リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

FIGOの声明 2022年2月

FIGO Calls for the Total Decriminalisation of Safe Abortion

FIGO Calls for the Total Decriminalisation of Safe Abortion

仮訳してみます。

FIGOは安全な中絶の完全な非犯罪化を要求します

中絶の非犯罪化とは、中絶に対する具体的な刑事制裁を法律から取り除くことを指します。これは、中絶医療の提供を慎重に規制しないという意味ではありません。法律や関連する政策、規制を変更し、安全な中絶を行うことや中絶を行うことを理由に、誰も罰せられないようにすることを意味しています1。実際には、非犯罪化とは、警察や法制度が安全な中絶の捜査や訴追に関与しないことを意味します。その代わり、中絶のケアは医学における他の重要な健康問題と同じように扱われ、そのケアの標準は最善の実践ガイドライン、トレーニング、提供に基づいています。対照的に、中絶法が完全に非犯罪化されたわけではなく、自由化されたに過ぎない国々では、最善の実践ガイドラインに従った安全な中絶であっても、訴追の対象になる可能性があります。

法律で中絶を制限しても中絶は減らず、危険な中絶や予防可能な妊産婦の死亡や障害が増えるばかりであることの証拠は世界中にあります。2 同様に、非犯罪化は中絶率の上昇をもたらすのではなく、むしろ危険な中絶から安全な中絶への移行をもたらし、多くの場合、女性が望まない妊娠をさらに防ぐ避妊カウンセリングも受けられる包括的なサービスもいっしょに行われています。

この問題に対するFIGOの立場
安全な中絶は基本的人権です
FIGOは、安全な中絶サービスの利用を含む生殖に関する自律性は、世界中のすべての女性と少女の基本的かつ譲れない人権であると考えています。3 安全な中絶の提供は、時間的制約のある必要不可欠な医療です。4 安全な中絶のケアは、要請しだいで受けられるべきであり、あまねく安価に提供され、可能な限り早く、また必要な限り遅くまで利用可能であるべきです。

現行の法的・政策的制限は女性と少女に対して差別的であり、プライバシー権、身体の自律性と統合性、エンタイトルメント(権限)など、その他の人権へのアクセスに影響を与える可能性があります。制限をかけることで女性と女児は疎外され、危険な中絶を受けるリスクが高まり、予防可能な妊産婦死亡と障害の比率を上昇させることになります。女性の権利よりも胎児の権利に基づいて制限をかけることは、ある時点で胚/胎児が妊婦と同等かそれ以上の保護を受ける権利があることを意味しています。

子どもの権利条約を含む国連の人権条約の発展の歴史と、その後の公式解釈機関による生命への権利条項の解釈においては、生命への権利に関する条約の条項は出生後にのみ適用されることを示しています。実際、いかなる人権機関も、妊娠を終わらせることの承認が、生命への権利を含む人権と相容れないと判断したことは一度もありません。基準となるのは、人権保護が出生前ではなく出生後に適用されることを反映しています。5

国連人権高等弁務官事務所UNFPA およびデンマーク人権研究所と連携して発行した『リプロダクティブ・ライツは人権である:国内人権機関のためのハンドブック』(原題:Reproductive Rights is Human Rights:A handbook for national human rights institutions)によれば、「権利とは、すべての夫婦および個人が、子どもの数、間隔、時期について自由かつ責任を持って決定し、そのための情報および手段を有する基本的権利、ならびに最高水準の性的および生殖的健康を獲得する権利に対する認識にかかっている。また、人権に関する文書で表明されているように、「差別、強制、暴力のない生殖に関する決定を行う権利も含まれる6」と明示されています。

非犯罪化すればエビデンスに基づくベストプラクティスが促進されます
中絶の犯罪化は、臨床的なベストプラクティスと、性と生殖に関する健康と権利の完全な実現を妨げるものである。世界中の現在の中絶法は、臨床的な証拠に基づかない制限を課しており、必然的に予防可能な遅延と害を引き起こしています7 。このような制限は、自己管理の実践における多層的な医療専門家および女性自身の役割を支持するエビデンスを反映していません。

非犯罪化すればスティグマが除去され安全なケアへのアクセスが拡大します
中絶の犯罪化は、医療専門家の仕事を妨げています。実際に起訴されたり、あるいは起訴されるかもしれないという脅威があったりすると、医療専門家は中絶サービスを承認したり、実施したり、情報やカウンセリングを提供したりすることに消極的になるかもしれません。その結果、女性や少女は、治療してくれる医師や治療できる医師が見つからなくなり、望まない妊娠を継続するはめになるかもしれません。また、死や障害を受けるリスクを伴う違法のまたは安全でない手段に頼る人も出てくるかもしれません。犯罪化は、中絶提供者と中絶を必要とする人、あるいは中絶した人の双方に汚名を着せる一因になっています。

