リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

同意堕胎罪・業務賞堕胎罪における母体への「同意傷害」――「同意傷害」にかんするわが国の学説の問題点

田中圭二 高岡法学1994年3月 第5巻第1・2号合併号

同意堕胎罪・業務賞堕胎罪における母体への「同意傷害」――「同意傷害」にかんするわが国の学説の問題点

母体保護法第十四条では「本人の同意」を要件にしている。

第三章 母性保護
(医師の認定による人工妊娠中絶)
第十四条 都道府県の区域を単位として設立された公益社団法人たる医師会の指定する医師(以下「指定医師」という。)は、次の各号の一に該当する者に対して、本人及び配偶者の同意を得て、人工妊娠中絶を行うことができる。
一 妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの
二 暴行若しくは脅迫によつて又は抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫かんいんされて妊娠したもの
2 前項の同意は、配偶者が知れないとき若しくはその意思を表示することができないとき又は妊娠後に配偶者がなくなつたときには本人の同意だけで足りる。

本人の同意がない母体保護法指定医師による人工妊娠中絶は違法性阻却されず「不同意堕胎罪」になるが、本人が堕胎に必然的に伴う「傷害」に同意していない場合は、不同意堕胎ですらなく「傷害罪」に問われることになる。

たとえば、薬による中絶を望む患者が母体保護法指定医師にその旨を希望し、指定医師が自分のところでは薬による中絶は行っていないとして外科的中絶を強行した場合、患者は内服薬による傷害(通常より小さいと思われる)は承知していても外科的中絶によるより大きな傷害については同意していないことになるため、医師は不同意堕胎罪ではなく傷害罪に問われることになるのではないか。

WHOの新『中絶ケアガイドライン』で、複数の「安全な中絶」を提供し、女性に選択させよと言っているのは、上述のようなケースも想定されているのかもしれない。