リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

2月28日に提出した内容

経口中絶薬メフィーゴパックに対するパブコメ

 日本では従来、妊娠早期の中絶には外科的手法しかありませんが、人権および医療の観点より内科的な中絶方法の選択肢は不可欠です。そのため、このたび承認申請されているラインファーマ社の経口中絶薬メフィーゴパックを承認し、アクセスのよい形で提供することを求めます。
1.メフィーゴパックを承認して下さい
 このミフェプリストンとミソプロストールのコンビ薬(二薬をセットにした製品)は、1988年に中国とフランスで使われ始めて以来、世界各地に広まり、現在は80か国以上で使われています。この薬を導入していない先進国は日本のみだと言われています。
 この薬を用いた内科的中絶は、WHOが2003年のガイドライン『安全な中絶』で外科的な吸引法と並んで「安全な中絶方法」として推奨されています。さらにこの薬は、2005年からWHOの『必須医薬品モデルリスト』に入り、2019年からは同リストの「中核リスト」に収載されています。中核リストに収載されるためには、非常に安全で効果が高いことはもちろん、取扱い方法が簡単で、値段も手ごろで誰でも使えることが重要な条件になっています。
 この優れた薬を、ぜひ日本でも早期に導入するために、まずはこの薬を承認してください。

2.この薬を厳重管理しないで下さい
 このたびのパブリックコメントの資料「メフィーゴパックの概要」によると、厚生労働省は、この薬を中期中絶薬プレグランディンと同様の厳格な流通および使用方法で取り扱う予定のようです。しかし、それは大きな間違いです。なぜならば、メフィーゴパックとプレグランディンは世界では全く別々の位置づけをされている薬だからです。
 メフィーゴパック(上述コンビ薬)は、先に述べた通りWHOの必須医薬品中核リストに入っているほど安全・有効な薬であり、WHOが2022年3月に発行した新しい『中絶ケア ガイドライン』では、妊娠12週までの薬による中絶を行うために、医師(専門医以外も含む)のみならず助産師や看護師、准看護師や薬剤師、中絶を望む本人でもこの薬を扱うことが「推奨」されています。ところが、一方のプレグランディンは全くもってWHOの推奨外であり、上記新ガイドラインには名前も見当たらないような薬です。
 プレグランディンとミソプロストールは基本的に同じ作用をもつプロスタグランジン製剤ですが、世界では後者の方がより良い薬であるとのエビデンスが示されています。ミソプロストールは安くて(1回4錠で100円程度)常温保管が可能で経口と経腟の二経路で使用可能であるのに対し、プレグランディンは高額で(1回1個投与で4000円を3回ほど繰り返す)冷凍保管が必要で、経腟でしか投与できないためです。日本で中期中絶にもっぱら使われているプレグランディンは、今回の経口中絶薬の手本とすべき薬どころか、1997年に厚労省が子宮破裂や子宮頚管裂傷の恐れがあると注意喚起を行っているような薬であるため、むしろミソプロストールに置き換えていくべき薬なのです。リスキーでアクセスの悪い薬に合わせた取扱いをするなど本末転倒です。より良いアクセスを求めます。

3.この薬をすべての人に手に届く形で提供して下さい
 メフィーゴパックの使用を日本産婦人科医会の会員(母体保護法指定医師)のみに限定している現行の法制度は、この薬を必要とする人にとっての障壁となるため、変えていく必要があります。現行の刑法堕胎罪と母体保護法は指定医師にしか中絶ケアを行えないとしてきましたが、それは外科的中絶(特にそうは法)を前提してきたためです。WHOは2003年以来、でそうは法(D&C)を「安全な方法」とはみなさず、より安全な「吸引法」か「薬による中絶」に移行することを求めてきました。また、より多くの職種が取り扱えるようにすべきです。
 日本産婦人科医会の医師たちは、この薬を「入院」させて服用され、その費用は「従来の外科的手法と同様の10万円」にするなどと発言してきましたが、それではこの薬にアクセスできなくなる当事者を増やすばかりです。世界的にすでにスタンダードである経口中絶薬を必要とするすべての人々に届けていくために、法制度を変えるための施策に乗り出して下さい。

4.中絶ケアを必要とするすべての人の人権を保障して下さい
 今や国連では安全な中絶(妊娠初期の中絶では吸引法や内科的中絶)を受けられることは女性と少女(ならびに妊娠しうるすべての人々)の権利であると明記している時代です。女性の人権が反映されていない古い法律や外科的中絶を前提とした中絶医療制度そのものも改善していく必要があります。日本ではリプロダクティブ・ヘルス&ライツが理解されず、政策に組み入れられてきませんでした。この分野の研究を発展させ、政策に反映するための仕組みを作って下さい。
以上