反面、製薬企業の利益が減少し新薬の研究開発が難しくなってしまう問題があります。
例えば、C型肝炎治療薬「ソバルディ」は、2015年に画期的な新薬として発売され、それまで長期間の治療が必要だったC型肝炎が12週間でほぼ完治できるようになりました。「ソバルディ」は日本でも多く処方され、薬価も高額であったために医療費の高騰を招きましたが、2016年に薬価の引き下げが行われたことにより更に多くの患者さんに使用され、C型肝炎の患者数は減少しました。
 「ソバルディ」を発売した製薬企業は、C型肝炎に苦しむ患者さんを減らすという大きな社会貢献を果たしましたが、薬価の引き下げと治療効果による患者数の減少により、「ソバルディ」の売上は大きく減少しました。その影響もあり、国内の医療用医薬品の売上が2017年は7年ぶりに前年を下回ったほどです。つまり、大きな社会貢献を果たしたにも関わらず、イノベーションの評価が十分にされなかったため、製薬企業の利益が縮小する結果になりました。このような事態を避けるために、国は医療費の削減だけではなく、製薬企業の社会貢献を評価した薬価を定める必要があります。


薬価制度の重要性
 私たちの生活において健康問題は一番の不安要因といえますが、日本における国民皆保険制度は、公平・平等な医療を提供し、この不安を軽減する役目を担っています。もしも国民皆保険制度を維持できなければ、将来的な健康不安は増大し個々の保有資産を投資から貯蓄へ移行させ、経済の停滞を招く危険性さえあり得ます。
 この国民皆保険制度における薬価制度は重要な検討項目のひとつですが、薬の効果に対する評価をはじめ海外との価格の差に至るまで、多くの視点からバランスを取る必要があるため、薬価を定めることは容易ではなく、算定方法やルールについて常に議論が行われています。
 私たちが保険医療を受ける際に支払っている薬の価格は、このように複雑な検討を経て定められ、私たちの生活と密接に関係しています。
 皆さんも薬価制度の動向に関心を持ってみてはいかがでしょうか。


―参考資料―
厚生労働省「日本の薬価制度について」(2016年6月23日)
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11123000-Iyakushokuhinkyoku-Shinsakanrika/0000135596.pdf

厚生労働省「現行の薬価基準制度について」(2016年11月30日)
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000144409.pdf

厚生労働省中央社会保険医療協議会
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-chuo.html?tid=128157