中絶の犯罪化は、危険な結果を伴う曖昧さを引き起こします。ほとんどの国が中絶を許可する根拠を明記していますが、それらは曖昧で、自由にあるいは狭く解釈され、異なる環境で異なる形で実施されたり、まったく実施されなかったりすることがあります。法律間の非整合も混乱を招き、国内で国内法の範囲内でサービスを提供することが困難か不可能に近くなります。

FIGOの提言
FIGOは、安全な中絶の完全な非犯罪化を求め、強制、強要、暴力、差別のない、中絶、中絶後のケア、エビデンスに基づく偏りのない中絶関連情報への普遍的なアクセスを促進することを求めます。中絶は刑法から削除し、他のあらゆる医療行為と整合性のある法律で規制されるべきであり、またケアの中心に女性と少女のウェルビーイングを据えるべきです。

FIGOは、中絶医療へのアクセスと提供に影響を与える法律が世界中で施行されており、各国内で現状の法規制から非犯罪化の状態に移行されなければならないことを認識しています。女性と女児がリプロダクティブ・ライツを完全に享受し、男女平等の全体的な強化から利益を得ることができるよう、あらゆる可能な努力を払わなければなりません。

FIGOは各国政府ならびに保健担当省庁に以下を呼びかけます:
・ 中絶が常に安全、合法、かつアクセス可能であることを保障する規制と法的環境を構築すること。女性差別撤廃委員会および国連健康への権利に関する特別報告者8を含む人権機関によって認められたものを基準とすること。
・ 他のリプロダクティブヘルスサービスとの連携を図りながら、中絶医療に関する情報、カウンセリング、サービスを提供する強固な医療システムを確保すること。
・ 医療従事者が世界保健機関(WHO)のガイドラインまたは国の基準に従って免許を取得し、訓練を受けているようにすること9。カウンセリング、手術の時期や方法、中絶を行う場所や条件は、イデオロギーに基づくのではなく、医学的エビデンスに基づいていなければなりません。
・ 中絶による合併症に苦しむ女性や少女が、中絶の法的地位にかかわらず、尊重された機密保持の医療サービスを利用できるようにすること。 違法な中絶を受けた後に中絶後のケアを求める女性や少女が、医療専門家によって法執行機関に報告されないようにしてください。

FIGOは、すべての加盟団体と医療専門家に対し、以下を強く要請します:
・ 現在の国内法の下で許可されている最大限の範囲で、中絶サービスを実施してください。
・ 現在の国内法が、リプロダクティブ・ライツに最も関連する地域的・国際的な法的拘束力のある人権基準(安全かつ合法的な中絶へのアクセスを含む)に適合していることを確認するようにしてください。
・ 法律を最大限リベラルに解釈し、ガイドライン内の明確化を求め、整合性を持たせてください。
・ 医療従事者、司法・警察関係者、一般市民を対象に、現実的に最大限の履行とはどのようなものか(国内・地域・国際人権拘束基準の履行を含む)についての研修を実施してください。
・ 特に、社会的に疎外されている女性や少女、人道的危機に直面している人々、貧困にあえぐ人々、青少年に対する中絶のアクセスと実施について徹底的に検討してください。これらのグループは、中絶が非犯罪化されているところでも、危険な中絶や予防可能な妊産婦死亡および障害を負うリスクが高くなっています。
・ 意思決定、政策、アドボカシーに情報を提供するため、データ収集ツールやエビデンスの統合を強化し、現地の状況に適用させてください。
・ 国会議員、医療専門家、法律専門家、女性・人権団体、家族計画支援者、女性や少女自身と力を合わせ、中絶の非犯罪化・合法化を目指す地域・国内・国際キャンペーンとの間に、支援的パートナーシップを構築してください。

FIGOのコミットメント
FIGO は、以下の行動を取ることを約束します:

・ 中絶を受ける女性と少女、および中絶を提供する医療専門家が犯罪や汚名を着せられることがないよう、加盟団体や政府と共に提唱します。
・ 中絶の完全な非犯罪化と、不必要な臨床的、官僚的、医学的、法的規制の撤廃を世界中で国際的に推進します。
・ 政府、地域、国際機関を含むそれぞれの関係者と協力して、人権および生殖に関する権利として中絶サービスを実施し、一連のリプロダクティブ・ヘルス・ケアの提供を犯罪として制限する法律、規制、政策の障壁および行動を除去します。

References

1 Berer M. Abortion Law and Policy Around the World: In Search of Decriminalization. Health and Human Rights. 2017 Jun;19(1):13–27.
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5473035/
2 World Health Organization (WHO). Safe abortion: technical and policy for health system. 2012. www.who.int/reproductivehealth/publications/unsafe_abortion/9789241548434/en
3 Chervenak F, McCullough LB (eds). Ethics and Professionalism Guidelines for Obstetrics and Gynecology. FIGO. 2021. www.figo.org/sites/default/files/2021-11/FIGO-Ethics-Guidelines-onlinePDF.pdf
4 FIGO. Abortion Access and Safety with COVID-19 – March 2020 guidance. 2020. www.figo.org/abortionaccess-and-safety-covid-19-march-2020-guidance
5 Center for Reproductive Rights. Whose Right to Life? Women’s Rights and Prenatal Protections under Human Rights and Comparative Law. 2014. https://reproductiverights.org/wpcontent/uploads/2020/12/GLP_RTL_ENG_Updated_8-14_Web.pdf
6 Office of the United Nations High Commissioner for Human Rights, United Nations Population Fund, Danish Institute for Human Rights. Reproductive rights are human rights: a handbook for national human rights institutions. 2014.
7 Alam B, Kaler A, Mumtaz Z. Women’s voices and medical abortions: A review of the literature. European Journal of Obstetrics & Gynecology and Reproductive Biology. 2020;249: 21–31.
8 Erdman JN, Cook RJ. Decriminalization of abortion – A human rights imperative. Best Practice & Research Clinical Obstetrics & Gynaecology. 2020;62: 11–24. https://doi.org/10.1016/j.bpobgyn.2019.05.004
9 World Health Organization (WHO). Safe abortion: technical and policy for health system. 2012. www.who.int/reproductivehealth/publications/unsafe_abortion/9789241548434/en


FIGOについて
FIGOは、世界各国から130以上の産科婦人科学会が集まる専門家会員制組織です。FIGOのビジョンは、世界中の女性が生涯を通じて、身体的、精神的、生殖的、性的な健康と幸福を最高水準で達成することです。このビジョンを達成するための私たちの活動は、教育、研究の実施、アドボカシー、能力開発の4つの柱で構成されています。

FIGOは、特にサハラ以南のアフリカと東南アジアに重点を置き、グローバルなプログラム活動を主導しています。特に、生殖に関する、母性に関する、新生児・児童・思春期の健康とウェルビーイング、非感染性疾患(SDG3)に関する持続可能な開発目標(SDGs)についてグローバルな舞台で提唱しています。また、女性の性器切除(FGM)やジェンダーに基づく暴力(SDG5)への取り組みなど、女性の地位向上とリプロダクティブ&セクシュアル・ライツの実現に向けた積極的な参加を可能にするための活動にも取り組んでいます。

また、加盟学会への教育・研修の提供やリーダーシップの強化、グッドプラクティスの翻訳・普及、政策対話の推進を通じて、低資源国の学会員の能力構築も行っています。

FIGOは、世界保健機関と公式な関係を結んでおり、国連との協議資格を有しています。

私たちが使う言葉について
私たちの文書では、しばしば「女性」、「少女」、「女性と少女」という用語を使用しています。私たちは、婦人科・産科サービスの利用を必要とするすべての人が、女性または少女であると自認しているわけではないことを認識しています。性自認にかかわらず、すべての人が適切で、包括的で、繊細なサービスとケアへのアクセスを提供されるべきです。

私たちは、「家族」という言葉も使っています。この場合、私たちは、感情的なつながりを形成し、社会の単位として機能する認知された集団(おそらく血縁、結婚、パートナーシップ、同棲、養子縁組によって結ばれたもの)を指しています。

FIGOは、私たちが使用する言葉の一部が、自然に包括的でないことを認識しています。私たちは、包括的な政策、プログラム、サービスを開発し、提供するという私たちのコミットメントを示すために、人々、健康、ウェルビーイング、権利を表現するために使用する言葉やフレーズの徹底的な見直しに着手しているところです。

お問合せ:Rob Hucker, Head of Communications and Engagement
rob@figo.org  +44 (0) 7383 025 731

Referencing this statement
International Federation of Gynecology and Obstetrics.
FIGO Calls for the Total Decriminalisation of Safe Abortion. 2022. Available from: www.figo.org/resources/figo-statements/figo-calls-total-decriminalisation-safe-abortion